「失敗の本質」 野中郁次郎ら

日本軍 9つの失敗の本質


戦略上の失敗要因

①目的  曖昧な戦略目的

②戦略思考  短期決戦の戦略思考

③戦略策定  主観的で「帰納的」な戦略策定ー空気の支配 フィードバック無し

④戦略オプション  狭くて進化のない戦略オプション

⑤技術体系  アンバランスな戦闘技術体系


組織上の失敗要因

⑥構造  人的ネットワーク偏重の組織構造

⑦統合  属人的な組織の統合

⑧学習  学習を軽視した組織

⑨評価  プロセスや動機を重視した評価 リーダーが更新されない


ここらか、失敗要因を抽出する。

①〜③から、

○すべてにおける曖昧さ

が一つの失敗要因とわかる。

②〜⑨から、

○古い価値体系に適応しすぎたこと

○既存の価値体系を疑い、新たな知識を獲得する試みの欠如

も失敗要因とわかる。

「適応しすぎ」については、本著でも以下のように指摘されている。


「適応は適応能力を締め出す」

組織の環境適応理論では、組織がうまく環境に適応するためには、組織は直面する環境の機会や脅威に組織の戦略、資源、組織特性(構造・システム・行動)を一貫性をもってフィットさせなければならない。

しかし、日本軍は、「当時の」戦略環境の生み出す機会や脅威に、全く適応していなかった。

本著では、その原因を「「古い」戦略環境に適応しすぎたため」と考察する。


戦略・戦術

帝国陸軍には、白兵戦思想というパラダイムが存在していた。帝国海軍には艦隊決戦というパラダイムが存在していた。

陸軍は西南戦争や日清戦争で白兵戦の重要性を痛いほど実感したためである。一方海軍は日本海海戦による大勝利から、艦隊気仙の重要性を実感したためである。


資源

陸軍も海軍も、上記の戦略に合わせて資源を蓄積した。陸軍は白兵のための人的資源を蓄積した。海軍はロンドン条約の劣勢な比率をカバーするため、個艦優秀主義、少数精鋭を重視した。

このように戦略にそった資源蓄積に適応しすぎたことで、他の資源に対する蓄積を軽視する結果となった。


組織特性

・組織構造

組織の環境適応理論によれば、ダイナミックな環境に有効に適応している組織は、組織内の機能をより分化させると同時に、より強力な統合を達成しなければならない。

日本軍は陸軍と海軍で、目標も時間志向も仮想敵国も分化されていたが、統合がなされていなかった。

それは、白兵銃剣主義と大鑑巨砲主義には、軍事合理性あるいは技術の面から統合を促す必然性が乏しかったのではないかと考察している。それぞれの主義に適応しすぎたことで、統合必要性を感じなかった。

・管理システム

管理システムにおいても、日本軍の原点は少し前の日露戦争にあった。人事昇進システムは基本的に年功序列であった。将官の人事は、平時の進級順序を基準にして実施されていた。これにより、既存の価値体系の破壊は困難であった。

教育システムにおいても、成績による序列である。陸軍と海軍の教育システムにも多少の違いはあった。しかし基本的には、実務的な陸軍の将校と理数系に強い海軍の将校は、暗記と記憶力を強調した教育システムの産物であった。したがって、既存の価値体系を壊すリーダーが生まれにくかった。


・組織行動

組織の戦略原型が末端まで浸透するためには、組織の成員が特定の意味や行動を媒介にして特定のものの見方や行動の方を内面化していくことが必要である。このようなパラダイムの浸透には、リーダーの影響力が強い。

しかし、日本軍の中で日々見たり接したりできたリーダーの多くは、白兵戦と艦隊決戦というパラダイムを具現化した人々であった。

リーダーそのものから浸透した「白兵戦」と「艦隊決戦」というパラダイムは転換しにくかった。


文化

「白兵銃剣主義」「艦隊決戦主義」などの言葉で表現される行動様式が帝国陸海軍に確立されていったことから、文化として定着してしまった。


日本軍は、日中戦争以前の戦果から、それぞれの戦略原型を強化したという点においては、徹底した組織学習を行ったと言える。しかし、組織の行為と成果との間にギャップがあった場合には、既存の知識を疑い、新たな知識を獲得する側面を忘れてはならない。自己否定的学習ができなかったのである。


現代の戦略で重要なこと


私は、失敗の本質から以下の3要素を抽出した。

○すべてにおける曖昧さ

○古い価値体系に適応しすぎたこと

○既存の価値体系を疑い、新たな知識を獲得する試みの欠如


「すべてにおける曖昧さ」と「古い価値体系を適応しすぎたこと」に関しては、「意識」することで解決する。曖昧なものは明確にすればよい。そして、適応しすぎず、戦略に柔軟性を持たせれば良い。


しかし、「既存の価値体系を疑い、新たな知識を獲得する試みの欠如」を解決するには意識では難しい。日本軍は、適応している価値体系が「古い」ことに気づけず、「新しい知識がある」ことに気づけなかったのである。


ここで大切なことが、

「異質による試行錯誤とボトムアップ」

である。日本軍が既存の価値体系を疑うに至らなかった大きな要因は、「トップダウン」という組織構造である。「人的ネットワーク偏重」という日本軍の特徴は、さらに悪影響を与えた。

当然ボトムアップがいつでも答えではないし、トップダウンが答えの場合もある。ただし、それらは遠い本国の机上ではきまらない。


「現場での試行錯誤とそのフィードバック」


が最も重要なのである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?