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噛み合わない守備力の評価

 前回、Statcastデータより算出された守備の評価指標であるOuts Above Average(OAA)と、既存の守備の評価指標Ultimate Zone Rating(UZR)のデータを比較してみました。その結果は以下の図のようになりました。

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 相関係数は0.65なので、OAAの高い野手(CF)は、UZRも高いという傾向になっています。

 同じ野手の守備力を測定しようとしているのですから、このような結果になるのは当然なのですが、中には前回指摘したように、どうも2つのスタッツがかみ合わない選手も出てきます。

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 この図は、2018年のJaCoby Jones選手と2018年のBilly Hamilton選手のでーたで、UZRにはほとんど差がないけれど、OAAには差がついてしまっていることを指摘するものです。同じ守備力を評価しようとしても、こうしたケースを0にするのは難しく、どうしても出てくるものです。

こうした評価の乖離はなぜ生じてくるのでしょうか?

 現時点では、UZRでとらえきれない要素をOAAは数値化しているのか、それともOAAが過敏に反応しているに過ぎないのか判別はできません。

 一度の分析でこれを明らかにすることはできませんが、今回は結論を急がず、この2人のデータを探り探り見ていこうかと思います。

次のシーズンはどうなった?

 最初に見て見るのは、2人の2019年の成績です。2018年のOAAには差がありましたが、これが翌年の2019年になって歩み寄り近い値になれば、2018年のOAAの差はちょっとした誤差と見ることができます。というわけで、2018年から2019年のOAAとUZRの変化の図を以下に示します。

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 矢印の始点が2018年、終点が2019年の値になります。

 Billy Hamilton選手は、OAAが低下しましたがUZRは上昇しています。一方の評価では悪くなり、もう一方のUZRは良くなったという変化です。JaCoby Jones選手はOAAに変化はありませんが、UZRは大幅な低下となっています。

 2019年になれば2人の成績は近づくかとも思いましたが、よくわからない変化をしているというのが正直なところです。

守備範囲を見てみよう

 OAAとUZRの数値だけを見ても良くわからないので、どれくらい広くセンターを守ることができていたかというデータを見ていこうと思います。

 その前に、UZRの基礎点を以下の表1に示します。

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 この表のRngRが守備範囲の広さを数値化したものです。RngRを見ると、2018年の2人のUZRは同程度とはいえ、RngRはJaCoby Jones選手のほうが広く守ることができているという結果です。

 2018年から2019年のRngRの変化を見ると、Billy Hamilton選手は増加、JaCoby Jones選手は低下しています。

 それでは、Baseball Savantより2人の守備時の捕球位置を図にしたものを示します。まずは、Billy Hamilton選手のデータを示します。

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 左側の図が2018年のデータで、右が2019年です。□が大きいほど、その位置での守備機会が多いことを意味します。この□が赤くなるほどOAAはプラスに、青くなるほどマイナスを計上していることになります。

 さて、RngRの値が上昇したように、2018年から2019にかけて守備範囲は広くなっているでしょうか?

 あくまで主観的に図を見ただけですが、広くはなっていないと思います。一方で、図の赤の破線で囲んだ部分、2018年は赤くなっておりOAAのプラスを稼いでいますが、2019年はそれが無くなっています。OAAの低下はこの辺りの影響がありそうです。

 続いて、JaCoby Jones選手のデータを示します。

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 UZRでは、2019年にRngRが大きく低下し、守備範囲が狭くなったことを表していますが、図からは狭くなったようには見えず、また、青い□でマイナスを計上しているようなところも確認できません。

 2019年は赤の破線で囲んだ部分での守備機会が多くなっています。この辺りはセンターの定位置と呼べるようなところで、アウトを獲得するのが容易です。そのため、UZRでは高得点がつかなかった可能性が考えられます。ただ、それでも大きなマイナスになる理由にはならないと思います。

 この補給位置のデータはOAAのベースになっていることから、OAAの値を反映した傾向になっていると思います。この守備範囲とUZRのRngRとが噛み合っていない感じがします。

難易度の捉え方に違いが?

 OAAもUZRも捕球した際のアウトをとる難易度によって得点が変わってきます。OAAでは野手からボールまでの距離と時間からこの難易度を求めます。そして野手ごとに、処理した打球の難易度ごとに守備機会を集計しています。具体的には以下の5つの☆によって分類されています。

☆☆☆☆☆(0-25%)
☆☆☆☆(26-50%)
☆☆☆(51-75%)
☆☆(76-90%)
☆(91-95%)

 一方、UZRの引用元であるFANGRAPHSでは、Inside Edge Fieldingという難易度の評価を行っています。こちらは以下の6段階の評価となっています。

Impossible (0%)
Remote (1-10%)
Unlikely (10-40%)
About Even (40-60%)
Likely (60-90%)
Almost Certain / Certain (90-100%)

 OAAとUZRの得点に差がつくのは、こうした打球の難易度の評価にズレが生じている可能性も考えられます。そこで、Billy Hamilton選手の守備機会の難易度を比較してみたいと思います。

 OAAの難易度は複数ポジションでの守備を合算した値で集計しています。JaCoby Jones選手はセンターとレフトを守っており、センターのみの難易度を見ることができないので、ここでは、Billy Hamilton選手のみ表示します。

 まずは、それぞれの難易度を以下の表に示します。

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 これをグラフ化したものを以下に示します。

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 Billy Hamilton選手は、☆で表したOAAの難易度は2018年から2019年で変化がありますが、下側のInside Edge Fieldingの内訳にそれほど変化はありません。

 難易度の評価にズレがあるようでこれが得点化に影響している可能性は考えられます。

対象を増やす

 あれこれ見てきましたが、「よくわからん」というのが現状で、たった2人のデータから結論を急ぐよりは、これで良いと思っています。

 この2人の他のデータを掘り下げたり、他の選手間の組み合わせを分析し、結果を蓄積していくことでだんだんとその理由が見えてくるのではないかと思います。

 いずれ、NPBでもトラッキングデータが標準装備されれば行き当たる問題なので、今のうちにMLBで試しておくことは結構重要だともいます。


タイトル画像:いらすとや

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