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〈ほしい未来〉と出会う2つのパターン。 煩悩を転じて 「ほしい未来」を描く「MOYAMOYA研究」のすゝめ②

【19/10/31 追記】最新版「MOYAMOYA研究」の記事を公開しました!

「本来の自分 × ほしい未来 × リソース × デザイン = ソーシャルデザイン!」というソーシャルデザインの公式の中から、〈ほしい未来〉にフォーカスするミニ連載。

前回の記事では、〈ほしい未来〉の具体的な例として、いまは絶版となったgreen Books vol.1『みんなのソーシャルデザイン宣言』の中から、十数名の〈ほしい未来〉を抜き出してみました。

今回はどんなときに〈ほしい未来〉と出会うのか、2つのパターンを整理してみたいと思います。


内ファーストか、外ファーストか

とはいってもいたってシンプルで、2つのパターンとは最初のきっかけは内から湧き上がってきたのか、それとも外からふとやってきたのか、ということです。結論としては、どちらが最初のきっかけだとしても、やがてふたつが重なったときに〈ほしい未来〉として結実してゆきます。

ひとつめの「内からの外」とは、自分が抱えているモヤモヤする原体験が、ふとしたきっかけで「自分だけではなかった!」と気づいていくプロセスです。その結果として、自分のためでもあり、他者のためでもある〈ほしい未来〉へと発展していきます。

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一方、「外からの内」とは、世の中の衝撃的なニュースを見てしまったり、大切な誰かの相談に乗ったりしているうちに心が動かされ、本来は他者のためだった〈ほしい未来〉が、いつのまにか"自分ごと"となっていくのです。

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「ダンスと子どもが切り離されることに違和感があった」

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「内からの外」の代表例が、100台ベビーカーダンスです。

代表を務める吉沙也加さんはダンス歴25年、新体操全日本Jr選手権で入賞するほどの実力の持ち主でした。今では4人のお子さんがいらっしゃいますが、ひとり目を出産後、慣れない育児で産後うつ状態になってしまったそう。そんな辛い日々を抜け出すきっかけとなったのが、大好きなはずのダンス教室で感じたひとつの違和感でした。

ダンスをすれば元気が出るかもしれないと、託児付きのダンススクールに通ったんですが、どうしても子どもが泣いてしまうとレッスンを中断しなくてはならなかったんです。でも、そうして大好きなダンスと子どもが切り離されていくことにだんだん違和感を覚えるようになりました。

ダンスで子育てをもっと輝かせる!親子の触れ合いを楽しむ「100台ベビーカーダンス」|greenz.jp

そんな吉さんにとってのほしい未来は、育児をすることが拍手喝さいを受ける未来でした。そしてそれに向かって誕生したのが「ベビーカーがあるからこそ踊れるダンス」です。

ダンス未経験者でもOKで、ベビーカーを押しながら軽やかにステップを踏んだり、ベビーカーの前に回り込んで、親子で触れ合ったり、親だけでなく子どももリズムにのって一緒に楽しめます。その心からの笑顔が、育児をもっと輝かせることにつながる、と吉さんは言います。


何もできていない自分に「何してるんだ?」といらだった

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「外から内へ」の代表例は、2018年度のグッドデザイン大賞を受賞したおてらおやつクラブでしょう。

代表の松島さんが「おそなえもの」をひとり親家庭の支援につなげることを思いついたきっかけは、新聞に掲載された「大阪子どもの貧困アクショングループ(CPAO)」の活動を紹介する記事でした。

CPAO代表の徳丸ゆき子さんは、2013年5月に大阪市北区のマンションで母子が餓死状態の遺体で見つかった事件を知り「都会の片隅で誰にも相談できない母子を助けたい」と行動を起こします。

それまでにも、ひとり親家庭で子どもが亡くなる事件がある度に「何かしたいな」と思いつつ何もできていない自分に「何してるんだ?」といらだつ気持ちもあったんですね。まさにその事件をきっかけに動き始めた人がいると知って、すがるような思いで会いに行ったんです。

仏さまの“おさがり”で子どもたちを笑顔に! ひとり親家庭支援活動「おてらおやつクラブ」代表・松島靖朗さんと考える、100年続く活動のかたち|greenz.jp

徳丸さんは「おやつを送りたい」という松島さんの申し出を喜び、お母さんたちを紹介してくれました。しかし、関われば関わるほど、夜逃げ状態でどんどん居所が変わって荷物を受け取れないお母さんがいるなど、一筋縄ではいかない現状を松島さんは目の当たりにすることになります。

そうしているうちに「やるからにはもっとしっかり関わりたい」と、ひとり親家庭のためにお寺ができることを真剣に考えはじめ、ご縁による生きやすさを実感できる未来という松島さんならではの〈ほしい未来〉と出会ったのでした。 


自分のモヤモヤは世の中を代表している

内ファーストでも、外ファーストでも、その種にはモヤモヤがあることは共通してます。違うとすれば、その対象が自分に起こった出来事なのか、世の中で起こっている出来事なのか、ということです。

とはいえ、大げさかもしれませんが、夫婦ゲンカも国家間の紛争も、コミュニケーションや対話不足に起因するコンフリクトが顕在化したものだとすれば、自分と社会は意外と相似の関係にあるともいえます。そして多くの場合、自分に起こった出来事は、世の中で起こっている出来事を何らかのかたちで代表しています。つまり、自分のためのアクションは、同時に他者のためでもあるのです。

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だからこそ、ひとりひとりのモヤモヤを捨てずに、向き合うことが大切になります。それは次へと進むためのメッセージであり、モヤモヤがワクワクに転じることこそソーシャルデザインの醍醐味なのです。


2012年刊行の『ソーシャルデザイン』に、僕はこんなことを書きました。

普段の暮らしの中で、「もっとこうなったらいいのに!」と感じていることってありませんか?「もっと楽しく喫煙したい」とか「もっと近所の人と仲良くなりたい」とか。実はその思いこそ創造力の源泉であり、ソーシャルデザインの出発点です。

『ソーシャルデザイン』グリーンズ編、p.43


そして、スープストックやPASS THE BATONなどを仕掛けるスマイルズの遠山正道さんも、そのユニークなビジネスのモチベーションを「残念なこと」に求めています。

遠山さん 私の場合は、「なんで、こうなっちゃうの?」という疑問やいらだちから物事がスタートすることが多いんです。(...)ネクタイもリサイクルも、誰もが知っている、世の中の普通にあるもの。なのに“残念なこと”になっているのはもったいない。
『日本をソーシャルデザインする』グリーンズ編、p94


では、どのようにすればモヤモヤをワクワクに転じることができるのでしょうか? 次回ではその核心に迫っていく前段階として、そもそもどんなモヤモヤがあるのか分類してみようと思います。

そしてそのヒントとなるのが、仏教の長い歴史で中で研究されてきた煩悩というキーワードなのです。

つづく


はじめまして、勉強家の兼松佳宏です。現在は京都精華大学人文学部で特任講師をしながら、"ワークショップができる哲学者"を目指して、「beの肩書き」や「スタディホール」といった手法を開発しています。今後ともどうぞ、よろしくおねがいいたします◎