勝負強さについて
今回はデータを分析するといったな。あれは嘘だ。
というわけで、前回の終わりに今回はデータを分析しようといっていたのですがもう少し寄り道をしてみたいと思います。それがタイトルにもあるように『勝負強さ』についてです。
早くデータを分析しろよと思われる人もいるかもしれませんが、こうした寄り道を含めた制作過程の試行錯誤をお伝えするのが趣旨なので、ご了承ください。
前回へのリンク↓
能力は一定か?
さて本題です。サーブの効果率の指標化を目指す過程において、前回は状況を考慮した貢献度を指標化の対象とするか、それとも状況には左右されない選手が持つ能力を指標化の対象とするのかという選択で、後者を選ぶという話でした。
この選択によって、指標化の計算方法の方針が定まり、サーブを打つ際の状況は特に考慮せず、サーブの打数当たりの成果を求めていくことになります。
現行のサーブ効果率も、サービスエースとミス、効果を打数で割っているので、意図したかどうかは定かではありませんが、同じ方針になっているといえます。
しかし、能力というものは常に一定なのでしょうか?
厳密にはコンディションや、日々の練習、加齢による衰え等、小さく緩やかな変動はあると思います。ただし、ここで考えるのはごく短期間に大きく変動するようなことはあるのか?ということです。
そこで考えられるのが『勝負強さ』というわけです。勝負強さとは、特定の重要な場面で普段以上の力を発揮する(もしくは低下する)能力と考えることにします。
こうした『勝負強さ』によって、試合中に選手の能力が変動するようなことがあれば、サーブの打数あたりの成果をカウントするような評価方法では選手の能力をとらえることができません。
この企画ではスルーする
ただし、この『勝負強さ』については、今回話題として取り上げるだけで、以降このサーブ効果率の構築を目指す企画では特に扱う予定はありません。なぜなら、現在のバレーボールにおいて勝負強さを定量的に評価する方法は存在しないためです。
ただし、野口将秀先生(2016)が、“「勝負強さ」とは何か、をめぐる探索的研究 バレーボールの試合場面に対する反省的考察“を日本体育学会で発表していますが、現在利用できるものがないことがバレーボールにおいて勝負強さが存在しないことを意味するわけではありません。十分に研究の余地はあると考えます。
とはいえ、現状は利用できないのも事実で、今後利用できるような環境になれば、その時に考えたいと思っています。
勝負強さの実感
「バレーボールに勝負強さってあると思う?」
「勝負強い選手といったら誰?」
と聞かれれば、勝負強さは存在すると答える人が多く、勝負強い選手の名前が何人も出てくるかと思います。しかし、私たちが勝負強さと感じているものは、本当に勝負強いといって良いものなのでしょうか?
野球を例に
なぜ勝負強さの存在を疑うようなことをいうかというと、野球では“勝負強さ”を測りかねているためです。
例えば、野球中継を見ていると、チャンスの場面で打者の得点圏打率(二塁または三塁に走者がいる打席での打率)を持ってきて、この打者はチャンスに強い云々という解説が入ることがあります。また、“クラッチ”という重要な場面での打撃成績を評価する指標もあります。
こうした得点圏打率やクラッチは、一過的には良い成績を収めていても(もしくは成績が悪くても)、打席数が増えてくることで並みの成績に戻ってしまうという特徴があります。
例えば、あるシーズンの得点圏打率が高く代打の神様と崇められていた打者が、翌年はさっぱりというのも珍しくありません。
これは、たまたま良い結果が続いていたにすぎなかったものを、私たちが勝負強いと感じてしまっていたということです。
また、得点圏に走者がいる打席では、走者がいない打席と比較して全体的に打者の成績は良くなります。これは状況の効果と呼ぶべきもので、勝負強いために成績が良くなったわけではありません。
つまり、勝負強さとは、仮に良い成績を残している打者がいたとしても、それがたまたま良い結果が続いているだけに過ぎないのか、状況の効果で良い成績に見えているだけに過ぎないのか、という勝負強さ以外のの可能性を否定することで初めて『勝負強い』ということができるものなのです。
野球で測りかねているのはこの部分で、単に成績の良い打者だけなら見つけるのは難しくありません。
野球における勝負強さについては、蛭川皓平氏が以下のリンクの書籍で、アメリカでの研究動向の紹介と、日本のプロ野球における勝負強さの分析をしていますのでお勧めです。
バレーボールの勝負強さは?
野球では今のところ勝負強さの存在が認められていませんが、バレーボールではどうでしょう?
これは1つのテーマとして検証が必要かと思います。野球で確認されないからといって、バレーボールに存在しないとはいえません。
ただ、野球のやり方を参考にすることはできます。重要な場面で成績の良い選手を挙げるのではなく、勝負強さ以外の可能性を潰す必要があります。ポイントとしては、以下の3点でしょうか。
1. 勝負強さが発揮される状況とは?
2. たまたま成績の良い可能性
3. 状況の効果の可能性
まず第1に、「勝負強さが発揮される状況」の定義が必要です。セットの終盤?僅差であるべき?といった条件をどう設定するかです。
条件を決めたら、そこで認められた成績が本当に勝負強さによるものなのか?それとも2や3に挙げたような勝負強さ以外の要因によって勝負強く見えているだけなのか?という検証が必要です。今のところ考慮すべきは2つですが、必要に応じて増える可能性もあります。
どなたか検証してみようという人はいないでしょうか?
まとめ
というわけで、私たちが勝負強いと思っているものは本当の勝負強さなのでしょうか?これを検証してくれる人を募集しています。募集というか、我こそはという人は勝手にやり始めてもらったら大丈夫です。
「分析の前に統計学の勉強をしてから……。」という律義な人には、
”Done is better than perfect.”
という言葉を贈ります。FacebookのCEOのザッカーバーグ氏の言葉です。
まずは手持ちのスキルで、できる範囲のことを始めて、そこから必要な修正とスキルアップを重ねていった方が、十分な準備をしてから完璧なものを一気に作るよりも、所要時間は短く良いものが出来上がる、くらいの意味と自分は考えています。
では、次回こそは分析の話に入っていきましょう。
タイトル画像:いらすとや
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