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ピーチボーイズ ~ピーターとひとりぼっちの島~


【第一幕】


「出港ー!!」船長の合図とともに船は港を離れ、出航した。船の名は【ピーチボトル号】。まるでボトルを水に浮かべたような形状をしていることから、そう呼ばれている。船は次の目的地へと向かうため、進路を変え加速する。

 「帆を張れー!!進路南南西!取舵いっぱーい!!」その指示に「あいあいさー!!」と応える船員たちの声。ピーチボトル号は探査船。まだ発見されていない島を見つけたり、調査したりするのがお仕事。この世界にはまだまだ発見されていない未開の地がたくさんあるといわれています。ピーチボトル号はこれまでにもたくさんの島を発見してきた、結構すごい船なんです。さて、今回は一体どんな島を訪れるのでしょうか。

 ピーチボトル号の船員はたった4人しかいません。海の仕事はロマンがいっぱいですが、その分危険が伴います。人を募集してもなかなか集まらないのはよくある話です。そんな危険を顧みず、船に乗り込む勇気ある船員たちを紹介していきましょう。

まずは船長の【ジャック】!この船のリーダーであり一番の年長さん。自信家で腕っ節は強いが、細かい作業が苦手で大雑把。

そして右から【ポエミィ】。誰よりも強気で度胸のある、この船唯一の女の子。怒らせると怖いので、誰も彼女には逆らえないのです。

次に【ココナツ】彼はこの船にずっと住みついているワンちゃん。かなりの切れ物で、誰よりも知識があり、とてもずる賢い。謎の多い二足歩行のワンチャンです。

そして最後は【ピーター】、この物語の主人公だ。とってもマイペースでみんなから心配されがちな少年。だいたい事件を起こすのはいつも彼なんです。

 そんな彼らの前に、またひとつ困難が押し寄せてきました。

 「まずいな…!」ジャック船長が望遠鏡を覗きながらそう呟きました。進行方向に大きな雨雲が見える。このまま進むと嵐に巻き込まれてしまいます。ジャック船長は急いで進路を変えるよう、3人にそれぞれ指示を出しました。船は進路を変えスピードを上げますが、思いの外、雨雲がやってくるスピードが早い。このままでは船に直撃してしまいます。

 「お前たち何をやってるんだー!全然間に合っとらんじゃないかー!」ジャックは焦ります。

 「なんでこんなに重たいのよ…!!ってピーター!!あんた回してる方向逆じゃない!!」ポエミィがようやくその原因に気づき、

 「あれー?ほんとだー!ごめんごめん、うっかり」ピーターが正しい向きに動かし始めた頃には

 「ワンワンワンワンワン!!!」もうすでに手遅れ……ピーチボトル号は嵐に巻き込まれ、どこかへ流されてしまいました。

 ポエミィが目を覚ますと、そこは見知らぬ島でした。嵐に巻き込まれたものの、どうやらまだ見ぬ島に偶然たどり着けたようです。周りを見渡してみると、他の3人も無事に流れついていました。船は…だいぶ損傷していますが、航行には問題なさそう。ポエミイは急いで3人を叩き起こし、向かい合っては今後の作戦を立てることにしました。

 「まずはこの島の調査が先決だ。無人か有人か、食料はあるか、移住可能かどうか」そう、探査船の一番の目的は移住可能な土地を開拓すること。早速島を調査するようですね。ジャック船長を先頭に、ピーターとポエミイが続いて歩きます。ココナツは浜辺に残り、船の修繕作業。一見何の変哲もない島。しかしこの後、彼らに悲しい戦いが待ち受けているとは、思ってもみませんでした。


【第二幕】


 島の中央に向かってしばらく歩いてみるとすぐ、3人はこの島の違和感に気づきました。見渡すとそこら中に見たこともない機械が横たわっており、苔がそれを覆っているのです。人気がないので誰も訪れたことがない無人島だと思ったが、そうではなさそう。カプセルホテルのような集落や効率的に食料を栽培できるように作られた農業施設の跡地もあった。一見ジャングルのように生えている草や木々たちも、実は人工物。見れば見るほどこの島は、まるでコンパクトシティ。とても機能性を追求した一つの街だったことがわかる。大昔にとても栄えていたけれど、今は誰もいなくなってしまった悲しい島、そんな感じがします。そしてジャックたちはそんな、なんとも言えない不気味さを抱えながら、無事に島の中央にたどり着いたのです。

 同じ頃ココナツも、船の修理をしながらこの島の違和感に気づいていました。浜辺からは見えていませんでしたが、ピーチボトル号から海底を覗いてみると、それはそれはたくさんの船が沈んでいたのです。どれもピーチボトル号よりも大きくて頑丈そうなのに、なぜか破壊され、沈められているのです。それにこの島、太いパイプのようなものをたくさん生やしていて、とても不気味。ココナツは嫌な予感がしました。

 島の中央にあったのは、大きなドーム型の施設。とてもシンプルなデザインで、ポツンと扉がひとつだけ付いていた。3人が扉に近づくと、突然扉が話しかけてきました。

 「アイコトバハ?」え!?合言葉!?そんなの知らないわよ!とジャック船長とポエミイがあたふたしていると、ピーターが話しかけました。

 「ねえ、君だれ?僕ピーターだよ。君ひとりぼっちなの?友達はいないの?」すると扉がひとりでに開きました。「アイコトバ【ヒトリボッチ】ニンショウシマシタ。」偶然ピーターが合言葉を当ててしまったようです。ピーターはそそくさとドームの中へとやれやれとふたりは呆れながらピーターの背中を追いました。中に入ってみると驚きました。そのドーム壁一面に数え切れないほどの人の顔が並んでいるからです!よく見てみるとその顔は高画質の液晶に映し出された映像でした。その異質な空間にポエミイもジャックも気味悪がっている。それをよそにピーターはどんどん中へ進んでいきます。ドームの中央に何やら大きなカプセルのようなものが横たわっている。3人がカプセルの中を覗き込んでみると、何とそこには少年が眠っていたのです!たった、ひとりぼっちで……。

 「これは…触らない方がいいな…」ジャック船長がふたりに言います。

 これだけの高技術を備えた島の、おそらく中心になる人物。今は眠っているのか死んでいるのかわからないが、このドーム自体は死んでいない。下手に触ると動き出すかもしれない。これは他の島から応援を呼んで、対処してもらうしかない。それがジャック船長の判断だ。3人はカプセルに刺激を与えないよう、静かに出て行こうとする。しかしその時、ピーターがカプセルの配線につまずき、カプセルに手をついてしまった!そして「まさか…!」とジャックとポエミイが恐れた通りのことが起きた。カプセルからプシュー!!と煙が吹き出し、カプセルの扉がひとりでに開き出したのです!ピーターがまたもや偶然、起動のボタンを押してしまったようです。そして案の定、煙に覆われながらカプセルに横たわっていた少年がゆっくりと起き上がり、目の前に立っているピーターたちを見て、いきなりこう言いました。

 「……おはよう。君たち、僕の友達になってよ。」ジャックは、明らかに異質な空気を放つこの少年に危機感を覚えました。額には赤く丸いボールのようなものが埋め込まれていて、目つきは異常にに悪い。見た目は少年なのに、全てを見透かしたような目をしている。恐ろしくてその場を動くことができません。そんな中ピーターは何の躊躇もなく、

 「え!友達?もちろんいいよー!なろうなろう!」とその少年と手を繋いで小躍りをしています。意外にもその少年はそれに応えるように楽しそうに踊り、やがて自己紹介を交わしていた。

 「僕はマシューだよ。僕たちはきっといい友達になれるね。そこのふたりも友達になってくれるよね?」ポエミイがそれを拒否しようとしたが、ジャックがそれを制し何度も大きくうなづいた。ここで拒否をすればきっと大変なことになってしまうと、感じ取ったからです。気を良くしたマシューは、この島の歴史について色々と話してくれました。

 【この島は、その昔たくさんの人が暮らしていてとても平和な国だった。この小さな土地を生かして豊かに暮らすために、先人たちは工夫を凝らし、見事このコンパクトシティを築き上げた。しかしその技術を欲しがり他所からやってくる連中は後を経たず。島がそれを拒むと、連中は次第に圧力をかけてくるようになったのです。そんな時、島の人たちが頼りにしたのがマシュー。幼いながらもマシューは島随一の頭脳により外部からの迎撃システムを作りあげ、侵入者を徹底的に排除することに成功した。しかしあまりにも残酷な攻撃を目の当たりにした島の住人は、マシューを恐れ島を離れていくようになった。だんだん離れていく島の人たちを理解できないマシューはその迎撃システムを変更し、外に出ていく者を拒むシステムへと変更した。これで誰も出ていかなくなる、そう思っていたが、日に日に島の住民たちは海へ飛び出す人は増え続け、やがてみんな海の藻屑となり。この島に残ったのはマシューただ1人になってしまった。誰もいなくなり、あまりにも退屈になってしまったマシューは自分を冷凍保存させて、長い間カプセルの中で歳を取らないまま次の来客をずっと待っていたのだそうだ。】

 要約すると、そういうことらしい。話を聞いてジャックもポエミイもドン引きしていた。このドームの液晶画面に映し出されていたのはこれまでになくなった人たちの顔だったのだ。このドームはいわばお墓……とんでもない島に上陸してしまったものだと、ふたりは一斉にピーターを睨む。そしてマシューは続けてこう言いました。

 「みんなどうしていなくなっちゃうのかな……?こんなに素敵な島なのに…僕のことを置いていって、本当にひどいよ。君たちは…いなくなったりしなよね……?」マシューの殺気が増しました。ジャックもポエミイも全力で肯定しようとしましたが、またもやピーターがそれをぶち壊します。

 「えー!ダメだよ!ずっとここにいたら退屈で死んじゃうよ!それに僕たち海に出るのがお仕事だもん、そんなの無理だよ。」マシューはその言葉を聞き、ブチ切れました。次の瞬間、ドームの地下から巨大な触手がいくつも出現し、一斉にピーターたちを襲い出したのです!


【第三幕】

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