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ミニ花瓶の作り方

週替わりでブログ更新をしていこうと決めておいて、見事に更新をストップさせていた健一郎です。こんにちは。

家事に育児に忙しくしていたのですが、コロナで保育園が登園自粛になったりでめっきり体力も精神力も削られる日々を過ごしていました。
言い訳ばかりしている訳にもいかず、遅ればせながら筆を取った次第です。

前回は小玉ユキさんの「青の花器の森」についてお話を書かせていただきましたので、今回は作中にも登場する「ミニ花瓶」について話を書きたいと思います。

ミニ花瓶

ミニ花瓶は僕がまだ窯業大学校の学生だった頃、とある陶芸家さんの所に陶器市のお手伝いに行った時に「基本的なろくろの技術が詰め込まれているんだよ」と教えてもらったものです。その陶芸家さんは主に茶陶を作ってた方で、厳密には一輪挿しではないのですが、茶道の事はわからないので僕は一輪挿しとして作っています。

ろくろで小さなコップのようなものを形作ってそれに口を付けて一輪挿しにします。

まずはカップを作る

小さく作ろうとして最初の土取りを少なくし過ぎると口を作る土の量が足りなくなってしまい、口を作る分を確保しようとそこから無理に伸ばして腰が薄くなるとへたって倒れてしまいます。

ふちを絞って口を作る

ろくろを挽いたらある程度乾燥させて今度は削りです。
ろくろに削り台を据えて、底が下になるように置いて中心を出し、下半分を削った後にひっくり返して上半分を削ります。
この時、土が捻れたまま作ってしまったものは削るときに中心を出すのに苦労します。
下半分と上半分は分けて削るので、削りの繋ぎ目がわからないように一本に仕上げるのもそれなりに気を遣う仕事です。

削りの様子

削り終わると一度スポンジで全体を水拭きして、電気窯に入れて900度で素焼をします。
素焼から出したら、またスポンジで水拭きして余計な土埃を拭い取り、1日乾燥させて高台に撥水剤を塗ります。

星空の一輪挿しはこの後に絵付の工程が入ります。ゴムの撥水剤で星を一つ一つ手描きし、乾いたら呉須(青い絵具)で全体をベタ塗りします。呉須蒔きができたらゴムの撥水剤をピンセットで一つずつ取っていったら絵付の工程は完了です。
呉須(青い絵具)が全面に塗ってあるので絵の具を触らないように注意するのも大事です。

その後一輪挿しの内側に薄く釉を流し入れ、外側にテラシギラータをかけて1300度で本焼成して完成です。

星空の一輪挿しは透明な石灰釉を掛けていますが、白で仕上げているミニ花瓶はテラシギラータという陶石の微粉末を素焼生地に塗って焼いています。陶石と同じ素材を使っているので、見方によっては石を形取っているような雰囲気があり、ちょっと光沢のあるマットな質感はちょこんとおいてあるだけで自然と風景に溶け込むような気がしています。

素焼き生地にテラシギラータを塗った状態

テラシギラータは紀元前のヨーロッパでの使われていた技法なんだそうで、僕が思うに当時はまだ焼成の技術が発達していなくて、陶器を焼いても温度が上がらず焼き締まらないため、どうにか水がこぼれないようにと目止めをして焼いていたんじゃないのかなと思っています。

テラシギラータは目止めをしてから焼いているので、ただの焼き締めよりは色移りもしにくいはずと思ってます
白い食器には打ってつけだと思い最初の頃はzeroシリーズと銘打って白磁の食器も作っていたのですが、恐竜ばっかり売れて忙しくなったので作らなくなってしまったという経緯があります。
家では売れ残ったテラシギラータの食器は活躍しているのでまた作れるようになれたならと思いますが、「白磁が売れるようになったら一人前」と言われることもあるように、白磁で勝負ができる作家さんになるにはなかなか難しいようです。

話が少しそれてしまいましたが、ミニ花瓶も最初の頃に比べるとずいぶん大きく作るようになりました。
初めの頃は5センチ程度の高さで作っていたりもして、ミニチュアで可愛くもあったんですが実用性には欠けていたのです。
色々な方のアドバイスをもらいながら少しずつ大きくなって今の形になりました。

ミニ花瓶はそれ単体で置いても景色になるようにと思っていますですが、
「この小さな花瓶に何を活けようか」と考えることで、変わり映えのしないいつもの通り道も何か違った見え方になったらいいなと思っています。

子供が生まれて一緒に散歩するようになってわかったのですが、大人だったら10分程度の散歩も子供と一緒だと30分くらいかかります。
道に生えている雑草も、転がっている小石も、カエルの死体も、てんとう虫も、ねこじゃらしも、些細なことに気を取られて遊び出すので歩みが進まないんですよね。
でも、子供の視点からは興味を惹かれる物がそこら中に散らばっているのです。ちょっと外に出てみるだけで子供の見ている世界には、想像を超えた遥かに大きな世界が広がっているのかなと思います。
「ミニ花瓶に何を活けようか」と考えながら子供と一緒に散歩すると、子供が感じている興奮を少し分けてもらえたような気がします。

散歩で収穫したものを活けた

小玉さんの「青の花器の森」に自分が独立前から作り続けていたミニ花瓶が登場するのは感慨深いものがあります。
物語に欠かせない大事なアイテムになっているので「青の花器の森」ファンの方の期待を裏切らないようにと思うとズンと何かが肩にのしかかってくるような気になります。
プレッシャーに感じ過ぎないよう「良い塩梅」で作れたらなと思います。

最後に、3年前に撮った動画が出てきたので上げておきます。
僕もミリアムも少し若いです。

小玉ユキさんの「青の花器の森」作中に登場する”星空の一輪挿し”を限定100個でもう一度作ることになりました。よかったらご応募ください
10/19まで受付です。

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