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ストライクを受けることは人生に似たりて

この前”ミカエルのパンチ”のモスクワHQクラスでアレクサンドルが言っていたんだけどミカエルが言っていた「ストライクは単に不快なだけで、痛いわけではない」的なこと。

頭がからっぽでないと、考えが出て、恐怖がでてくるという。

その通りだと思った。

私たちは何時も問題をエスカレーションさせ過ぎる。ほんの些細なことを沢山の思考で装飾しすぎてしまう。

ミカエルの言う通り思考は恐怖から生まれるのだろうし、思考がまた恐怖を作るのだろう。

思考は「今ここ」のことではない。思考にはストーリーがあり、論理がある。「今ここ」に心身がいないときに思考は恐怖をもなってモリモリと湧いてくるのだ。

なぜ今ここにいないかというと、安心してないのである。快適さの中にいないのである。なにかをどうにかしようとするときに人は思考と理屈の世界に逃げ込んでしまう。

不足だからである。満足してないからだともいえる。不足で満足していないから「なにかを・どうにか」しないでは居れないのである。快適ではないのだから、どうにかして快適を得ようと、外側に向かってのたうち回るのである。

快適でないと、安心していないと「今ここでやるべきこと」がやれない。

「いつか、どこかで、だれかが、なにかを、やろうとしている」それが思考の世界と言えるだろう。自分ではない人がやるのだからそれは誰かが語って誰かに聞かせることができる物語になる。どこからか来て、何処に行くのかを叙述しないではおれないのである。

思考は何時も不自由だ。誰かが誰かの何かをどうにかしようとしている。自分ではない人たちが、さらに自分ではない人たちに対して、未来や過去で想像を基盤になんやかんや動いている。それは、映画であり、小説であり、あらゆる媒体の物語であり、ナラティブとも呼べ、すべてがマイ・ストーリーで組みあがった今ここを無視した寓話である。

でも現実は必ず「今ここ」で進行している。その現実に物語を持ち込むとどうなるか。

今ここは、誰もかれも、自分も他人も、何処からも来てはいないし、何処にも行こうとしてない。そこにハリウッド並みの大スペクタクルストーリーを適用しようとするとどうなるか。

上手くはいかないだろう。変わり続ける川の水面をある思い通りの形に固定しようとし続けるようなものだから。

ミカエルが「(パンチを受ける)準備できていなければいけない」と言ったという。

何時に対しての準備か?今だ。
何処でうたれるストライクか?ここだ。

ぼくらはいつでも人生で撃たれる不意のストライクに準備ができていなければいけない。常に自己の快適の中に居なければいけない。

そうでなければ単なるストライクが、強烈に恣意的な物語性を帯びる。単に不愉快であるだけのものが、痛み・苦しみに変わる。やった奴とやられた奴が生まれ、損得勘定や好悪が惹起し、様々なレイヤー・レベルの不必要とも言える価値判断が膨大に発生する。

最も最悪なのはそれらすべてに気が付かないことではないだろうか。

気が付かれず作り出された緊張はなかなか過ぎ去らない。ずっと自分の中に、思考によって緊張した物語として残り続け、さらに多くの価値判断がゴミのようにくっつき、大抵は苦しい形で醸成され、過去から未来にかけてじわじわとよりいろんなものを巻き込みながら進む苦痛の一大叙事詩として何度も何度も思考によって再演され続けるだろう。

もうミカエルはいない。ミカエルのストライクは今ここにはない。でもミカエルのストライクの話は未来永劫伝えられていくのと同じように、ストーリーはポジティブなものも自分にとっても他人にとっても伝わる物語として自己継続性を得る。

でも多くの場合、マイストーリーはポジティブだろうとネガティブだろうと苦しみを基礎にした思考で組みあがっている。

今ここにない過去に受けた苦しみの緊張ストーリーを思考と言語が再演し続ける限りにおいては、我々は安心に居れないのである。快適にあれないのである。

だから何をすればいいかというと、一瞬で済むことだ。今ここに注意を向け、内なる快適さに向けて動き続ければいい。いろんなことを感じればいい、起きた瞬間終わる色んな感覚情報を単に観続ければいいのではないか。

計画は要らないが、軽やかさはいるだろう。思考は要らないが、感覚はいるだろう。

判断する高慢さは何時も邪魔になる。そして判断しない謙虚さは私たちを最も価値のある瞬間、今ここに居続けさせてくれる。

ミカエルのストライクには人生の奥義が詰まっている。そんじょそこらの威力のあるパンチなんかじゃないよなと思った。常に理法の極致とともにあるパンチだからこそ、システマのストライク、ミカエルのパンチなのだろうと思った。彼に打たれて、触られて、幸せだったのだと改めて思った。

彼の拳は人生を教えてくれたから。



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