サイドアウト率とブレイク率から勝率を予測する
個人的な話
今回は個人的な話、来月の3月の7日と8日に、愛媛大学で日本バレーボール学会第25回大会が開催されます。そこの一般研究発表の部で発表する予定です。
今回は、その内容の予告をしてみたいと思います。
学会で発表するものをnoteにアップすることも可能ですが、分析したデータをオフィシャルな場所に持って行って、議論と批判を受けるというのもエビデンスの構築には必要なステップと考えて参加しています。
はじめは野球から
では内容について、野球にはピタゴラス勝率という指標があります。このピタゴラスというのは、古代ギリシアの数学者のことで、ピンと来ない人でもピタゴラスイッチは聞いたことがあるのではないかと思います。このピタゴラス勝率は以下のような計算式になります。
計算としては、得点を2乗した値を得点の2乗と失点の2乗で割った値で、電卓でもあれば簡単に求めることができます。
このピタゴラス勝率は、高精度で実際の勝率を予測できるということが知られています。”予測できる”というのは、ピタゴラス勝率が、実際の勝率を比較して誤差が小さい(ピッタリ一致するわけではない)値になるというものです。気になる人は、昨年のプロ野球の順位表などから計算してみてください。
この「実際の勝率との誤差が小さい」という性質から、様々な応用が可能です。
例えば、オフシーズンに来季の目標勝率を定めた場合、昨年の得点と失点から目標とした勝率までにどれくらいの変化が必要かを逆算することができます。
上記の表は2019年のパリーグ5位の日本ハムの成績です。仮に2020年の目標勝率を.500(クライマックスシリーズ進出となる3位と4位のボーダーラインになりやすい)と定めたとします。
この目標勝率をピタゴラス勝率で表した場合、ピタゴラス勝率が.500となるには、ピタゴラス勝率では得失点差が0である必要があります。
2019年の日本ハムの得失点差は‐26なので、ここから得失点差を0のチームをどうやって作り上げていくかを考えていく必要があることになります。
このような感じで、オフシーズンに翌年に向けての指針を得ることができます。ピタゴラス勝率が1つあれば何もかも解決するわけではないですが、チーム作りにおいて指針を得ることができるというのは非常に大きなメリットです。
バレーボールにもピタゴラス指標があるときっと便利
ようやくバレーボールの話です。バレーボールもリーグ戦をやって勝率(≒勝点)で順位を競っているわけで、ピタゴラス勝率のような指標があれば便利なのは想像できると思います。
そして、ピタゴラス勝率は野球だけではなく別の競技にも導入されています。しかし、自分は競技特性の違いからバレーボールには用いることができないと考えます。その理由として、以下のような問題が考えられます。
・バレーボールは得点先取型の競技
・バレーボールの得点と失点は独立していない
前者は、野球の場合ルール上、得点と失点は制限なく入ります。一方で、バレーボールの場合、25点先取でセットが終わるため限りがあります。
後者は、野球の場合、攻撃と守備が独立しており、攻撃中に失点することは無く、守備中に得点することはありません。これは様々な競技の中でも異色な特徴です。一方、バレーボールでは攻撃中に失点することもあり、野球とは少し性質がことなります。
こうした競技特性の違いから、バレーボールでは同じように得点と失点を扱えないと考えます。
こうした競技特性の違いを無視して、バレーボールにもピタゴラス勝率が使えるのかどうかを検証してみる、というのも1つのアプローチの方法です。しかし、自分はこの方法はとらず、バレーボール向けにピタゴラス勝率に相当する指標を作る必要があるだろうと考えます。
南部正司氏 曰く
それでは、バレーボールにおいてどうするかというと、前男子日本代表監督、南部正司氏のアイデアを拝借します。発端は以下のインタビューになります。
このインタビューから一部を以下に引用します。
「サイドアウト(%)とブレイク(%)を足して100(%)になれば大体その試合は勝つんです」
サイドアウト率とは、レセプションから始まるラリーの得点率、ブレイク率はサーブから始まるラリーの得点率になります。
バレーボールでは、得点と失点ではなく、ラリーの開始状況の違いによる2種類の得点率によって勝敗が決まるという考えです。
ただし、この“試合は勝つ”という部分は、1つの試合の勝敗という短期的な視点によるものと考えられます。リーグ戦などある程度試合をこなした上での勝率との関係が示されているわけではありません。
提案:南部勝率
そこで今回の発表では、このサイドアウト率とブレイク率のデータを用いて、リーグ戦の勝率との関係を分析します。そして、野球のピタゴラス勝率のように、サイドアウト率とブレイク率から実際の勝率と誤差の小さな指標を作ることができるか検証したいと思います。
研究にあたり、サイドアウト率とブレイク率からピタゴラス勝率に相当する値を求めるアプローチを『南部方式』、サイドアウト率とブレイク率から求める値をピタゴラス勝率ならぬ『南部勝率』と命名します(本人の許可なし)。
研究のステップとしては、まずは南部勝率を算出し、この南部勝率と実際の勝率との関係を分析します。
南部勝率は使えるか?
分析の結果ですが、学会に持って行く以上、南部勝率と実際の勝率との誤差は小さく、野球におけるピタゴラス勝率のような使用ができそうだという結果を得ています。
しかし、そういう結果があるという情報だけでは何の役にも立ちません。今回は予告なので、内容としてはここまでにして、南部勝率が実際にどのように使えるかという話は、発表の当日にお話しできればと思います。
まとめ
こんな感じで行きますよ、というのが伝わればと思います。説明の足りていないところなどあれば、ご指摘いただけるとありがたいです。
さて、大会まで2週間と迫ってきたのですが、世間の状況を鑑みて「開催できそう?」というのは気になるところ。
開催するにしても、しないとしても、難しい判断になると思いますが、決断は尊重したいと思います。
タイトル画像:いらすとや
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