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バレーボールの構造論

はじめに

 先日中止が決まったバレーボール学会ですが、一般研究発表のみWeb発表となることが決まりました。3月8日には公開される(学会HP)そうなので、興味のある方は見ていただけるとありがたいです。

 また、前々回に予告的なものを書いていますので、概要はそちらを参照してください。

 今回は、せっかく公開が決まったので、上記の予告から研究の発端になった野球のピタゴラス勝率の解説を追加してみようと思います。そうすることで、バレーボール版のピタゴラス勝率の導入を目指して作成した南部勝率の意義がわかりやすくなるかと思います。

ピタゴラス勝率の構造

 先述したように、今回の研究の発端は野球のピタゴラス勝率です。計算式は以下のようになっています。

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 このピタゴラス勝率を図に表すと以下の図1のようになります。

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 勝率(≒ピタゴラス勝率)は、得点と失点の値によって決まることを表したものです。統計的には勝率の約90%が得点と失点によって決まることがわかっています。

 リーグ戦の目的は勝率を最大化させることです。ピタゴラス勝率の功績は、得点と失点という、この目的に最も強く影響する要因を明らかにし、具体的な勝率が予測できることを示したことにあります。

次のステップ

 勝率に対する得点と失点の関係がわかると、次のステップとしては、『どうやって得点を増やし、失点を減らすか』という次の目的が必要となります。そして、必要な得点増と失点減を達成するために、チームは選手を編成し試合に起用します。

 野球においては、得点と失点は独立しています。攻撃中に失点することはなく、守備中に得点することはありません。

 しかし、起用した選手は攻撃にも守備にも参加します。攻撃が非常に得意でも、守備では大きな穴となるという選手も珍しくはありません。このあたりのバランスを考えながら選手を起用し、戦術で彼らの長所を活かし、短所をカバーしていくことになります。

 一連の流れを図示すると以下の図2のようになります。

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野球の構造

 このように、ピタゴラス勝率からチーム造りの指針を得ようとしていくと、自然と野球の構造を理解し、その構造の中でチームにとって必要なアプローチを採用するという形になってきます。

 どこのチームもやってはいることですが、勝利のために必要な得点と失点がわかるということは、目標を明確に持てることにつながります。

 そして、当たり前のことですが、チームに与えられた人的資源・予算・時間は多少の差はありますが有限です。限りある資源を有効に使うためには、競技の構造を正しく理解し無駄のない計画が必要となります。(資源に限りがあっても、とにかく練習時間の量でカバーしようというのが日本的発想ではありますが……)ピタゴラス勝率はこうしたアプローチを助けてくれるものです。

 上記のような野球の一連の流れをバレーボールにも導入したいというのが、今回の研究の目的なわけです。

バレーボールの構造論

 野球において、図2に示したような一連の流れを想定できるのは、図1に示したピタゴラス勝率において、得点と失点から計算されたピタゴラス勝率が実際の勝率と強い関係にあることが前提になります。

 そこで今回の研究でまず目指したのが、バレーボール版のピタゴラス勝率に相当する、南部勝率という指標です。

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 バレーボールでは得点と失点が野球のように独立はしていないので、南部勝率ではサイドアウト率とブレイク率に着目しています。この関係を図示すると以下の図3のようになります。

 野球における得点と失点を、サイドアウト率とブレイク率に置き換えた形です。この南部勝率と実際の勝率の関係は、学会からWEB公開される資料を確認してみてください。かなり強い相関を得ることができています。

 そして、研究の最後に図2に相当するバレーボールにおける次のステップの提案も行っています。これはあくまで次の課題になります。

おわりに

 発表用の資料を送って、Web上で公開されるなんて形式は今回が初で、多分次は無いのではないかと思っています。そういう意味ではどうなるのかちょっと楽しみです。

 学会の準備委員会の皆様には、前例の無い事態の中の対応、心より御礼申し上げます。

 ところで、野球でもバレーボールにも当てはまりますが、リーグ戦をやっただけではシーズンは終わりません。競技によって名前は異なりますが、短期決戦のプレーオフが控えており、これを勝ち抜ける必要があります。

 では、短期決戦においても、今回のような構造の理解とアプローチで良いのか?それとも短期決戦特有のアプローチが必要なのか?こうしたテーマについて次回は書いてみようと思います。

タイトル画像:いらすとや



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