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スパイク効果率の意味と意義

 前々回のテーマは“机上の理論”に飛びつくのではなく、実践でどのような価値があるのかを求めていく必要があるというものでした。

 その際に例としてスパイク効果率を紹介しました。以下の図に示すように、スパイクの効果率は、決定率と比較して得点だけではなく失点まで考慮しています。

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 しかし、これはあくまで机上の理論でのメリットであって、実践での価値を追求していくと、実は効果率は決定率とほとんど変わらないという問題があることを紹介しました。

 今回は、この効果率の意味と意義について、もう少し掘り下げて説明をしていきたいと思います。

決定率・失点率・効果率

 最初に結論をあげておくと、効果率の意義は“データの要約”にあると考えます。そして、効果率は使いどころを選ぶ指標です。“得点も失点も考慮している”という机上の理論にあるメリットだけで飛びつくには少しリスクがある指標といえるでしょう。

 まず、基本的にはスパイクの決定率と失点率の2つのデータで見ていくことを推奨します。効果率を求める過程で失われる情報もあるからです。例として以下の図1-1と図1-2に示します。

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これは、前々回のデータと同じものを使用しています。

 横の軸に決定率、縦の軸に失点率を示しています。図1-1ではRaadik Andrus選手(2017)とSaatkamp Lucas選手(2009)の2人の選手の例をピックアップしています。

 この2人の効果率は、48.0%(Raadik Andrus)と47.9%(Saatkamp Lucas)と拮抗しています。しかし、図1-1の上で2人を見ると離れていることを確認できます。

 2人の決定率と失点率を見ると、Raadik Andrus選手は54.0%の決定率に失点率が6.0%、Saatkamp Lucas選手は62.0%と14.1%とかなり異なります。Raadik Andrus選手は失点の少ない選手で、Saatkamp Lucas選手は決定率が高いけれども失点率も高い選手といえます。

 こうした情報が効果率を求めることで失われてしまうわけです。できれば決定率と失点率の2つを見ることを勧めるのはこのためです。

 また、図1-1と図1-2を見ると前々回してきた効果率と決定率の相関が高すぎる問題の原因も見えてきます。決定率の分布は、30%後半から60%辺りに分布しているのに対し、失点率の分布の幅は狭くなっています。このため、失点率を計算に加えても効果率の数値はそれほど変化しないために、決定率との相関が高くなってしまいます。

効果率の使いどころ

 ここまでは、効果率の問題点の指摘をしました。ここからは、効果率の使いどころの話です。効果率の意義はデータの要約にあるということは既に言及していますが、データの要約とは情報量を減らすということです。

 『いつも必ず詳細な情報が必要なわけではない』ということは、データを扱う上で意識しておく必要があります。

 では、どんなときに詳細な情報が必要でなくなるのか、これを紹介していきたいと思います。

アナリスト-コーチ間のやりとり

 アナリストは試合中ベンチ入りすることなく、外から監督を含めたコーチングスタッフと情報のやり取りをします。別に以下の図2のようなイメージです。

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 試合中にスパイクの決定率や効果率をやり取りするようなことは実際には無いとは思いますが、ここでのポイントは「ゆっくり情報交換をしている時間がない」ということです。

 時間的余裕のないときには詳細な情報をやり取りしている暇はありません。多少の情報のロスはあっても、必要最大限の情報を伝えるためにも、データを要約する必要があります。

 他にも、試合中ではなくても情報伝達の場で、簡潔な情報を好むコーチングスタッフもいると思います。また、先ほどのRaadik Andrus選手とSaatkamp Lucas選手のように効果率が同程度でも決定率と失点率が異なるようなケースでは詳細な報告が必要ですが、決定率と失点率を見てもそれほど違いが無ければ、効果率で十分な場合もあります。

 ケースバイケースになりますが、必要に応じてデータの見せ方を変える必要があるということは、データを扱う者の引き出しには入っておくべきスキルです。

統計的な事情

 次に、あくまでデータを扱う上での統計的な事情において要約が必要な場合があります。

 例えば、図1-1と図1-2では決定率と失点率を平面で見ることができましたが、ここから情報を増やしていくと、データを視覚的に見ていくことが難しくなります。例として、図1-1の決定率と失点率に効果率を加えた3つのデータを三次元で表現すると以下の図3のようになります。

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 これは三次元の散布図と呼ばれるもので、一度に3つのデータを見ることができますが、図1-1や図1-2のように平面(二次元)に示したものより、データの傾向を視覚的に理解するのが難しいと思います。

 そして、三次元まではこうして何とか表現できるのですが、これ以上情報が増えると、もはや散布図として視覚的に表現するのは不可能になってしまいます。

 データの数を増やして詳細に表現しようとしても、逆に難しくなることもあるということです。こうしたケースを避けるためにも、データの要約が必要となることがあります。

 別の例としては、多くの指標を集めて、以下の図4に示すような「勝利に強くかかわる要因は何か?」という分析をしようと考えたとします。

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 こうした分析を行えば、バレーボールの勝利のために必要な複雑な関係がわかることを期待してしまいますが、残念ながら上手くいかないケースも少なくありません。

・分析したけれどエラーが出た。
・分析はできたけど、結果が解釈できない。

 こうした問題が複雑な分析を行った際には起こりがちです。

 前者には、統計ソフトが分析を完了できずにエラーの警告がでるケースや、決定率が60%なら勝率は120%になるといった、あり得ない結果が出力されるようなケースもあります。

 後者もエラーのようなものですが、例えば、失点率が高いほど勝率が高くなるといった、どう考えてもおかしい結果になったり、そもそもどう理解してよいのかわからない結果になることがあります。

 こうしたことが起こるので、分析にあたって、あらかじめ情報を整理しておくことも大切な作業になります。扱うデータを減らすために効果率を使う必要がある場合もあるということです。

まとめ

 以上、効果率の意味と意義についての解説でした。「得点と失点を考慮しているから決定率よりも良い指標ですよ」と考えるのは良い方法ではないということは伝わったでしょうか。

 効果率には効果率の使いどころがありますので、そこを誤らない判断力がデータを扱う人には求められます。

画像:いらすとや
データ:FIVB

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