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新しいスタッツを作ってみよう コンセプト編

 前回に引き続き、新しいスタッツの開発を進めていきたいと思います。前にも断りを入れましたが、完成品のスタッツを見せるのではなく、その過程で生じた問題への対処を含めた制作過程の試行錯誤を晒していくことが主な目的です。

 今回は分析したデータを紹介しようと思っていたのですが、その前に必要なことをまとめていたら長くなってしまったので、データを分析する前のコンセプトについて書きたいと思います。

 分析が大切なのは当然として、その前にスタッツを開発していく上でのコンセプトの設定も同じくらい重要です。

サーブ効果率

 さて、具体的に進めていくテーマは「サーブ効果率の再構成」です。現行のサーブ効果率は以下のような計算式になっています。

サーブ効果率(%)=((サービスエース×100)+(効果×25)‐(サーブミス×25))÷打数

 注目するのは、効果率を構成する要素たちで、上記の計算式上では、1本のサービスエースは、サーブミスと効果の4本分の価値があることを意味しますが、この値は妥当なものなのでしょうか?

 こうしたサーブ効果率を構成する要素を吟味していき、新たな効果率を提案できればと考えています。

分析の前に:統計的な最適解≠実戦で使える

 最初に注意しておきたいのが、この先に諸々分析していきますが、最終的に出来上がった「新しいサーブ効果率」は、統計的には最適解といえるかもしれませんが(厳密には最適というよりは”現状での最善”くらい)、実用面では現行のサーブ効果率と大差の無い物が出来上がる可能性はあります。

 そうなってしまった場合は、新しいスタッツの導入は見合わせるべきでしょう。しかし、時間と労力を費やして作り上げたものは捨て難いというのも人情かと思います。

 その気持ちもわかりますが、ここでは最初の目的に戻りましょう。そもそもスタッツの開発の目的はチーム(もしくはバレーボールという競技全体かもしれません)への貢献だったはずです。これに対し「こんなに頑張って作ったものを捨てるのは惜しい」と考えるのは個人の執着です。

 データを分析する者は、目的と個人の感情を天秤にかけて目的を選ぶ必要がある場面が何度かやってくると自分は考えています。その時には、後ろ髪をひかれながらも、自分の作品を取り下げる勇気が必要です。

※個人の趣味、もしくはあくまでトレーニングとして数値を転がして作ったスタッツはこれには当てはまりませんが、そういうものはそもそも人に見せるようなものではないと思いますので、今回の対象とは見ていません。

 これはスタッツが出来上がって、実践投入に向けた検証をする段階で考えれば良いことです。分析を始める前から気にすることでもないのですが、そうなる可能性があることは想定しておくと良いかと思います。

何を測定するのか?能力と貢献度

 具体的なスタッツの開発に入っていきたいと思います。まず考えるのが、スタッツのコンセプトです。

 「サーブ効果率」なのだから、サーブの良し悪しがわかるスタッツなわけですが、ここでは“能力”と“貢献度”という考え方を区別します。

 今回はサーブの”能力”を測定するスタッツの開発を目的としていますが、改めて能力と貢献度の違いを考えてみたいと思います。

 “能力”とは何か、これは個人が持つサーブの能力と考えます。前にも書きましたが、人が持つ能力は基本的には直接測定できないものです。なので、測定可能なデータから能力を推定するわけです。

 一方、“貢献度”とはチームやゲーム(もしくはシーズンを通じた)に、サーブでどれだけ貢献できたかと考えます。

 似たような概念ではありますが、ここで考えるべきは、

バレーボールのサーブにおいて能力=貢献度となるか?という問題です。

 能力の無い選手が貢献することは、まぐれの一発はあるかもしれませんが、継続しては難しいでしょう。では、能力はあるのに貢献できないというケースはあるでしょうか?

 以下の2つの状況でサービスエースを獲得した場合について考えてみましょう。

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 状況1はセット終盤の僅差、状況2は同じくセット終盤ですが大差で負けているという状況です。状況1でのサービスエースはセットの形勢を大きく傾けるもので、セットの勝敗を決める上での大きな貢献といえます。

 一方、状況2は既に大勢は決しており、ここで一発決めたところで勝敗への貢献は大きくないでしょう。同じサービスエースでも決めた状況が異なれば、貢献度は異なるわけです。

 では、選手はこうした状況を選ぶことができるでしょうか?

 ピンチサーバーなら可能ですが、スタメン出場している選手はサーブを打つ順番が決まっており、サーブの際の状況を選ぶことはできません。ということは、優れたビッグサーバーであっても、状況の巡り合わせが悪ければ、サービスエースを獲得しても貢献度を低く評価されるケースも出てきます。

 能力が必ずしも貢献度に結びつかない場合もあるということです。

何を測定したいのか?

 長々と説明してきましたが、能力=貢献度とならない場合、目的に応じてどちらに主眼を置いたスタッツを目指すべきかという指針を定めるべきです。

 ”貢献度”に主眼を置いたスタッツは、期間内にどれだけ貢献できたかを表すことになるので、実際の査定がどうなっているかはわかりませんが、選手の年俸の査定などに向いているといえます。

 一方、例えばVリーグで活躍した選手を日本代表に抜擢しようとする際には、その選手が置かれた状況によって変動する貢献度よりも、選手が持つ能力を評価するスタッツのほうが望ましいでしょう。

 別にどちらが良いというものではなく、目的に応じて主眼を置くポイントが変わってくるということです。

分析方法も変わってくる

 さらに、貢献度と能力のどちらに主眼を置くかという問題は、スタッツの分析や計算の方法にも影響を及ぼします。

 貢献度に主眼を置くのであれば、サービスエースを決めた、もしくはサーブをミスした際の状況も評価の対象となります。重要な状況であれば貢献度は高く、そうでもない状況であれば貢献度は低くなります。こうした要素を得点化に組み込む必要があります。

 一方、能力に主眼を置く場合には、サーバーが置かれた状況は評価の対象外となります。それよりも、与えられたサーブの機会に対して、どれだけ得点や失点、もしくは効果を上げたのかという得点化となるでしょう。

 これもどちらが良いというものではありません。必要に応じて得点化の方法が変わってくるというだけのことです。

まとめ

 以上、分析に入る前に長くなったので今回はこのくらいにしておきます。次からはちゃんと分析したいと思います。

 スタッツを開発していく際のコンセプトによって、その値は大きく異なってきます。競技によっては、なんやかんやとたくさんスタッツがあるのはそのためです。

 これをただ客観的な指標だと喜んで飛びついていては火傷の元です。スタッツを見る際には、その数値だけでなく、背景にあるコンセプトを理解しておくことが重要というわけです。

タイトル画像:いらすとや

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