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beatmaniaと音楽の話

beatmaniaの名を聞いたことのある方は少なくない、と私たちは信じたい。1997年にゲームセンターで稼働を開始した、クラブDJ気分を体験できる音ゲーシリーズの名である。

そのサウンドにのめり込むあまり、本当にクラブDJとなった過去を持つ者たちがかくかくしかじかで偶然知り合った。育った場所も環境もまったく違うはずの二人の、だらだらとした対談をお届けする。文中に差し込まれている数々の音楽も楽しんでいただけると幸いだ。

登場人物

本多

英日フリーランスゲーム翻訳者。beatmaniaをきっかけにハウスとテクノに目覚める。重低音があればどんなジャンルでも満足する(例外あり)。好きな音はキックとベースとハイハットとスネア。テクノな音が好きだけどDJしてた時は歌ものハウス。乙女ハウスって昔流行ってたよね!

あなたま

英日フリーランスゲーム翻訳者。beatmania IIDX REDの頃までプレイしていた元ハウスDJ。アッパーよりはディープ寄りのサウンドを好み、DJプレイのコンセプトは「飯が食えて酒が飲めて、ついでにちょっと踊れる」選曲。beatmaniaの腕前はギリギリ十段クリア程度。耳押し派。


beatmaniaとの出会い

本多: 今回の対談に当たっていろんな記憶がよみがえってきて。自分が最初にbeatmania(5鍵盤)を知ったのはゲーム雑誌からだったか、それともゲームセンターで出会ったのか、はたまた友人が家で遊んでいたのを見たのか、どれがきっかけかごっちゃになってるんですけど。

そんな中で思い出したのが、beatmaniaの攻略本みたいなものがありまして。

自分が読んだその本が、1st mixから3rd mixまでの譜面が掲載されているだけでなく、アーティストのインタビュー記事とか、筐体の秘密とか、グッズとかも載っていたんです。すごかったのが付録CD。1st mixから3rd mixに収録されている一部の曲をアーティストがリミックスしたものが収録されていたんですよね。”love so groovy”がそれで。あと入っていたのは原曲で、オープニング曲とか、Japanese Hiphopの”TOKAI”とか、あと”deep clear eyes”とか。

あなたま: えっ、その本すごく贅沢じゃないですか!?

本多: 他にも”Super highway”とか”e-motion”なんかも入っていて。ゲームセンターが遠くて頻繁に行けるわけじゃなかったので、その攻略本を読んだりCDを聴いたりして想像を膨らませて、イメージトレーニングをしたのが記憶の1ページですね。

あなたま: 5鍵盤のbeatmaniaが最初に出た頃は、私、高校生で。学校の近くにゲーセンがあったんです。それでもまあ、1クレジット200円は痛かったです。その後7鍵盤になって、一旦1クレジット300円になった時もすっっっごくキツかったけど、それでも毎日のように通ってやっていましたね。

始めたきっかけは、周りに家庭用を持っている友達がいたりとか、もちろん学校にゲーセンが近いっていう環境もあったし。元々よくゲームで遊ぶ子どもだったので、周りの影響もありつつ自分でも興味を持った感じでした。

クラブミュージックの入り口になったbeatmania

あなたま: こんな風に我々がそれぞれbeatmaniaを始めたわけですけれども、すごくハマりましたよね。

本多: もちろんです。他のゲームとか、もう目もくれずやってました。

あなたま: 夢中でしたよね。どうしてあんなに面白かったんだろう、あの当時。

本多: 楽曲がすごく特殊で、今まで触れたことのないジャンルの音楽だったのが大きいですかね。聴く曲聴く曲がどれも格好よかった。あと、音を浴びるのが気持ちよかったっていうのもあります。

自分は当時中学生だったんですが、それぐらいの年齢だと、クラブミュージックは大人の音楽、クラブも憧れの場所みたいに思えたりするじゃないですか。そういう場所に行ってみたいと思う入り口のような空気感を持っていたのがbeatmaniaでした。

あなたま: 今でこそ音ゲーってジャンルとして確立されていますけども、その走りとしてbeatmaniaの存在ってとても大きくて。当時ネットがあんまり普及してなかったですし、私の住んでいたような田舎では音楽って基本的にはテレビで聴くものだったんですよ。地方局しか映らないテレビで。

そんな環境ではなかなか聴けないような音楽をゲームで聴けるというのがすごく面白かった。

本多: これが最先端なんだっていう感じがしましたね。

あなたま: ですね。beatmaniaでプレイできるような曲が実際にクラブで流れるかというとそれはまた少し違うんですけど、ジャンルの基本というか、そういうところはすごくしっかりしているゲームでした。

本多: beatmaniaがきっかけで、深夜にやっていた音楽番組だとか、抵抗なくっていうのは……ちょっと言い過ぎなんですけど(笑)、そういうのを観てゲームで見かけたジャンルの曲はないかなって探しましたし。

あなたま: 今までなじみのなかった音楽をすごく身近にしてくれた。そういうゲームでした。beatmaniaがなかったら、本当に現在に至るまで自分の音楽の趣味はないですね。

お気に入りの曲

あなたま: 好きだった曲は何ですか?

本多: 5鍵盤の3rd mixの”Wild I/O”、ハウス(※1)ですね。あれで4つ打ち(※2)やハウスっていうジャンルを知りました。ラストのノートが、キックとスネアだったかクラップだったか、とてもシンプルな構成で流れてくるんです。叩いてすごく気持ちよかったし楽しかった。リズムに合わせてキックを叩くだけでもこんなに楽しいんだって気づいたのはこの曲でした。

あなたま: ハウスのキックって、何というか気持ちよく歩いているみたいな感覚ですよね。フィジカルな楽しさっていうのかな。頭や耳で感じる楽しさじゃないんです。

本多: 体で感じる楽しさですよね。

あなたま: 私はハウスミュージックが大好きなんですけど、ハウスに関してものすごく頑なに信じている俗説があって(笑)。

ハウスのBPMってだいたい130から140ぐらいじゃないですか。あれって人間の心臓の鼓動のおよそ2倍なんですよ。だから人体にとってものすごく気持ち良い音なんだっていう。

さっきフィジカルな楽しさって言いましたけれど、これと無関係じゃないと思っています。

本多: あー、それは面白い!信憑性ある(笑)!

あなたま: でしょー(笑)?

ハウスで一番好きなのは”deep in you”っていう曲でした。5鍵盤の5th mixが初出かな。可愛い感じのインストで、今でも手元に音源があります。キックだけでなくメロディーラインも叩かせてくれる曲。音色が可愛かったですねえ。

本多: beatmaniaのハウスには本当にいろんな名曲がありますからね。歌モノありインストありで、幅広い4つ打ちが楽しめて。

4つ打ちといえば、テクノ(※3)にもいろんな名曲がありましたよね。

あなたま: テクノも名曲揃いでしたねえ、5鍵盤時代から。テクノでは何が好きですか?

本多: 4th mixの”Build Up”ですね。調べたら、ハウスのジャンルで収録されていた”Brand New World”のGTSが変名であの曲を作ったんだそうです。

あなたま: ”Wild I/O”といいこれといい、本多さんの曲の趣味、しっぶいなあ(笑)。

ゲームセンターならではのbeatmaniaの魅力

あなたま: ゲームセンターならではの要素のひとつといえば大音量ですよね。テクノはやっぱり大きい音で聴くと映えますし。家で音質のいいヘッドホンやサウンドシステムで聴くよりも、それほどいい音じゃなくても大音量で響いてくるっていうのは格別の気持ち良さがあります。いえ、自宅にオーディオルームがあるわけじゃないので、そういうので聴くとまた違うんでしょうけど(笑)。

本多: 家庭用のbeatmaniaとゲームセンターのbeatmaniaは一味違うんですよね。

あなたま: 音もそうだけど、やっぱりギャラリーがいるとちょっと燃える。難しいのやって格好つけちゃおうかな、みたいな(笑)。

本多: 自分の腕見せてやるぜっていう。

あなたま: それがまた楽しかったんですよね。

本多: ゲームは一人でやるものだけじゃないっていうのを気づかせてくれました。

「MG4」

本多: 好きな曲といえば、7鍵盤が最初に出た時に収録されていたMonday満ちるさんの”You Make Me”。自分はあれが大好きだったんですけど、プロデューサーが大沢伸一さんだったんですよね。ゲームのクレジットには「Monday満ちる」としか表示されなかったんですが。あの頃からもう、大沢さんは押しも押されもせぬプロデューサーさんですよね。

あなたま: そうそう。私も、2000年に大沢伸一さんがMONDO GROSSO名義で出した「MG4」っていうアルバムをめっちゃくちゃヘビロテしてました。ネット通販がまだなかった頃だから、地元のCD屋さんでたまたま買ってきたのが「MG4」だったんですよ。ジャケ買いです。

日本語ハウスの金字塔の一つ、birdさんが歌っている”LIFE”も収録されているじゃないですか。あれを聴いて、ハウスってこんなにしなやかで格好いいんだなって思いました。

本多: 自分も聴いてましたよ、MG4!”You Make Me”と同じく、Monday満ちるさんが歌っている” BUTTERFLY”が入っていますよね。オリジナルはジャンルとしては2ステップでしたけど、ある時に聞いたFrancois Kによるハウスリミックスを聴いたのがきっかけで。

  あなたま: おお、Francois K。そのバージョン知らないな私。

 本多: そのクレジットにMONDO GROSSOっていう名前があって、そこから芋づる式に聴きました。「MG4」より後に出た「BLZ」や「Next Wave」を先に体験しましたけど、その後「MG4」に行きついて。

本多: 「Next Wave」ってアッパーなフロアチューンがメインですけど、「MG4」はしっとりとした感じでしたね。印象深かったのが、ラストに収録されている”1974 -WAY HOME-“。疲れた心に染み渡るところがあって。

あなたま: ああ、わかりすぎる。学校って疲れる場所ですから。

本多: 疲れます。本当に疲弊しきっていた時期でした。高校時代って起伏が激しくて。

周りはパンクロックとか聴いていたけれど自分は王道の4つ打ちばっかりで、そんな中にポンって出てきた”1974 -WAY HOME”が本当に薬のように効きました。

あなたま: 染み入りますよねえ、あの曲。曲名の通り、学校帰りにポータブルCDプレイヤーに入れて聴いて泣いたりとかね(笑)。

クラブミュージックを意識し始めるようになった発端がbeatmaniaなら、その先、クラブミュージックにのめり込むようになったきっかけが「MG4」ですね。

大学に行って、二人ともDJを始める

あなたま: でもね、まさかその後に大学でDJサークルに入ることになるとは、その当時は思いませんでしたねえ。

本多: 通る道というか、やりますよね。DJ文化に興味を持っちゃったら。

あなたま: 大学に入ってたまたまそういうサークルがあって、バッチリ機材も揃ってて。自分がレコードなりCDなりを集めればできますよっていう環境があったら、そりゃやっちゃいますよね。

本多: やっちゃいますやっちゃいます。機材揃えて、都内に出てレコード揃えてみたいな感じで。

あなたま: beatmaniaから人生がだいぶ分岐した感じがしますよね。

本多: 本当にいろんな音楽ジャンルを教えてくれたのがbeatmaniaでした。

あなたま: DJ活動をしていた当時、サークルでイベントを時々やっていて、そのたびにミックスCDを作っていたんですね。カフェとか服屋さんとかに置いてもらう形で配っていたんですよ、今みたいにネットで配信とかできないから。

ちょっと話が脱線しますけど、ミックスCD作りの時って私はすごく真面目に展開を考える方で。今になって思うと、あの苦しみは翻訳作業に少し似ている(しみじみ)。

本多: 人によって分かれるかなあ。自分はもう一発勝負で録っちゃいますね。

あなたま: うちのサークル内でも一発勝負派の方が多かった(笑)。妙に考え込むのは私くらいでしたね。

本多: その作業の仕方は確かに今の翻訳作業にも出ちゃってるな。恥ずかしながらそんな感じが。

あなたま: 産みの苦しみって言うとちょっと大げさですけど、ミックスはやり方から成果物に至るまで性格が出ますよね。

DJ時代の印象深かった思い出

あなたま: で、そんなふうに頑張って作ったミックスCDをどこかで手に取った人が、お客さんとしてイベントに来てくれたりするんですね。しかも直接声をかけてもらったり。

「このCDの選曲はあなたまさんですか?」「あ、はいそうです」「すっげー格好いいです!」っていうやり取りがあったりして。もう本当にbeatmaniaありがとう(笑)。

本多: いいですね!ファンが付いてくれたってうらやましいなあ。

あなたま: 選曲が格好いいって言ってもらえたのはすごく嬉しかった。

本多: 最高の褒め言葉ですもんね、DJとして。

自分の思い出話ですが、マッシュアップ(※4)っていうテクニックがあるじゃないですか。

あなたま: 違う曲のレコードを2枚同時にかけるアレですよね。微調整がけっこう大変な。

本多: はい。自分もあるイベントに参加していて、第一回から第二回、第三回と回を重ねる中で、自分がどこかで宇多田ヒカルさんの”traveling”をかけるっていう流れが定着しつつあったんですね。

本多: だけどある時、「”traveling”を流すのもありだけど、ちょっとマンネリ化しちゃってるなあ」と思ったんです。で、その時Fantastic Plastic Machineの”Why Not?”っていう曲のレコードを持っていて。それにインストが収録されていたので「このインストに”traveling”のボーカルを乗っけよう、無理やりマッシュアップしちゃえ」って。まあ、きれいにボーカルだけを抜き出してとか、細かいことは度外視でした。インパクト重視で。

で、イベントで自分の出番になって、皆もうお約束ってわかっているんですよね、「本多さんだったら”traveling”だ」って。そこに急に”Why Not?”のイントロがかかって、皆がちょっと目を丸くして。そんな中で導入部分をある程度流してから”traveling”のボーカルを乗せたらめっちゃ盛り上がったっていう。あの時の俺はやっぱり格好よかったです、今思っても。

あなたま: いやいや、それは格好いいですって間違いなく!私マッシュアップなんか一回もやったことない(笑)。大技が決まると気持ちいいんですけどね、度胸がないもので。ほら、バックスピンとか……(以下DJテクニックの細かい話がしばらく続く)。

最後に

あなたま: 本多さん、今はDJ活動はされてないんですか?

本多: この対談をきっかけに、またやってみようかなっていう気持ちが芽生えて来ちゃったんですよ。過去に買ったDJソフトとか引っ張り出して来て、きっかけがあったらやってみようかな。

あなたま: DTMは?

本多: かじっていました。でも今は機材もないです。どこかしらケジメをつけたいんですよね。青春時代のケジメ。

あなたま: 青春に今ケジメをつけるってなんかいいなあ。今はPCでいろいろできる環境も整っていますしね。何かいいトラックを作ったら教えてください、声ネタなら提供しますから(笑)。

beatmaniaがきっかけでいろんな音楽を知って珍しい経験ができて、本当に人生が広がりましたね。音楽って面白いと迷いなく言えます。

本多: beatmaniaに触れたっていう小さなきっかけが、本当に大きい変化に繋がったというか。

あなたま: それまでになかった「音ゲー」というジャンルを作ってくれたっていうのも、すごくインパクトのあることでしたね。しかも、音楽ジャンルの中でもアングラなイメージのあるクラブミュージックをポピュラー化した。私のいたDJサークルにもbeatmaniaでテクノを始めた人が意外といたんですよ。周りをよく見渡せば、結構そういう人はいるのかもしれませんね。

本多: ですよね、絶対いるはず。

あなたま: そういう人を探しましょう今度。それでなんかイベントやりましょう。

本多: きっとこの対談を上げたら手を挙げてくれる人がいると思うんで。

あなたま: それ待ちましょうね。

本多: みんなでやりましょう。これを読んだ人も共犯ってことで(笑)。

あなたま: いやはや、本当に音楽は楽しいですね。beatmaniaありがとーう!

本多: そうですね。本当にありがとう、っていう感じです。


注釈

※1 ハウス(ジャンル):

EDMやダブステップなど、それ以前にあったジャンル。おそらくEDMの先祖ともいえる。BPM130あたりのテンポで、4拍子リズムに合わせたキックが入るのが特徴的な音楽。ブラックミュージックやディスコサウンドを源流としているので、キックに合わせて90年代ソウルフルなボーカルやパーカッション、いわゆる生音を乗せるトラックが主流だった。時代が経過するにつれシンセサイザーの音色なども入るようになり、テクノの境界線がぼやけるようなハウスジャンルも生まれていった。

※2 4つ打ち

4拍子のリズムに合わせてキック(バスドラム)が鳴っている曲を総じて指す用語。テクノとハウスをひっくるめて指す時とか使っていたけれど、今だともう使われなくなった様子……?

※3 テクノ (ジャンル)

こちらもEDM以前に生まれたジャンル。ハウスからテクノが生まれたとされている。4拍子のキックに合わせて、主にシンセやドラムマシン、サンプラーで構成されたトラックが特徴的。逆に言うと生音が入っているのは少ない。ハウス同様、テクノからトランス、ミニマルなど様々なジャンルが生まれた。その流れの中で、だんだんとハウスとの境界線もぼやけるように(そのため、この曲はハウスかテクノかという疑問はよく発生する)。

※4 マッシュアップ

A曲のインストトラック(ボーカルなしの曲)にB曲のアカペラ(ボーカルのみの曲)をのっけて一つの曲にしてしまう手法。


(この記事は、「ゲームとことば」に寄せた第19日目の記事になります)


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