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HIDEO!


【第一幕】


 地球上にはたくさんの生命が存在する。そして宇宙にもたくさんの生命があることも知っている。だけれど自分の暮らしている星を【生命】だと考えている人は、そう多くない。暗闇の中からひとりの少女が歩いてきました。少女の頭には双葉の植物が生えています。
「私の名前は【アース】、人からはそう呼ばれている。私は君たちが暮らしている地球そのものなのだ。この姿は仮の姿、君に話しかけやすいように形を変えている。今回私が出てきたのは他でもない、君に頼み事があってきたんだ。え?なんで頼み事を聞かなきゃいけないんだって…?」
アースは真剣な眼差しでこう言いました。
「もうすぐで私は死ぬからだ。」

 東京都内の高校では毎日のように悲鳴が聞こえてきます。その悲鳴の正体は、毎日のように虐められている【ヒデオ】の声です。
「ぎゃー!!!やめて!!やめてよー!!!ごめんなさい!許してー!!!」
ヒデオは学校の不良集団に絡まれ、ロープでぐるぐる巻きにされ、木に吊るされていました。そのイジメの主犯格は【アキラ】という赤髪の男でした。
「ヒデオー!そっからの眺めはどうだ?最高だろう?お前はチビだからな!俺様に感謝するんだな!」
ヒデオは小さい頃からアキラにイジメられ続けています。毎回ヒデオが泣き叫ぶものですから、アキラも楽しくなり調子に乗ってしまうようです。ですがヒデオの泣き声が聞こえてくると、いつも決まって「あの人」が来るんです。ほら、きました。
「アキラー!!!ヒデオを放しなさーい!!」
不良グループに飛び蹴りを喰らわせて登場したのは、ヒデオの幼なじみの【ハナコ】です。ハナコは次々と不良達をなぎ倒していき、残ったのはアキラだけになりました。
「テメー、ハナコ…!また俺の楽しみを邪魔しやがって…!!」
「何が楽しみよ!こんな可愛げな少年を虐めて何が楽しいっていうわけ??この性悪!!」
ふたりは構えましたが、アキラが先に降参して立ち去っていきました。彼曰く、女と戦う気にはなれないそうです。一度もハナコに勝てた試しがないのによく言います。ハナコはヒデオを木から下ろして、何事もなかったかのように教室へと戻っていきました。ヒデオにとってこれがいつもの光景なのです。ヒデオはハナコに守られてばかりの自分に嫌気がさしていました。

 学校の帰り道、ハナコはヒデオに言いました。
「ヒデオあんなの気にしちゃダメよ。ヒデオは確かに泣き虫だけど、弱いわけじゃないわ。ヒデオは誰よりも優しいし、努力家だもの。アキラみたいなどうしようもない奴が現れたら、いつでも私が守ってあげる!それで良いじゃない。」
ハナコはヒデオにとにかく優しい。どうしてそんなに構ってくれるのかわからないくらいに。ハナコは格闘技を昔から嗜んでおり、同年代では間違いなく最強の女子高生なのだ。アキラもいつもハナコに負けているが、その次くらいに強い。
「でも…ハナコちゃんを守れるくらいに強くはなりたいよ…」
ヒデオはハナコに聞こえないくらいの声でそうつぶやきました。

 ヒデオは毎日のように夜になると走り込みをします。これも自分を強くするためのトレーニングです。そして近所の河原にたどり着くと筋トレをします。これも毎日の日課です。汗だくになり地面に倒れこみます。そしてなんだか泣けてきました。ヒデオは壊滅的に運動の才能に恵まれなかったのです。どれだけトレーニングをしてもハナコやアキラのようにはなれないのだと、毎日のように突きつけられるからです。夜空に浮かぶ、滲んだ満月を見上げながらヒデオはそっと呟きました。
「誰にも負けない強さが…僕にもあればなぁ…」
その時、どこからか見知らぬ人の声がしました。
「少年よ、その願い叶えてやろうか?」
こどもの声?慌てて周りを見渡しますが、どこにも人の姿はありません。幻聴か…と思ったその時、ヒデオの目の前の地面が突然ボコボコと盛り上がりだしました。訳がわからず、声も出せずにその不思議な光景を眺めていると、そこからなんと!幼い少女が顔を出したではありませんか!ヒデオは非常に驚きましたが、その少女は平然と地面から首だけを出した状態で再びヒデオに語りかけました。
「少年よ、力が欲しいんだろう。くれてやっても良いぞ。」


【第二幕】

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