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移動ポケット物語

子どものポケット、小さすぎる問題

子供服のポケットってすごく小さいんですよね。子供服自体が小さいわけだから当たり前なのですが、ほぼ何も入らないくらいの大きさしかありません。息子がズボンのポケットに入れていたものといえば、拾ったどんぐりくらいしか思い出せません。園生活の間はどんぐりが入れば十分だったポケットに、小学生になると突然、ハンカチとティッシュを入れる必要が出てきます。これはかなりの難問です。薄くて小さな布ハンカチを右ポケット、ミニティッシュを左ポケットになんとか捻じ込んで乗り切ろうと試みるのですが、布ハンカチは全然水を吸ってくれないし、ミニティッシュはビニール素材が滑ってポケットからすぐに飛び出すしで用を為さず、息子の場合は結局、学校に持参する手提げカバンの中にタオルハンカチとティッシュを入れておくという方式で、小学校時代のハンカチ&ティッシュ問題を乗り切りました。

秋になると、息子のポケットには常にどんぐりが入っていた気がします

”移動ポケット”という発明

私は、”移動ポケット”というものを、どなたがいつごろ発明なさったのか知りません。あるとき女の子のママである友人が、こんなの作ってもらえない?と言って私のところに持ち込んだものが、今思えば”移動ポケット”でした。”移動ポケット”というのは、美容師さんや庭師さんが、ハサミや道具を入れて腰に着けているポーチのようなもので、通常は、ズボンやスカートのウエストのところにクリップや安全ピンで留める形になっています。そこに、ハンカチやティッシュを入れられれば、ポケットが小さくたって平気!ポケットがなくたって平気!という、素晴らしいアイテムなのです。私は、”移動ポケット”というネーミングの妙も、こういう生活密着型の発明も大好きなので、発明された方には拍手を送りたいなぁといつも思っています。

その時に私が初めて作った移動ポケット

いわゆる普通の形

ところで、前述の、私のところに持ち込まれた、友達がどこかのバザーで購入したという手作りの”移動ポケット”は、ハンカチを入れる為のポケットと普通サイズのティッシュケースが一体になっていて、それを大きなフタで覆ってマジックテープで留める、という仕様のものでした。最初に見たものは縦型でしたが、その後、横型のものがあることも知り、しかしとにかく、フタで覆ってマジックテープ、という仕様だけはどちらも同じでした。私も当時は、そういうものなんだと思っていて、フタで覆ってマジックテープ仕様、つまり”普通の移動ポケット”を、当時は珍しかった男の子向けに作って、D403で販売したりもしていました。

2019年頃に販売していたフタのある移動ポケット。これはこれでかわいいな、また作りたいな♡

ないなら作ろうの精神

そんなある時、現役小学生の娘を持つ友だちが、娘が移動ポケットのフタは邪魔だから要らないと言うんだという話しをしていて、私は、!!!!!となりました。たしかにフタは要らないかもね、もしも、たとえばリップクリームみたいな小物を入れた移動ポケットを装着して鉄棒でもするなら、中のものが零れ落ちないようにフタは必要だろうけど、ポケットにハンカチくらいしか入れないならフタは無くてもいいよなぁ、むしろ要らないよなぁ、だけど、フタのない移動ポケットって見たことないなぁ、もしかしたら存在していないのかもなぁ…と思ったのです。子ども達の素朴な感想や素直な希望は、時にびっくりするほど冴えていて、そういう時に、すごく嬉しくなって、俄然やる気が湧いてきて、よし!ないなら作ろっか!となるのが私です。この時の私は強めのスイッチが入って、その日の内にもう試作品をいくつか仕上げ、それを件の友だちや別の友だちにも渡して、現役小学生に商品モニターをお願いしたのでした。

理想を追い求めて

商品モニターをしてくれた子ども達からのフィードバックは、ハンカチを入れるところをもう少し大きくしてほしい、というものでした。私としては、子ども向けのタオルハンカチなら余裕で入るなぁと思っていたので、え?!もっと大きく?!と驚いたのですが、使っているタオルハンカチというのが、しっかり水を吸ってくれそうな肉厚の大きめのタオルハンカチであるということを知って、マジか…でもそうね、そりゃあ手を洗ったあとは、しっかり拭けるタオルハンカチを使いたいよね、うんわかったよ、もうちょっと大きくするね、となりました。しかし、ポケット口を大きくしようと幅を広げると、今度は、ティッシュを引き出す時に、ポケットティッシュのビニールが滑って、ポケットティッシュごと飛び出してしまうという問題が発生してしまいました。使いやすさを大切にしているD403なので、これはどうにかして解決せねばなりません。それで思い付いたのが、ティッシュケースの口を交差させるという方法でした。これなら、ケースの口が捻れているので、ポケットティッシュが滑って飛び出す心配はありません。そしてこれは怪我の功名で、この捻れが、フタがなくてちょっと寂しくなってしまったかもしれないD403のフタなし移動ポケットの、デザイン的アクセントになったなぁとも思っています。

結果的に、ほぼ正方形のかたちも、ティッシュケース口の捻りもいい感じに。

「やっぱり!」と「そうなの?」

この移動ポケットは、リリース当初から好評で、作っても作ってもすぐに売り切れてしまう商品となりました。小さな商品ですが、というよりも、小さな商品だからこそ、作るのに時間も労力も掛かるのですが、どの色も満遍なく人気なことや、リピートが多いこと、なにより、お客さんから「理想どおりの移動ポケットです!」というお声をいただくことが嬉しくて、カバン作りの合間に、黙々と作り続けています。やっぱりそうかぁ、フタなしマジックテープなしの移動ポケットがほしいと思っていたのは、友だちの娘ちゃんだけじゃなかったんだなぁと、しみじみ嬉しくなります。ひとつ誤算もありました。それは、当初、無地のシックな色味5色で男の子向けにと思って作り、商品名も「For BOYS」としていた商品が、女の子にも求められていたということです。D403はよくお客さんからメールをいただくのですが、そこに、「娘が気に入っています」とか、「すみません、実は娘用なんです」と書かれていることが少なからずあったのです。シックでシンプルなものを好む女の子もいる、という、知っていたはずの大切なことを、こうしてお客さんに思い出させてもらいました。この気付きと反省から、無地のフタなし移動ポケットを追加でもう5色、デザインを少しだけ変えて新たにリリースすることになりました。男の子向けとか女の子向けとか、そういうことを意識しすぎない、みんな向けの移動ポケットです。

無地の他に大好きなブラックウォッチも追加しました。

商品づくりという物語

その後、クリップだけが壊れてしまったのでクリップだけ売ってもらえませんかという問い合わせを時々いただくようにもなったので、最初に移動ポケットをお求めいただく際にも、あらかじめ予備のクリップをお求めいただけるように、クリップのみの販売もはじめました。これもまた、お客さんにD403を育ててもらったエピソードです。そして実は他にも、お客さんのお声から、ここを改善したいなぁと思っていることがあったりします。

こんなふうにD403の商品は、ひょんなことから生まれ、お客さんに使っていただきながら少しずつ改善を重ねて、良くなっていくものでありたいなぁと思っています。そして、いつでもそこには、お客さんと子ども達の物語があってほしいなとも思います。

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