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今年のバレーボール学会に向けて

 今年のバレーボール学会の要項が発表されました。開催にあたってご尽力いただいた先生方にお礼申し上げます。

 学会の形式は、時世を反映してのオンライン開催です。例年よりも安めの参加費で以下の特別講演とオンコートレクチャーを見ることができるので結構お得かもしれません。

〇特別講演…*約1時間
  初代アナリストの活動を振り返って
  ~データ・ルール・人、何と戦う?~
   演者: 福田 隆(愛媛大学)

〇オンコートレクチャー…*約1時間
  ビーチバレー特有のルールと技術と戦略 
   講師: 佐伯美香(元ビーチバレー日本代表選手)
   指導補助者: 楠原千秋(愛媛県競技力向上対策本部)
   (撮影会場: 愛媛県松山市ひめっこビーチスクール)

研究発表をどうしよう

 上記の公演に加え一般研究発表があるのですが、これに参加しようかどうか頭を悩ませていました。昨年は中止になったのですが、一般研究発表のみ大会HP上に公開される形となりました。正直そんなに有意義な発表だったとは思えませんでした。

 今年は発表を止めてしまおうかと考えていたのですが、いざ止めてしまうとなんだか火を絶してしまうような気がするので、やっぱり発表しようと思います。「お前なんか居なくても大丈夫」と思われる人もいるかもしれませんが、バレーボールについてアウトプットしようという人は残念ながらそんなに多くないのです。

 というわけで、準備不足ではありますが手持ちのデータを使って発表したいと思います。

研究のテーマ

 選んだテーマはこちら、

『移籍によるスパイク決定率の安定性への影響』

 今回はこのテーマを選んだ経緯を解説しておきたいと思います。

スタッツは数値の大小を見るだけではダメ

 バレーボールには様々なスタッツがあり、スパイク決定率(得点/打数)もその中の1つです。

 基本的にスタッツはその値の大小が意味を持っており、これを元にチームや選手が評価されます。ただし、スタッツごとの1ポイントの意味は、そのスタッツの平均と分散によって変わってきます。スパイク決定率が40%の選手はいますが、サービスエース率が40%の人はほとんどいないというイメージをしてもらうとわかりやすいかなと思います。

 これに加えて、スタッツが持つ安定性の理解も必要というのがここのところ進めている分析です。

 スタッツの中には、あるシーズンの値に対し、次のシーズンにも同程度の値になるものと、全然違う値になるものがあります。前者を安定性のあるスタッツ、後者を不安定なスタッツと呼びます。

 問題はこの不安定なスタッツです。あるシーズンで良い値であっても、それを元に次のシーズンにレギュラーに抜擢すると、次のシーズンは全然違う値になってしまうというリスクがあります。

 このリスクを避けるには、個々のスタッツの安定性を理解しておくしかありません。

スパイク決定率のはなし

 スタッツの安定性を調べる方法は単純です。シーズンを挟んだ2つのスタッツの相関を求めるだけです。これを年度間相関と呼びます。

 そして件のスパイク決定率ですが、以前分析した結果、どちらかというと不安定な性質を持つということがわかっています。

 全くの不安定というわけではないのですが、サーブの得失点と比べれば安定したスタッツとはいえません。スタッツが不安定ということは、スパイク決定率は選手自身の能力以外の要因にも左右されやすいといえます。

イタリアの移籍事情

「選手自身の能力以外の要因」にも色々ありますが、今回はテーマに挙げたように、“移籍”の影響を検証してみたいと思います。

 イタリアセリエAの2010/2011シーズンから2018/2019までの選手の所属クラブを見たところ、以下の表に示すように約半数がシーズンを跨いで違うクラブに移籍をしていました。

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 日本とは全く事情が異なるといって良いと思います。

 所属するクラブが変われば、新しいチームメイトと関係の作り直しです。当然、前年と同じようなスタッツとはいかないのではないでしょうか?

 そして、半数もの人が移籍しているのであれば、スパイク決定率の年度間相関も弱く、不安定になってしまうのではないかと考えられます。

 ということは、クラブを移籍した人と残留した人に選手を分けて、スパイク決定率の年度間相関を求めれば、

・移籍した選手のスパイク決定率の年度間相関は弱い
・残留した選手のスパイク決定率の年度間相関は移籍した選手よりは強い

 上記のような関係になるかと予想されます。残留した選手のスパイク決定率の年度間相関は強く安定したスタッツといえる、とまでは今のところはわかりません。

 この分析結果を報告しようと思います。乞うご期待。

おわりに

 長々と失礼しました。こうしたバレーボールという競技自体が持つ性質を検証する研究を基礎研究といいます。基礎研究は大きな賞でも受賞することがなければ目立つようなものではないのですが、世の中の便利なものは大抵その背景に基礎研究の積み重ねがあるものです。

 バレーボールでもそうした基礎研究を積み上げているところです。小さな1歩ではありますが、3/21~3/31まで学会HPに公開されているそうなので、見ていただけると幸いです。

タイトル画像:いらすとや


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