続・バレーボールの構造論
はじめに
少し前になりますが、学会のHPで発表原稿が公開されています。私の発表分は以下になります。何度か予告的な内容はこれまで紹介していますので、そちらを参照しつつ見ていただくと、少しわかりやすくなるかと思います。
演題番号は2番です。
さて、今回は前回の終わりに、短期決戦について触れる予定としていましたが、予定を変更して前回に続いてバレーボールの構造論についてもう少し書いておこうと思います。
バレーボールの攻撃と守備
試合後のインタビューで、
「負けはしたが、守備はよかった」
こんなコメントを聞いたことはないでしょうか?今回は、このコメントの意味をバレーボールの構造から考えていきたいと思います。
結論からいえば、このコメントは野球の構造にはフィットしますが、バレーボールでは重要な要素を飛ばしており、不足があると考えます。
野球で考える
まず、野球では攻撃中に失点することはなく、守備中に得点することはありません。そして、得点と失点は勝敗に強く結びついていることは、これまで紹介したピタゴラス勝率の示すところです。図に表すと以下のような形になります。
得点と攻撃、失点と守備が直結しているので、守備が良い=失点が少いと理解することができます。
バレーボールの場合
本題のバレーボールです。私の発表内容ににあるように、バレーボールでは勝敗に直結する要素を、得点と失点ではなく、サーブから始まるラリーの得点率であるブレイク率と、レセプションから始まるラリーの得点率であるサイドアウト率としています。
得点と失点を使わなかったのは、例えば”10得点”足りないような場合、サイドアウトによる得点と、ブレイクによる得点のどちらが足りていないのかというのがわからないためです。
では、バレーボールにおいて、サイドアウト率とブレイク率に攻撃と守備がどう結びつくかというと、野球とは異なり以下のようにそれぞれ結びつきがあります。
仰々しく図を描いていますが、サーブから始まるラリーの攻撃と守備、レセプションから始まるラリーの攻撃と守備がそれぞれあるというだけです。
ここで「負けはしたが、守備はよかった」というコメントに戻ります。このコメントを図2に当てはめると、以下のような点が見えてきます。
1.「サイドアウト率」と「ブレイク率」を飛ばしている
2.守備が良かったのは、どちらのラリーなのか?
3.負けたのは良い守備が、「サイドアウト率」か「ブレイク率」に結びついていないためではないのか?
こんなところでしょうか?バレーボールの構造として「サイドアウト率」と「ブレイク率」を見落とすと、良い守備がなぜ勝利へと繋がらなかったのかという問題と、そこから必要な改善点を見出すことができなくなってしまいます。
改めてバレーボールの構造論
学会発表の資料にも書きましたが、こうした構造からバレーボールとは、
サーブとレセプションから始まる2種類のラリーでの得点を奪い合う競技
と表すことができると思います。
これに対して、野球は、「攻撃によって得点を増やし、守備によって失点を抑える競技」ということができます。
勝敗と攻撃・守備を直接結び付けるのは、バレーボールというよりは野球的な考え方といえます。
バレーボールに攻撃と守備が無いわけではありませんが、どちらのラリーにおける攻撃と守備なのかを意識しておかなければ、具体的なチームの改善に繋げるのは難しくなるのではないかと思います。
当たり前のような話ですが、バレーボールの構造を理解する重要性がわかる例かと思います。
おわりに:監督の本音はわからない
最後に、このコメントがあるチームの監督の試合後のメディアへの言葉だったと仮定してみます。
コメントの内容は、バレーボールの構造において重要な点を見逃してしまっています。ではこの監督はバレーボールという競技のことを”わかっていない”のでしょうか?
「そうともいいきれない」と個人的には考えます。
監督の仕事は預かっているチームを勝たせることです。そのためには、メディアからの質問に対し、必ず正直に回答する必要はないと考えます。チームにとってプラスに作用するなら、時には内容をボカしても、トボけても良いと思います。時には”わかっていない”振りをする必要もあると思います。
情報を受ける立場から見れば、いつも誠心誠意本音を話してくれるほうがありがたいですが、そういう人がチームを率いる立場に向いているとはいえないでしょう。
なので、公に出てくる監督やコーチのコメントなどは、今回のようにバレーボールを考察する材料にはなると思いますが、コメントの内容から彼らの資質を知るようなことは難しいのではないかと思います。
というわけで今回はここまで。次回は前回予告したように短期決戦の話としたいと思います。
タイトル画像:いらすとや
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