小説『FLY ME TO THE MOON』第17話 約束
パイロンは考えていた、自分はどうするべきかを。
もう自分には家族も居ない、一人ぼっちだ。
ゴーゴンスタジアムを目指しても、誰も来なかったら?
いやでも約束したし。。。。
ただ、いつとは言ってない・・・・
その間一人でスタジアムに?
ゾンキーで溢れていたら?
『ううん・・・行く。』
『睦月とスティールちゃんには私が必要だ!って思いたくて申し訳ございません!』
バールを握り、リュックを背負い、ゴーゴンスタジアムを目指すために外へ出た。
振り返るとパイロンは自分の家にお辞儀し、軽いステップで住み慣れた、思い出の詰まった家を後にするのだった。
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『あの時を思い出して・・・・そう、如月さんと追い詰められた体育館』
羽鐘は集中し、気持ちを高めていた。
デスボイスでゾンキーを吹き飛ばせると信じて、声の高さやパワー等、色々試しているのだった。
今は気持ちを高めてぶつける練習。
『そう・・・思い出すっすよ羽鐘・・・そう・・・そう・・・そうっ!』
『シネヤゴラァアアアアアアアアアアアア!』
数秒後・・・・ぶるぶる震えだしたゾンキー・・・
ドパン!!!!!!!!!
チェーンロックで途中までしか開いていないドアから顔をのぞかせていたゾンキーの目玉が吹き飛んで倒れた。
『よっしゃ!!!!出た!やっぱりデスボイスだったんだ!こうしちゃいられないわ、練習して身につけてゴーゴンスタジアムに急がなきゃ!』
感情を込めて集中してデスボイスを出すことにより、機械では出すことのできない波動が発生し、ゾンキーに寄生した細菌を破壊する。羽鐘だけがもつ特殊能力と言って良いだろう。
羽鐘はいつでもこの波動を出せるよう、集中力を高める速度やコツなど、自分で研究と練習を重ねた。
両親を失った羽鐘とパイロンは、もう一度仲間に会うため、ゴーゴンスタジアムを目指す事を決めた。
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『くそっ!ゼウスシティそのものが公開処刑ショーだなんて!!絶対生き残る!生き残って一番偉いやつぶっ飛ばす!
まってろよこの野郎!なんだっけダイトーリョーの名前・・・これよく街頭インタビューで今の大統領の名前は?と聞かれて、答えられない女子高生を笑うやつだ・・・くそっ・・ん・・・んまぁ・・・いい、うん、いい』
恐らく監視しているであろう、街の監視カメラらしいものに中指を突き立てて舌を出した如月。
ゾンキーを掻い潜り、時には倒しながら、如月は学校の駐輪場に着いた。
ハァハァ・・・
『やはり学校は制服着た若いゾンキーが多いわね、知ってる顔も居て申し訳ないけれど、ここで死ねないの…』
呼吸を整えて愛車シェルビーに乗る。
『無事だったのねシェルビー、迎えに来たよ』ハンドルをなでなでして、荷台についてる固定用のゴムロープを外した。今時ロープを付けて走る女子高生なんかいないのだけれど、彼女は商店街のアイドル、よく大根や白菜などを貰うので、断るのも悪いからいつでも持ち運べるよう、ゴムロープを付けていた。そのゴムロープを鉄の棒に結び付けて、孫悟空のように背中に担いだ。
勢いよく漕ぎだすと、登校コースを逆に進み、大きなカーブの上りを必死に漕ぎ進める。
『ぬおーーーー!!!!』
立ち漕ぎで一気に登りきると周囲を木々に囲まれた道路に出る。
『はーーー・・・・はーーーーーー・・・・ゾンキーなし!ちょい休憩!』
鞄からスポーツドリンクを出して口に含む程度の量を飲んだ。
ゼウスマートはもうシャッターが下りたと知り、今後どこで飲食物が手に入るかわからないからだ。
無鉄砲なポジティブ人間だが、考えることもするようだ。
シックスパックを見せびらかすように伸びをして深呼吸を3回すると、また自転車を漕ぎだすのだった。
街を見下ろせる高台に到着し、改めて街の様子を見て如月は一瞬言葉を失う。
神楽の言っていたように、見たこともない高い壁が街を囲んでいた。
『こんなのアニメで見たことある・・・』
あちこちで火災が発生し、爆発も起きていた。
しかし消防車の音も救急車の音も聞こえない。
神楽が言っていたことが本当なら、上層部からの圧力か、最初から地下へ撤退するよう指示を受けていたか。
『よしっ!!!!』
強めに言うと、一気に坂を駆け下りた。この坂はいつも気持ちよく下りるのだが、今日ばかりは全然気持ちよくない。
『少し飛ばすわよシェルビー!』
スカートをはためかせ、パンツ丸見えでグングンとスピードを上げた如月。真っ白い髪が太陽に照らされて反射し、まるで光の帯が飛んでいるかのように見えた。
商店街に差し掛かると、入り口にバリケードが作られ、皆が群がるゾンキーと戦っていた。
如月は思い切りハンドルを左に切って車体を傾け、後ろブレーキを握って体重を左にかけた。
ドリフトのようにタイヤは悲鳴と煙を上げて滑りだし、計ったように綺麗に止まった。
けたたましいタイヤの音でゾンキーが如月に気が付く。
『睦月ちゃん!』
商店街の人たちが如月に気づいて声をかける。
如月は背中から鉄の棒を抜き、低く構えて左手でコイコイと言わんばかりにゾンキーを挑発。
挑発に乗ったわけではないが、ゾンキーは如月に向かう。
その数6体・・・・。
『睦月ちゃんダメだ!危ない!』
心配する商店街の人たちをよそに、如月は先頭のゾンキーの膝を鉄の棒で一撃!そのまま棒の逆サイドでアゴをかちあげ、更に逆側を振り下ろして頭へ一撃!グシャ!と言う音と共に脳みそがはじけ飛ぶ!次は足払いで転ばせ、振り向きざまにもう一体に遠心力を利用した強烈なひと振りがこめかみをえぐる!その回転を利用して一歩下がり、足払いで転ばせた1体の頭を足で潰す。
次の1体が伸ばす腕を鉄の棒でへし折り、裏拳で顔面に一撃入れて距離を取り、真ん中から来るゾンキーの目玉を目がけて突き一閃!思い切り引き抜いて左へひと振りすると、ゾンキーの頭を破壊!6体目は腕が折れて顎が砕けたゾンキー。回転に回転を重ね、鉄の棒が身体の周りをまとわりつくように回転。ビュンビュンと音を上げつつ回しながら近づき、ズドン!と一撃。
ゾンキー6体を15秒で仕留めた。
『睦月ちゃん凄いな!』
『みんな!頑張ってたんだね!おはよう!』
『おう!商店街はやわじゃねぇからな!おはよう!』
『こいつらはゾンキーと言って、もう死人だから、知ってる人であっても近づかないで!噛まれたら終わりだからね!頭を破壊しないと止められないから覚えておいて!』
『睦月ちゃん早くこっちおいで!今開けるから』
商店街で『花女』と言う花屋を営む長身の女性がそう声をかけた。
名前はちゃんとあるのにいつしか街の人たちは『花女さん』と呼ぶようになっていた。
『花女さんありがとう!でも私家に行かなくちゃ!頑張ってよ!死んじゃダメだよ!』
『わかった!睦月ちゃんもね!街が戻ったら・・・街が戻ったら花買いにおいでよ!』
『うん!大好きな枝垂桜を買いに行くね!』
『いやねーから!』
花女さんのツッコミを背にして自転車を漕ぎ、商店街の横を走り出した如月だったが、家の方向にゴウゴウと地鳴りのような音を上げて燃え盛る炎を見た。まさかと思いつつも、希望を抱いて走る如月。
そこには如月の家を含めて数件が炎を噴き上げて近寄れない程燃えていた。
『お母さん!お父さん!』
『あつっ!!!!』
不謹慎だが、火の海と言う表現がぴったしの状態だった。
巨大なドラゴンが仁王立ちして、炎のブレスをぶちかましたような、手の付けようがない荒れ狂う炎が天まで届く勢いで燃え盛っている。
この炎の中に人が居るとは思えないが、声が続く限り如月は叫んだ。
ガラガラと音を立てて建物が崩れ始め、如月の周囲に降り注ぐ。
壁が崩れ、如月の愛車シェルビーを押しつぶした。
『ああ!シェルビー!!!!!!』
タイヤに火が付き、如月の自転車は燃え始めた。
このまま火が回ったら自分も危ない。
きっとどこかで両親は生きていると信じ、その場を後にするしかなかった。
『よし!スタジアムだ!』
如月も約束の地、ゴーゴンスタジアムを目指した。