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セリエAの採点法への批判

 これまでイタリア、セリエAの採点法を色々と検証してきました。今回は、それらの分析を受けての講評と批判、そして選手を評価する方法について考えをまとめていきたいと思います。

 最初にこの採点の分析を始める際に触れたように、この分析の目的は『セリエAの採点方法を改めよ』という主張をするためのものではありません。

 日本ではこうした採点が導入されていないことから、選手の評価方法として参考にすべき点と、修正が必要な点を把握すること、日本向けに採点法を導入する上でのたたき台にできたらと考えています。

 というわけで、これまで分析してきた結果を振り返りつつ、今回はセリエAの採点法の「ここはどうなの?」という点を批判していきたいと思います。

批判1:採点の分布

 採点を分析していて最初に思ったのは、採点の分布が少し変わっているなというものでした。以下の図1-1-1に以前の分析であげた採点の分布を示します。

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 特に赤い線で表したSpikerで顕著で、分布の山が5.5と6.0の2つあります。これは採点が5.5と6.0になる選手が多いことを意味しています。

 どこが変わっているかというと、多くのデータを集めると以下の図2のような分布の形になるからです。

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 この分布の形は正規分布と呼ばれています。少々堅苦しい名前ですが、英語で書けばNormal Distributionで普通の分布という意味です。平均付近に該当するケースが最も多く、そこから離れるほど該当するケースは少なくなります。

 全てのデータは正規分布になるわけではないのですが、この形に当てはまらない何らかの理由が、セリエAの採点にはあることを意味しています。

 可能性の1つとしては、1つ1つのプレーを細かく採点に反映しているというよりは、大体このくらいという感じで5.5や6.0を割り当てていることが考えられます。

 もう1つは、バレーボールの試合は一期一会のように見えて、実は選手のパパフォーマンスには大きな違いがなく、採点が5.5や6.0に収束してしまうという考えです。これは仮説としては大胆過ぎるので、可能性としては低いとは思います。

採点方式について

 次に、以下の図を見てください。

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 これは男子1部2015/2016シーズンのEmma Villas Siena とVolley Potentino Potenza Picena の試合から、Emma Villas Sienaの選手のスタッツを切り抜いたものです。

 赤の下線を引いたMAJDAK MLADEN選手とTAMBURO VINCENZO選手はSpikerの選手です。この試合ではTAMBURO VINCENZO選手は第1セットに出場し、残りはMAJDAK MLADEN選手が出場しています。

 注目したいのは2人の採点で、1セットしか出場していないTAMBURO VINCENZO選手の採点のほうが、MAJDAK MLADEN選手よりもわずかに高いのです。

 普通に考えて、1セット出場した選手よりも3セット出場した選手のほうが仕事量が多くなり採点が高くなると思うのですが、2人の採点にはほとんど差が無いどころか1セットしか出場していないTAMBURO VINCENZO選手の採点のほうが高くなっています。

 プレーを比較すると2人のプレー内容は結構違うように見えますが、これが0.1点の差となるのでしょうか?原因はわかりませんが、採点の方式として0点からスタートして、プレーごとに得点を積み上げるというよりは、6点前後が出発点でそこから採点が増減しているのかもしれません。

リベロの採点

 さて、セリエAの採点で個人的に最も問題と感じるところに、リベロには採点が着かないことがあります。

 各種プレーと採点との関係を分析した結果も、選手の得失点と最も関連が強い結果となっていましたが、その一方で、サーブ・スパイク・ブロックのプレーが無いリベロには採点が付きません。こうした理由があってなのか、リベロには採点がつかないわけです。

 しかし、採点が着かないからといってリベロがゲームに貢献していないわけではありません。ここは、何とかして評価に組み込みたいところです。

選手の評価に必要なこと

 とりあえず批判としてはこんなところです。一番の問題はリベロに採点がつかないところではないかと考えます。リベロが関わるノンスコアリング・スキルは採点の対象外という所でしょうか。

 確かに、失点することはあっても、得点になることはない(厳密にはレセプションやディグが乱れて相手コートに直接落ちて得点になることがありますが、稀であり好プレーともいえない)プレーを採点すると、減点にしかならないので、採点には組み込み難いのかもしれません。

しかし、リベロが勝敗に全く貢献していないという人はいないでしょう。彼らが関わる直接得点にはならなくても、次やその次のプレーの成否に関わるプレーをどのように評価するかがカギとなってきます。

野球のはなし

 野球には、WAR(Wins Above Replacement)という評価方法があります。

 リーグの平均的な選手と比較して、何勝分の価値があるかを示す指標です。この指標の特徴は、投球、打撃、守備、走塁という全く異なるプレーでの結果を、勝利への貢献度という値に統合して評価しているところにあります。

 バレーボールにおいても、ポジションによって選手の役割はまちまちで、リベロのように得点に直接関わるプレーの少ない選手もいます。彼らのプレーの価値を、他の選手と同じ尺度に載せて評価する方法が必要といえるのではないでしょうか。

まとめ

 以上、長々とセリエAの採点を分析してきましたが、いくつか問題もあり、現状のシステムを日本にそのまま導入すれば良いというものではないと考えます。

 しかし、日本にも試合ごとに選手の採点があったほうが良いとは思います。試合ごとの選手のパフォーマンスを正確に評価することは分析の基本であり、ファンの目から見ても試合を語る材料が増えることは望ましいことだからです。

 差し当たっては、リベロのような採点のつかない選手をどう評価すべきかを考える必要があると思います。次回からはリベロの評価方法について、余力があればセッターの評価方法についても考えていきたいと思います。

タイトル画像:いらすとや

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