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#9 株式会社●●バンド設立続編〜お金の流れを予測する〜

今回は「株式会社●●バンド設立してみる」の続編です。今回の副題にありますように、「お金の流れを予測する」ことはお金を整えていくためには必要なことです。決して、音楽を副業として、あるいは生業として続けていこうとしている方だけでなく、趣味として音楽をやっている方も、もしかすると音楽をやっていない一般の方にも、「お金の流れを予測する」ことは必要なことだと言えると思います。


●お金の流れを予測する
お金の流れを予測することは、意識的に行っているかどうかはともかく、少なからず生きていく中で一般的に行われていると思います。「来月ボーナス出るから何買おうか?」とか、「今月ちょっとお金使いすぎちゃったから、来月はちょっと静かにしておこう」とか。もうちょっとミュージシャンに寄せてみると「今度のライブハウスはノルマが厳しいから、いっぱい宣伝しなきゃ」とか「少し音楽で稼げるようになってきたから、貯金しなきゃ」とか。。。
これを「お金の流れを予測する」ということで少し意識してやってみるためのきっかけとして、「株式会社●●バンド設立」する上で実質的に必要となる「事業計画」を例に考えてみましょう。「誰のための」お金の流れを予測するのか、ということを意識して聞いてくださいね。

●収入の予測と支出の予測
例えば「来月ボーナス出るから何買おうか?」ということは「お金の流れを予測する」という視点で整理するとどうなるのでしょう?
収入については、毎月××円の給料があり、それ以外に臨時的な収入が××円あるので、来月の収入の予測は××円である。一方、支出については毎月家賃や食費で××円必要なので、××円余裕資金が出きるので、貯金するのではなく、洋服を買う予算に回そう、ということですよね。
お金の流れの予測ということは、収入と支出をそれぞれ予測するということです。その予測は、現状の収入と支出を元に行うことになりますよね。ですから、収入と支出の予測の前に、収入と支出の実績が把握されていなければなりません。まさにお金の流れが見える化されていないと収入と支出の予測はできないことになります。

●変動費と固定費
支出の予測については、比較的予測しやすいと思います。どのようにお金が入ってくるかは、自分だけでは決められない面もありますが、どのようにお金を使うかは自分達の意思で決められることが大きいからです。
先ほども話したように、実際の支出に基づいて予測するすることになるのですが、その際に実際の支出を、まずは変動費と固定費に分けると考えやすいです。
変動費とは、収入の増減に伴って増減する支出です。ライブ活動を増やしてライブの収入を増やしていこうとすれば、ライブ活動の移動費や、そのリハのための支出、ライブ会場を抑えるための支出などは増えていきます。これは変動費ということになります。
一方で固定費は収入の増減に関係なく一定な支出です。毎月、ライブ活動をやるやらないにかかわらず、一定の練習をしたり、レッスンを受けたり、そういう支出があればそれは固定費ということになります。もちろん、どちらかに決められない、変動費的な固定費とか固定費的な変動費とかは、実務的には出てきますが、まずはこうした分類があることをご理解いただければと思います。
また、固定費は、発生由来の面から2つに分けられ、それぞれ性質が異なります。
1つは過去の意思決定に基づいて発生する既決費(コミッテッドコスト)といい、減価償却費・固定資産税・賃借料・家賃・地代などをいいます。この辺は当初はあまり関係がないコストかも知れませんね。自分達の楽器やPAをバンドで過去に購入した場合などはこの資産の減価償却費などは、これにあたります。
もう1つはバンドの方針や予算割り当てなどに由来する管理可能費(プログラムドコスト、マネジドコスト)で、広告宣伝費・事務管理費・研究開発費などが該当します。バンドでいうと、バンド自体を広報するためにフライヤーを作ろうとか、紹介ビデオを作ろうとかが該当しそうですね。
現状の支出の分析をするときに、ちょっとこういう考え方をもって分析をするだけで、支出の予測に役立つことになります。

●このバンドはどこで稼ぐのか?
一方で、収入の予測については、先に述べたように難しいです。どんなに来年はこれだけライブを増やすと言っても、それだけ収入を増やせるかということについてはなんとも疑問です。バンドの収入予測に限らず、フリーランスの方の収入予測も大変不安定ですし、サラリーマンの収入予測にしたって、どれだけボーナスが出るかや、期待通りの給料のベースアップがされるかは分かりません。これは収入が外部要因によって決まることが多いためで予測するのは、大企業であっても大変苦労しているところです。
特に外部の方に対して説得力を持つ収入予測を立てることは大変難しく、実務では、銀行借入のために事業計画の提出が求められ、この収入予測を説明することに苦労されることが多かったりします。支出の予測と同様に、収入の実績をもとに行うことは変わりません。ただ、大きな目標に向かって進もうとしている場合、過去の収入に基づく収入予測では、あまり意味がありませんし、創業まもないスタートアップでは、過去の収入実績そのものを持っていません。
そもそも「お金の流れを予測する」のはなぜ必要なんでしょう?バンドをどのようにしていきたいと思っているのでしょう?そのためにはどのような活動をしていくことが必要なんでしょう?目標を持って行動すること、その目標自体を実現するために事業計画があります。持続的にバンドを継続していきたいのであれば、その方針を共有することが必要です。趣味としてバンドを続けていくにはどのように維持コストを負担していくか、生業としてバンドを続けていくためには、どのようにして稼いでいくのか、考えないといけませんよね。こうしたことが反映された事業計画(あるいはお金の流れの予測)が、良い事業計画だと考えています。
収入面で言えば、例えば、ライブを収入の柱にするとか、配信を収入の柱にするとか、CDを収入の柱にするとか、それをどのような組み合わせでやっていくとか、そういうことがまず必要になりますね。それをメンバーや応援者、銀行等に説明するには、そうした組み合わせについても説得力のある説明が必要になりますね。これは後ほど、上場会社で公表されている事業計画をご覧いただいて、どのように説得力をつけているのかを検討してみたいと思います。

●PDCAサイクルを学ぶ
PDCAとは、業務の品質や効率を高めることを目的とした業務管理手法の1つです。また、継続的な業務の効率化を図ることを目的としているため、「PDCAサイクル」とも呼ばれ、スピーディな効率化を進めていくために「PDCAを高速で回す」というように使われています。PDCAについて詳しく書かれたものはいっぱいありますし、もう古いと言われたりもしています。ここでこれを詳しく話すつもりはありませんので、ご安心を。PDCAは次の4つのステップ、サイクルの頭文字です。
①Plan/計画
②Do/実行
③Check/評価
④Action/改善
今回お話ししている事業計画はすぐわかるように①です。
①計画に従って②実行します。ここまでは、ちゃんとできている中小企業も多いです。問題はその先。③評価というのは実績をちゃんと把握し、それを分析すること。お金の見える化ということでいうと、お金の見える化はちゃんとしてたりしますが、本来はなんで計画通り行かなかったんだろう?計画がいけなかったのか?、やり方がいけなかったのか?を分析し評価しなければ本来の意味がありません。予算と実績を比較し分析することが必要です。さらに④の改善。③の評価によって計画がいけなかったのであれば、計画を直す、やり方がいけなかったのならどうするかを考え直す、これが改善です。その改善策をもとに①の計画を作り直し、また②実行する、というサイクルを繰り返していくというのがPDCAサイクルです。これを繰り返しおこなっていくことが大切で、計画を作ったから終わり、では、あまり意味がありませんよね。また、③評価の中で④改善案を考える中で何をすべきかだけでなく、何からすべきかの優先順位を考えることも重要です。
この講座の中ではまず「お金の流れの見える化」からやってみましょうと提案してきました。そして今回は「お金の流れを予測」してみましょうとお話ししています。これができれば、その予測と実績を比べてみれば良いですよね。
難しい話をしておいてなんだと言われるかも知れませんが、まずはDOしてみましょう。

●業界の事業計画を分析してみる
ちょっと視点を変えて、実際の事業計画を見てみましょう。
この講座の中でも何回かみていただいている、エイベックスの事業計画です。

https://contents.xj-storage.jp/xcontents/AS00612/6666d8a8/9695/411b/9310/3e357765a361/20220513150604802s.pdf


avex vision 2027 contents

【エイベックスとは】
このコンテンツの中で、まず「エイベックスとは」の中で自身を、
「多くのIPを抱え、360度のマネタイズを実現する、日本最大級のエンタテインメント・カンパニー」であると分析しています。

avex vision 2027 P5

さらにエイベックスは、
「才能を発掘•育成する」(IP創出) と 「才能から生まれる感動と体験をより広く届ける」(マネタイズ)の2本柱のビジネスモデルであるとし、エンタテインメント•ビジネスのマネタイズの基本は参加人数と単価であり、エイベックスは長年の蓄積を通しマネタイズの手段を多く備えるとしています。

avex vision 2027 P10

「大きなIPが特に利益を生む事業構造」であり、「ファン基盤は積み上がり、収益基盤として安定化する」ことが特徴であるとしながら、
●音楽パッケージ•楽曲起点の事業モデル
●アーティスト•タレント起点の事業モデル
●アニメ•映像起点の事業モデル
を説明しています。

【エイベックスのこれまで】
こうしたビジネスモデルを説明した上で「エイベックスのこれまで」 の中で業績を振り返り、現状の事業環境を音楽市場とアニメ•映像市場に分けて分析している。
●日本の音楽市場
国内音楽パッケージ市場は減少傾向も、高価格化により下げ幅は緩やかに。一方で国内音楽配信市場は成長中

avex vision 2027 p18

●世界の音楽市場日本の音楽市場は全体で減少傾向にあるが、グローバルではパッケージの縮小をストリーミングなどのデジタル化がカバーし、2014年前後を底に成長市場に転換。特に、アジア (除く日本) は成長率の高い市場

avex vision 2027 p19

●アニメ•映像市場アニメもまたデジタル化に伴う海外展開の加速が、IPそれぞれの価値を更に引き上げている

avex vision 2027 p21


【エイベックスのこれから】
エイベックスはどのようなビジネスモデルの中にいて、現状はどのような環境にいると考えているかを分析した上で、「エイベックスのこれから」と言う形で中期経営計画を展開しています。
冒頭、次のように言っています。
『このたび当社は、企業の活動目的と社会的な存在意義の明確化を目的とした新たな企業理念「エンタテインメントの可能性に挑みつづける。」を定義し、この企業理念に基づく新たな中期経営計画「avex vision 2027」を策定しました。』
自分達は「エンタテインメントの可能性に挑みつづける。」ことを目指していることを明確にしています。
そして『企業理念に基づく重点戦略として「多様な地域・多様な分野で“愛される”IPの発掘・育成を目指す」を掲げ、「マネジメント」「レーベル」「ライヴ」「アニメ・映像」を注力領域と位置付けるとともに、4つの主要施策を推進します。』
さらに4つの主要施策をマクロデータや図表をもとにさらに詳しく説明しています。
【主要施策1】
カルチャー毎の出口を意識した連続性のある自社IP開発
【主要施策2】
拡大する音楽配信市場に沿った育成強化と多様なIP発掘
【主要施策3】
IP価値を持ったフェス・イベントの開発
【主要施策4】
長く愛されるアニメ・映像作品のためのIP開発・IP獲得
【その他の施策】
人材・その他リソース面の強化・最適化


そしてこの施策により以下の目標数値を目指すとしています。

2023年3月12日現在、2023年12月までの実績は以下のように公表されています。

https://contents.xj-storage.jp/xcontents/AS00612/8c46fcc4/b400/41e3/9da3/721f002ee0f7/S100Q7X6.pdf

https://contents.xj-storage.jp/xcontents/AS00612/8c46fcc4/b400/41e3/9da3/721f002ee0f7/S100Q7X6.pdf

●説得力のある事業計画
水ものと言われる音楽業界においていかに説得力のある事業計画とするかをいろいろ工夫されていることがわかると思います。この事業計画の実行可能性について評価する立場にはありませんが、とてもいい事業計画だと思います。単位がデカすぎてよくわからんと、最初から拒絶反応を起こす方も多くいますが、金額に圧倒されずに百万円単位のものを円単位だと思ってみてみると意外と見えてきたりしますよ笑。
また、これを同じ音楽業界にいるものとして、業界のトレンドを知るという目的で見てみるのも面白いと思います。もちろん同じことはできなくても、ヒントには十分なるように思います。

●お金を「整える」ということ
「ミュージシャンのためのお金が整う講座」として講座を始めて9回目となりました。まずはお金ってなんなのという話から始めて、お金の流れの見える化の重要性の話をしてきました。見える化するだけで、お金は整っているはずです。それをさらに「整える」ためには目的を明確にすることが必要です。目的が明確になれば、今度は「お金の流れを予測」し、そこに向かうためのPlanをたて、PDCAを回すだけです。会社、起業してみたくなりました?面倒くさそうに見えてきました?繰り返しになりますが、まずはDo!してみましょう!



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