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今のフジテレビのヤバさを可視化してみる

フジテレビの凋落が様々な媒体で記事化され、久しく経つ。

2017年末には、四半期決算でフジテレビジョンが営業赤字に転落という記事(フジテレビが赤字転落、もはや不動産会社がテレビ局を経営している状態)が、更に年明けには、年始に放送された「さんタク」や「めちゃイケ特番」の数字が芳しくなかったという記事が(『さんタク』『めちゃイケ』『都庁爆破』! 視聴者に総スカンされた正月特番3選)掲載されている。

なんというか、この手の記事にずいぶん慣れきってしまった気がするのだが、これまでに、フジテレビが倒産するとか、どこかのファンドに買われるとか、そういった具体的な話は一切聞かない。一体フジテレビのヤバさは今どこまで行っているのか?

ちなみに、フジテレビヤバい系記事はGoogleのニュース検索でざっくり調べる限り、視聴率三冠王から陥落した後の2012年頃から出始めているようで、既に5年以上ヤバさを指摘され続けていることになる。ちなみに2011年は、嫌韓デモやそれに付随した偏向報道(とされるもの)に関わる記事が多い。また、2012年以降出始めたフジテレビ凋落記事はNEWS POSTセブンが先導していたようで、複数の記事が確認できた。

ちなみにこれがざっと確認する限り最古のフジテレビ凋落記事だ。
「NHKのフジテレビ化」がフジテレビ凋落の原因と女性作家指摘

本稿では、5年間ヤバいと言われ続けているフジテレビの実際のところの「ヤバさ」を、2011年から2016年に渡って可視化してみる。視点は以下の4つだ。 1.視聴率 2.番組 3.経営環境 4.外部環境 

1.視聴率

フジテレビの視聴率はこの5年で3~4割減少した。

まずは下がった下がったといわれるフジテレビの視聴率だが、実際どれくらい下がったのか?下の図は民放各局の全日帯(6時-24時)およびゴールデン帯(19時-22時)の年間視聴率(1年間の当該時間帯での平均的な視聴率)の推移だ。11年時点では全日で日本テレビと並ぶ8%と民放1位だったフジテレビは、16年には5.7%で4位に転落。ゴールデンではより顕著で、11年12.5%が16年8%と約4割の減少、こちらも民放4位に転落した。他局は上下する中、フジテレビのみこの傾向は5年間変わらず、特に11年→12年、そして14年から16年にかけて落ち込みが大きい。

2.番組

笑っていいとも!の最終回やSMAPxSMAPの謝罪回が、ここ5年の唯一に近い高視聴率番組。

年間視聴率の低下は当然、個別の番組単位の視聴率に還元される。そこで、ビデオリサーチが毎年発表している年間高世帯視聴率番組30位を11年から16年の5年でまとめた。なお、データは民放に絞り、スポーツ番組は除いた。

端的にフジテレビはこの5年、レギュラー番組で高視聴率を記録したものはHEROとサザエさんの2つに限られる。その2つに関しても片や過去の人気ドラマの新シリーズ、片や長寿アニメである。それ以外は笑っていいとも!の最終回、そして悪名高いSMAPxSMAPのメンバー謝罪回という状況である。

一方他局は、各局わかりやすい傾向が見える。日本テレビは好調がうかがえるように、毎年複数の番組がランクインしており、24時間テレビが全年度入っているのに加え、「行列」「鉄腕ダッシュ」「イッテQ」「笑点」と長寿番組から新しい番組まで入っている。テレビ朝日は「ドクターX」がこの5年非常に安定的に数字をとっており、加えて「報ステ」も安定感がうかがえる。TBSは「日曜劇場」が各年ヒットコンテンツをつくっている様子が見て取れる。

フジテレビのみが、この5年コレといった新規ヒットコンテンツが見て取れない。ちなみにフジテレビが視聴率三冠王を日本テレビから奪還した2004年の同ランキングを見ると、「めちゃイケ」「白い巨塔」「プライド」「僕と彼女と彼女の生きる道」「SMAPxSMAP」とバラエティもドラマもバランスよくランクインしている。 

3.経営環境

フジテレビの営業利益はこの5年で8割減。その多くはスポット/タイム広告収入の低下に起因している。

この5年の視聴率低下、そしてその要因としてのヒット番組の不在はフジテレビの経営環境に大きな影響を与えた。下の図が示す通り、2011年以降売上、営業利益ともに一貫して低下傾向である。特に驚くべきは、営業利益が11年から16年にかけて約8割減少していることである。その主要な原因と考えられるのは、売上の8割程度を占める放送収入であり、その中でもタイム広告収入の減少幅が大きい。タイムは特定の番組枠に出稿する広告であり、視聴率の低下に伴い月9や土8に代表される伝統的放送枠が崩壊したことが大きいと考えられる。そもそもフジテレビは他局と比較しても放送枠をブランド化する術に長けてきた(前述の月9や土8がその象徴)。「めちゃイケ」や「みなおか」の終了はこのタイム収入の減少に拍車をかける可能性がある。

4.外部環境

フジテレビの視聴率が回復したとしても、放送収入が以前の水準にまで戻るとは言い難い。

上述の通り苦境に立たされるフジテレビだが、仮にこれからの新番組が全て当たり、視聴率が回復した場合、その収入も以前の水準まで戻るだろうか?これを考えるためにはテレビ広告の仕組みの理解が不可欠だ。

そもそも、テレビ広告収入の源泉は何といっても視聴率である。テレビ広告はこの視聴率1%の露出に対して単価が設定されており、広告主は、例えば視聴率100%分を買い付ける。これを100GRP(Gross Rating Point)という。関東一円で視聴率1%は30-40万人へのリーチとされているので、キー局で100GRPを買い付けることは、ざっくり延べ3,000-4,000万人への露出といえる。視聴率が商品といえるということは、各局全タイムテーブルを通じて獲得する延べ視聴率が商品在庫となる。つまり各局が獲得できる視聴率の総計が多ければ多いほど在庫を確保できる。

ところが、下図に記されているHUT(世帯総視聴率:1日の中で当該時間にテレビをつけている世帯の割合)は経年で減少傾向である。11年以前に目を向けると、97年時点ではゴールデンのHUTは70%を上回っており、この20年で継続的に減少を続けている。加えて、テレビをつけている世帯においても、1日の中でテレビに接触する時間は減少傾向にある。(対して携帯/スマホの接触時間は59分も増加している。)つまり、これはフジテレビに固有の問題ではないのだが、視聴世帯及び視聴時間の両減少傾向は、各局の在庫視聴率の減少をもたらす。なので、仮に現状の水準で他局を上回る視聴率の番組を量産することができたとしても、かつてのレベルの収入を得られるかは疑問である。

5.最後に

ここまで、11年から16年に至るフジテレビの凋落を見てきた。では、これからフジテレビが、放送ビジネスがダウントレンドになる中、どこに注力することで失地回復を試みるのか、というと、どうやらデジタル事業の中に位置づけられるFOD(フジテレビオンデマンド)のようである。

このFOD、Netflix、AmazonPrimeビデオ、Hulu同様のVOD(ビデオ・オンデマンド)事業である。ただし、これらグローバルプラットフォームと異なるところは、定額制に加え、動画ごとの都度課金、そして広告が含まれるハイブリッド型のプラットフォームであるところだ。

フジテレビが苦しい時には、それ以外の事業が支える」フジ・メディアHD 2017年3月期 第2四半期 決算説明会によれば、売上が60億円程度、有料会員が80万人程度とのことである。これは日本テレビホールディングスが擁するHulu Japanの半分程度である。(売上160億円、会員155万人 ※IRより)

本事業に、本業の放送事業を支えうるポテンシャルはあるのか?あるとしたらその水準に達するまでにどの程度の時間がかかるのか?といったことについては次項に譲りたいと思う。

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