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️吸血少年ドラドラ


【第一幕】


 ここはホットスイーツタウン。最もいろんな人種が入り混じり、最もカオスな街と言われている。中でも変わっているのが、【モンスター】と呼ばれる者たちも正式な住人として受け入れていること。モンスターとは移りゆく長い歴史の中で環境の影響か、あるいは科学社会の弊害か、人間とは随分離れた特徴を持って生まれた人種のことである。モンスターの中には特殊な能力を持つものや、まるで動物の姿をした者、そして恐ろしい形相をした者、などなど。とにかくそんな変わり者がたくさんいる街なのだ。しかし同じ街に暮らしているとはいえ、モンスターと人間の間にはそれはそれは深い溝が存在した。

 「おい!赤髪!そんな暗い顔してどこいくんだよ!ここは俺たち人間の学校だぜ!?モンスターのくるところじゃあないんだよー!」

 性悪な少年三人がそんな罵声を浴びせながら、1人の少女の前を通り過ぎて行った。少女は何も言い返せないまま、トボトボと学校へ向かっていく。教室に入り、自身の席に座ると、周りの視線が気になった。ヒソヒソとこちらを向いて話している。自分に対する悪口だということは、聞こえていなくてもわかる。少女の名前はショコラ。もうすぐで10歳になる女の子。彼女が周りから嫌がらせを受けているのは、彼女の赤い髪が原因だった。周りには赤髪の子など1人もおらず、少し目立った特徴があると無邪気に、集団で攻撃したくなるらしい。そんな毎日に嫌気がさしていたが、言い返せるほどの勇気もなかった。中でも一番の悩みの種は【彼女たち】だった。

 「赤髪ちゃん、みーつけた。」

 下校中、待ち伏せしていた【彼女たち】に捕まってしまった。抵抗する間も無いまま、人気の少ない校舎裏へ連れ去られてしまう。

 「おい、赤髪よお、お前この髪染めてこいって言ったよなぁ?ふつーじゃねぇんだからよぉ、だからみんなからモンスター扱いされてんだぜ?わかってんのか?ああ?」

 彼女の名はスフレ。学校で一番の不良集団のリーダーだ。その取り巻きたちも嫌な言葉をどんどん浴びせてくる。自分でもこんな髪すぐに変えてしまいたい。けど、家にそんな余裕はないし、やり方も知らないし、それに…お母さんがきっと悲しむ…。そんなふうに何も言い返せないまま、黙っていると、スフレがある提案をした。

 「そうだ、いいこと思いついた!お前どうせモンスターなんだからよ、【あの屋敷】に入ってこいよ!」

 その瞬間、戦慄が走った。い…嫌だ!!それだけは…!!あんな…不気味なところ…!!周りの取り巻きたちは、それは名案だと言わんばかりに騒ぎ喜び、そして私は無理やり、【あの屋敷】へと連れて行かれるのであった。

 お家から学校までの通学路、その途中に明らかに異質な雰囲気を醸し出す大きな屋敷が建っている。一体いつからあるのだろうか…。街の誰も答えられないほど昔から存在していて、外装はボロボロ。窓も割れているし、庭の雑草は伸び放題。夕方になるとコウモリが屋敷を行き来しているようだし……とにかく、普通じゃないのだ。この屋敷の噂は街中に広まっていて、あらゆる都市伝説がここから生まれている。スフレたちが考えたのはショコラを屋敷の中を探検させる、つまり肝試しをさせることだったのだ。

 「ほら、早く入りなよ!屋敷を一周して来るまで帰ってくるんじゃあないよ!」

 怯えながら屋敷の門を開けゆっくりと進んでいくショコラに、スフレが門の外から強めの念押しをした。中ば涙目になりながらも屋敷の扉に手をかけると、「ぎいいいいいい!!!」っと不気味の音が鳴り響いた。思わずスフレたちも寒気がしたが、ショコラはその何倍も怖がっていた。ゆっくり振り返るとスフレがこちらを睨みつけ、どうにも逃げ場がない。仕方なくショコラは不気味な屋敷の中へと入っていった。


【第二


 屋敷の中はそこら中が埃まみれで、あちこちに蜘蛛の巣が張り巡らされている。どこからか隙間風が吹き抜け、外は寒くないはずなのに何故か寒気が止まらない。人の気配はまるでないが、もしもお化けが出たりしたら…!そう考えると今すぐ帰りたい気持ちでいっぱいでしたが、今帰ったらスフレたちにもっとひどい目に合わされるかもしれない、と一歩一歩勇気を振り絞って歩き続けた。階段を上がると、明かりが灯っている部屋を確認した。誰かいる……!!それだけで気絶しそうになるもなんとか堪え、その部屋の前を通らないように踵を返した。すると古くなった床が軋み、ぎいいいい!!!という音が再び屋敷中に轟く。その時「誰だ…!!!」という低く野太い男の人の声が背後から聞こえた。怖くて動けずにいると、だんだんその声の主の足音が近づいてきて、すぐ後ろで止まった。ショコラはゆっくり振り返った。

 「ぎいいいいいやあああああああああああ〜!!!!!」ショコラは大声をあげ、そして気絶した。その声は外にいるスフレたちにも届き、彼女たちは一目散に逃げていった。ショコラが気絶するのも無理はない。何故ならその男は狼の姿をしていたのですから。その狼男は言いました。

 「ありゃ…気絶しちまった……。どーしよ、これ…。」

 ショコラが目を覚ますと、毛布がかけられており、目の前には暖炉が焚かれていた。まだ状況を飲み込めずにいると、背後から「おい、起きたか。」と声をかけられた。先ほどの声とは違い、少し幼いような…。そこにいたのはショコラよりも一回り小さい少年であった。自分より大きなアンティーク椅子にもたれかかり、こちらをじっと見つめている。オールバックに目つきは鋭く、フォーマルな格好。それになんだか…偉そうな…。「おい、お前。我輩の屋敷に勝手に上がり込むとは、いい度胸をしているな。」そう言われ、自分が不法侵入したことを思い出し、思い切り謝った。ついでに経緯を説明すると「なんだその女どもは!この王子である我輩のことを完全になめているな!許せん!」王子…?こんなボロボロのお屋敷なのに…?と思ったが口を継ぐんだ。その時扉が開き、何人かが部屋に入ってきた。

 「あー!起きたー!よかったー!ごめんねー脅かしちゃって!」そう言うのはなんと先ほど気絶した時に遭遇した狼男!しかし明かりがあるところで見てみると全然怖くない…。優しい表情でショコラを心配してくれていた。

 「もー!ワーラビーさん、こんな小さな女の子脅かしちゃ可哀想ですよ。」と隣にいる小さなコウモリが話している。そしてもう1人、包帯をグルグル巻きにした高長身の男が、「…料理……持ってきた……。」と言いながら鍋を抱えていた。ショコラはようやく理解した、どうやらこの屋敷はモンスターが住む屋敷なのだと。ショコラが衝撃を受けているうちに目の前にはどんどん料理が並びだした。しかもどれも美味しそうなのだ。随分とお腹を空かせていたショコラは勢いよく料理にがっつく。「おい!王子の我輩より先に食べるとは何事かー!」そんな言葉も聞こえないほど夢中になってショコラは食べ続けた。その食いっぷりにみんな驚いた様子です。

 食後、ショコラは感謝を述べ、少し遅めの自己紹介を交わした。オールバックの少年の名はドラドラ、吸血鬼である。ドラドラはこの屋敷の主人であり、モンスター界の王子様。その昔父親がモンスター界の王様を務めていて、屋敷にもたくさんのモンスターたちが行き来していたが、突如ドラドラの前から姿を消し、屋敷に寄り付く者も次第にいなくなってしまった。そして残ったのが狼男のワーラビー、包帯男のハギィ、コウモリ執事のアンミツ、この四人。今ではみんなそれぞれアルバイトをしてなんとか生計を立てているのだそうだ。ドラドラはというと、毎日寝ては食べ、散歩しては寝て、歌を歌っては寝て……。つまりニートである。「心配するな!今にすごいことを成し遂げて見せる!なんといっても我輩は王子なのだから!」そういうとみんな呆れたように笑い合っていた。

 モンスターというのは全く別の生き物のような気がしていたけれど、話してみるとこんなに愉快な人たちなのだ。見た目は全く違うけれど、とっても気持ちが良くてなんて素敵な人たちなんだろう、ショコラはそう思いました。それからショコラは学校の帰り道、よくよくこの屋敷に通うようになったのです。

 ドラドラたちと話していると、ショコラはとても元気が出ました。毎日学校であったつらいことを話し、彼らも負けじと今までの不幸自慢を持ち出してはお互い笑い合う。彼らはモンスターであるがゆえに、これまでショコラが経験したこともないような辛いこともたくさん経験してきていた。けれどそれを感じさせないほど、彼らは輝いていた。そして人生を楽しんでいた。

 ある時ショコラは自分の赤髪をほめられ、思わず泣いてしまった。今までこの赤髪のせいでみんなからいじめられていたけれど、ショコラは本当は自分の赤髪が大好きだったのだ。なぜならこの赤髪は、今はもういない大好きなお母さんと一緒だったから…。その日からショコラは少し自分を認めてあげられるようになったのです。

 しかしそんな中、ある日下校中に、ショコラは再びスフレたちに捕まってしまいます。スフレは言いました。「なあ赤髪ちゃん、最近あの屋敷に通ってるそうじゃねぇか?」


【第三幕】

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