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『羊と花畑』制作ノート

こんにちは。
Studio GGのShunです。

今回は『羊と花畑』の制作ノートを公開したいと思います。

ゲームの概要はこちらをご覧下さい。


着想

『羊と花畑』はこれまでのゲームと違い、ある企画向けに作り始めたゲームです。
現在は休止してしまったのですが、その企画では少ないコンポーネントのゲームが求められていました。

他のデザイナーの方が提案するゲームにカードゲームが多かったので、タイル配置ゲームがあった方が見栄えもいいだろうと考え、ミニマルなタイル配置ゲームを作ることにしました。

「タイル配置」では、箱庭と呼ばれるそれぞれのプレイヤーが手元にタイルを配置するタイプと、共有の場所にタイルを配置するタイプがあります。

少ないコンポーネントでタイル配置を実現するためには、箱庭だと一人当たりのタイルが少なくなってしまいます。よって、今回は共有場でタイル配置にしようと考えました。

共有場にタイルを配置するゲームといえば、「カルカソンヌ」が有名です。

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(BoardGameGeekより)

「カルカソンヌ」はタイルをみんなで共有場に配置することで地形が広がっていく、とても楽しい良いゲームです。
しかし、私は「カルカソンヌ」についていくつか気になる点がありました。

まず、「共有場でのタイル配置」をした上で、「陣取り」をするため、攻撃的な展開になることです。

完成したそれぞれのエリアについて、最終的にはプレイヤーの誰か1人の所有になります。ですが、それを共有場で、得点条件が分かった状態で作っていくわけですから、他のプレイヤーの邪魔をすることがとても容易にできてしまい、どうしても攻撃的な展開になりやすいです。

これは多人数プレイで特に問題となり、自分が引けるタイルの割合も減ることも相まって、ゲームをコントロールしにくくなります。

また、これは古いゲーム全般に言えることですが、ゲームの内容に比してプレイ時間が長く、プレイ密度が低めだと感じました。


このような「カルカソンヌ」の気になる点を解消した、ミニマルなタイル配置ゲームを作ってみることにしました。


試作第1号

「カルカソンヌ」は、「陣取り」であり、得点条件が分かった上での「共有場でのタイル配置」を行うため、攻撃的なゲームになっています。

そこで、「陣取り」を止めて、得点条件を隠し、
それぞれのプレイヤーが盤面全てを参照し、隠された目標カードで得点するルールを考えました。
また、目標カードはそれぞれのプレイヤーに三枚配ることで、どの目標で点数を稼ぐかという戦略性を持たせました。

ここまで考えて、さて、タイルの配置ルールや構成が「カルカソンヌ」のままだと良くないだろうし、どうしようかなー、と考えていたら、

AYAが「カルカソンヌ」の配置ルールをベースにタイルと目標カードのセットを作ってくれました。
そのセットは初期としてはそれなりにゲームになっていたので、そのまま次の日にあった企画のテストプレイ会に持ち込むことにしました。


共有目標の導入

テストプレイ会でやってみたところ、各プレイヤーが隠匿の3枚の目標カードを持つというルールは、他のプレイヤーが何をしているかが分からな過ぎて、ソロプレイ感が強すぎました。

私としては、共有場でタイルを配置することで、他のプレイヤーにトスとなるインタラクションが発生しないかな、と期待していたのですが、
そうでもなかったね、という話をしたところ、

I was game の上杉さん(@dbs_curry)から、「目標カードを1枚隣のプレイヤーと共有したら良いのでは?」と、コメントをいただきました。
ちょうど「二つの街の物語」のように隣接プレイヤーとの協力関係を導入する感じです。

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(BoardGameGeekより)

聞いた瞬間、「それだ!」と思い、その場でテストしてみると、だいぶ好感触で、この方向で行けそうだという感触を得ました。
(上杉さん、ありがとうございます!)

目標カードを隣のプレイヤーと共有することで、隣のプレイヤーの行動が若干予測可能なものになります。また、盤面に加える影響も自分に対してよりポジティブな形になります。
これにより、ゲームの根幹がほぼ固まりました。


タイルと目標カードの精査

色々あって、企画は一旦休止となりました。
その為、ゲームマーケットの新作向けに再調整することにしました。

このゲームは、着想は私ですが、AYAがメインで試作・調整をしており、私はサブの役割をしていました。どのゲームも2人で作っているのですが、いつもとは立ち位置が逆になった感じです。

まず、タイルと目標カードを精査しました。


①タイルの精査

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・使用するタイルはカルカソンヌ風タイルでいいのか

カルカソンヌ風タイルを使用することで、見た目が「カルカソンヌ」に似すぎてしまうことを懸念していました。ルールが違うとしても、既存のゲームに見た目が似すぎていることは新しいゲームを出す上でマイナスにしかならないからです。

そのため、「二つの街の物語」のような建物タイルタイプや、「キングドミノ」のドミノタイルなど、他のタイプも検討しました。しかし、結局カルカソンヌ風タイルが採用されました。

カルカソンヌ風タイルは、真四角のタイルをエリアで4分割に区切っており、また、それぞれのエリアの上に要素(牛、羊、木など)を置くこともできるため、バリエーション豊かなタイルを作ることができるからです。

そもそも「カルカソンヌ」のタイル配置は「エントデッカー」が元であり、「カルカソンヌ」のオリジナルのアイデアではありませんし、とても魅力的なので、どんどん使って一つのメカニクスとして定着させたいとも思いました。

・各エリアにそれぞれ違う特徴を持たせる

「湖」は2面が多い、「花畑」は一面しかないが色が三色ある、「都市」は道が繋がる、など各エリアが違った特徴を持つように気を付けました。

・オブジェクト(羊、牛、木などエリア内にあるもの)もそれぞれ違う特徴を持たせる

「羊」は草原にたくさんいて、最大値を参照する、「牛」は少ないけど1匹当たりの勝利点が高い、「木」はすべてのエリアに存在する、「家」は都市と草原にあり、3個以上のセットを作る必要がある、「人」は極めて少なく、種類数のみで参照する、など各オブジェクトが違った特徴を持つようにしました。

・すべてのタイルをユニークにする

これにより、作られる地形が毎回変わるとともに、カウンティングの問題の改善しようとしています。
カウンティングはただ数えるという作業ですが、それを行ったプレイヤーが有利になります。楽しくないプレイが勝利に近づくのはあまり好ましくありません。
タイルをユニークにすることで、あるタイルが出たのか出てないのかという二値の判別になるため、カウンティングをしようとしていないプレイヤーでも、自然に残っているタイルの把握を行うことができます。
また、カウンティングをしようとしているプレイヤーにとっては、種類が多いことによりカウンティングが難しくなるため、カウンティング行為の有効性を減らすことにつながっています。

・特徴的なタイルを多くして、引いた時に印象を与えるようにする

上記と関連しますが、他のタイルが持たないような特徴的な要素を持つタイルを多く入れることで、記憶に残りやすくするとともに、プレイ毎に異なる印象を持てるようになります。そのため、特徴的なタイルをわざと増やしました。

・各タイルが少なくとも3つ以上の目標の達成に寄与するようにする

タイルを引いたときに、自身の目標と関連するタイルを引く確率を上げるため、各々のタイルが多くの目標の達成に寄与するように調整しました。具体的には、それぞれのタイルについて関係する目標のを書き出し、カウントし、2以下のもの、多すぎるものは調整しました。のちに導入するオープンドラフトの影響もあり、ほとんどの手番で自身の目標に関連するタイルを獲得できるようになりました。


②目標カードの精査

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・リプレイ性を担保する為、各目標のプレイ感を出来るだけ違うものにする

目標の名前が違うだけでプレイ感が同じという目標がないようにしました。上記のタイル上の要素(エリアやオブジェクト)にそれぞれ違う特徴を与えたことに関連します。

・単純にエリアを完成させるだけのような目標はボーナスをつける事でジレンマを生むようにする

ただエリアを完成させるだけだと、閉じるタイルを引けるかどうかの引き運ゲーになってしまいます。そのため、エリアを完成するだけの目標にはボーナスを与えることで、ボーナス達成を目指すか、ボーナスなしで手堅く点を取っていくかというジレンマが生まれるようにしました。

・各目標は出来るだけ直交させる(他の目標と協調し過ぎず、対立もし過ぎない)ようにする

例えば、ハート形のエリアという目標を入れることで、「花畑」「都市」「湖」というそれぞれのエリアを完成する目標とは全く違う軸の目標を作っています。このように、違う目標間でも一部協力関係が築けるように、しかし協力しすぎないようにしています。

・目標カードのバランス調整

このゲームでは、全く異なる目標カード3枚によりそれぞれの得点が決まります。このため、目標カードに強弱の差があると、不公平感を感じてしまいます。

これに関しては、力技ですが、大量のテストプレイによってバランス調整を行いました。
協力してくれるメンバーにテストプレイキットを渡し、全てのゲームの結果を写真で送ってもらい、統計データを取ってバランス調整を行いました。


細かな部分ではありますが、ルールがシンプルであるがゆえ、このあたりの調整がゲームの面白さに大きく寄与しています。


オープンドラフトの採用

この時点まで、タイルは山札から1枚引いてそのまま配置していました。 しかし、広く初見の人にテストプレイをお願いしてみると、「運ゲー感を感じる」という意見がちょこちょこ出ました。

そう言っていた人も、何度か遊んでみると面白さが分かったと言っていたので、『羊と花畑』に慣れていない人ほどそう感じるようでした。
そして、それは「自分の目標に関係ないタイルを引いた時の感じ方の差」が原因なのではないかと考えました。

つまり、慣れてないプレイヤーは自分の目標に関係ないタイルを引くと「運が悪かった」と感じ、慣れたプレイヤーは「どうやったら他のプレイヤーに点を与えないように置けるか」を考えていたのです。

初見の人に「運ゲー感」を感じさせるのも良くないことですが、慣れている人に他の人の邪魔だけを考えさせてしまうのもよくないことです。「羊と花畑」はそれよりも自身の利益を追求するゲーム性を目指したいと思いました。

そこで、公開された3枚のタイルから選ぶオープンドラフトを採用することにしました。

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一般的にオープンドラフトでは、各プレイヤーが欲しいタイルを取り合うことになり、場に不要なタイルが残るという問題がありますが、
今回の『羊と花畑』では、各プレイヤーの得点方法が違うため、各プレイヤーの欲しいタイルが違います。
そのため、取り合いはあまり発生せず、平和な分配として機能します。

また、ドラフトで選ばなかったタイルは次のプレイヤーに回されますが、次のプレイヤーと共有する目標を持っていることから、
わざとそれに関するタイルを流して、次のプレイヤーに目標を達成してもらうというインタラクションが生まれます。

さらに、オープンな場からのドラフトにすることで、他のプレイヤーの選択に口を出しやすくなるとともに、
タイルの選び方は目標を推理する材料にもなります。

このように、オープンドラフトはこれまでのルールの穴を埋めるシステムとして非常に理に適ったシステムであり、
これを導入することで、『羊と花畑』は完成となりました。


まとめ

今回の『羊と花畑』は、コンセプトこそ私が考えたものの、大部分はAYAが作ったため、私はゲームを外側から考察することでその品質のチェックをしていました。

その中で、『羊と花畑』は、慣れていないプレイヤーにとっては簡単に感じ、慣れたプレイヤーにとっては十分に複雑に感じる、とても良いゲームだと気づきました。

初心者にとっては、他のプレイヤーの目標カードを全く知らなくてもプレイできるため、3枚の自分の目標さえ分かっていればゲームを始めることができます。
また、自分の手番には3枚のタイルから自分が欲しいものを取って配置するだけ、とても簡単に感じます。

そして、慣れていくにつれ、ドラフトで自分の欲しいタイルを取るだけでなく、何を隣に流すか、それによって隣のプレイヤーをどうコントロールするかを考えるようになります。また、他のプレイヤーのタイルの選択、配置の仕方から他のプレイヤーの目標を推理し、他のプレイヤーの目標に対して有利にならないように自分のタイルを配置するようになります。

実際のTwitterなどの感想を見ていても、カジュアルにプレイしている方は簡単にプレイでき、ゲームに慣れていそうな方も奥深さを理解した上で楽しんでいただけている様子が見られ、うまく機能していると感じています。


終わりに

以上が『羊と花畑』の制作ノートになります。
楽しんで読んでいただけたなら幸いです。

『羊と花畑』は共有場でのタイル配置ゲームを爽やかなプレイ感で遊べる小箱ゲームです。プレイ人数の幅も広く、初心者からゲーマーまで広く遊べるゲームになっていると思いますので、非常に使いやすいゲームかと思います。

もし、まだプレイしたことがなく、この記事で興味を持った方は、Amazonで購入可能ですので、ぜひ手に取っていただければ嬉しいです。


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