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おねてぃ ~hiver~

日射しが初夏を感じさせる季節
時が止まったような、静かな街で。
あたり前の日常が動きだす。

先生と。
風見みずほと出会ったときから。

僕の中で《停滞》していた時間が。

走りだす。
加速する。


そして、冬が訪れた。

先生と出会って、結婚してから。
二人で過ごす、初めての『冬』。
結婚から、いろんなことがあったね。
水澄と漂介が付き合いだしたり。
縁川の気持ちに応えられなかっり。
森野が僕と同じ病を抱えていたり。
僕が《停滞》したり。
僕らが先生の秘密を知ったことで、
先生と強制的に別れさせられたり。
先生の記憶を消されたり。

でも、僕らはこうして再会した。
もう一度、結婚もした。
縁川には恋人ができて。
水澄と漂介はずっとラブラブで。
僕と森野の病も、あれから発症してなくて。
跨はなにも変わらなくて。
まあ、おおむね、
いい感じになってるんじゃないかな。
多分。

僕と先生の停まっていた時間は。
再び動きだした。
再び。
加速していくんだ。

「宇宙は止まってるように見えるけど。
でも、違うんだ…。
宇宙は絶えず膨張してる。
絶えず、加速しているんだ…」

満天の星空を眺めながら呟くと、
先生は微笑みながら応えてくれた。

「ええ、そうよ。
この宇宙に、止まってるものなんて
一つもないの。
そこにある小さな石だって、
それを構成する原子は絶えず振動してる。
桂くんが《停滞》してたときも、
あなたは絶えず動いていた。
止まっていたのは、心だけ。
けど、その心だって動かせる。
動かせることができるのよ」

先生の柔らかな髪が、僕の頬に触れる。
実感する。
僕は、動いている。
先生と二人なら。
僕は。
どこまでも加速できるって。
永遠に。
加速し続けることができるって――…。

「そろそろ冷えてきたね。テントに入ろっか」

「加速しちゃう?」

「加速する」

そう――…。

これが、僕らの秘密の合い言葉。

なにをするかって?

そんなの。

言わなくてもわかるだろ?

( la fin )

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