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YOI

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2021年7月の記事一覧

初恋の鍵



「何でそんなに飲むんだよ」
 ユーリは、べろべろになってもまだワインの瓶を抱えたままになっている勝生勇利に呆れていた。
 バンケットで泥酔している勇利を見るのはこれが二回目である。一回目は、ダンスバトルを彼から仕掛けられたジュニア最後に参加したバンケットだ。
 あの時の失態を皆のスマートフォンに残っている写真を見て知った勇利は、それから酒を控えていたようだ。しかし、同じく酒癖が悪く酒豪である彼

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恋するセクサロイド



 テレビからは、まだ完全に理解する事ができるようになっていないロシア語が聞こえて来ている。テレビの中にいる女性は、天気予報図を差しながら明日は晴れであるという事を言っているのだろう。
 明日は晴れであるのならば、練習の帰りにスーパーに寄ろう。そこで、必要な物を買って帰ろう。
 フィギュアスケートの選手である勝生勇利がいるのは、ロシアで借りたアパートメントの一室である。先シーズンは生まれ育った土

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愛迷エレジー

 シーズン最後の試合が終わり、フィギュアスケーターの勝生勇利は実家がある九州の長谷津へと戻って来ていた。
 去年の成績は散々であったのだが、突然目の前に現れた憧れの選手であるヴィクトル・ニキフォロフにコーチをしてもらった結果、今年のシーズンは優秀な成績を残す事ができた。
 もう思い残す事は無い。これで競技生活を終わらせようと思っていたのだが、考えが変わり来年も選手を続ける事になった。
 来年もヴィ

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お見合い相手は男子高生でした

01.

「おはようございます」
 所属している部署のある部屋へとそう言いながら駆け込むと同時に、勝生勇利は壁にある時計で時間を確認した。
 始業時間五分前である事を時計は示している。今日はぎりぎり間に合った事が分かり、勇利は安堵しながら事務机が並んでいる部屋の中を進む。割り当てられている机まで行くと、椅子へと座りパソコンの電源をつけて仕事の準備をする。
 歩いていては間に合わないと思い、電車を降

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泡沫サタデーナイト

「それでは、有り難うございました」
 玄関まで見送ってくれたスタッフがそう言って握手を求めて来た。
「いえ、こちらこそ有り難うございました」
 スタッフの手を取りそう言うと、勝生勇利はインタビューを受ける為にやって来ていたホテルを離れた。
 七年前に現役を引退して今は日本でコーチをしている勇利は、ここロシアにインタビューを受ける為にやって来ているのでは無い。ここには、教え子が大会に参加するのでその

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