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【古代戦士ハニワット】メカプラモハニワ魂A

漫画『古代戦士ハニワット』とロボットプラモデルやオモチャの歴史の関連性について考察していきたいと思います(ネタバレあり)

ハニワットはプラモデルや模型、ひいては玩具というカルチャーと深い関係を持っていると感じます。それは漫画の単行本の裏表紙に必ず作中のドグーンかハニワットの作者自身による模型の写真が添えられることから拘りが類推できます。


武富健治先生のツイッターでも時折ハニワットフィギュアを見せてくださっています。興味のある方はTwitterのアカウントをフォローしてみてください。

このオリジナルフィギュア群は全ての作中形態を網羅しているわけではないようですが、相当にギミックの凝ったモデルも制作されており、その出来栄えや完成度は現実の商業用プラモデルのようです。またこれらのフィギュア制作は単に作画上の資料として使われるだけではなく「模型」「ロボットプラモデル」がハニワットのデザイン上の大きなテーマとして機能していそうなので記事にしてみようと思いました。


ロボット、特撮おもちゃの歴史へのオマージュ?

ハニワットでは、ロボットアニメの放送に伴い玩具メーカーが売り出していたロボットプラモ、あるいはロボット玩具の進化の歴史と、ハニワット作中におけるハニワットやドグーンのデザインの変遷がシンクロするつくりになっていると思われます。

まずは軽く玩具のロボットの歴史を見ていきます。近代における人類の歴史で最初期の有名なロボットのおもちゃといえば50年代のロボット「ロビー」です。


これは「禁断の惑星」という映画に登場したロボットで、その後の世界中のエンターテイメント作品やおもちゃの「ロボット」の非常に元型的なデザインになりました。電動やねじ巻動力でよちよち歩くロビーやロビーに似たロボットの玩具は数多くのバリエーションが売り出されていきました。

1950年代といえばアイザック・アシモフが「われはロボット」の作品中で「ロボット三原則」を提唱したり、チューリングが世界で初めて「人工知能」を提唱したまさに現実のロボットの歴史から言っても革命的な年代でした。現代に続くロボットの歴史から見ると、古代、あるいは神話の時代といってもいいかもしれません。

1960年代になると日本ではテレビアニメの放映が始まります。記念すべきテレビアニメの第一号は手塚治虫の「鉄腕アトム」です。つまり日本のテレビアニメの歴史はそもそもロボットから起こっているのです。

そして横山光輝の「鉄人28号」のアニメ放映も始まりました。このころ大量にアトムや鉄人28号のおもちゃが売り出されています。どことなくまだロビーのおもちゃの名残が感じられるデザインが多いです。

この時代すでに、スポンサーがアニメの制作会社にお金を払い、代わりにテレビ番組に登場するキャラクター商品を売るという「マーチャンダイジング」というビジネスモデルが確立しています。

ところでハニワットで登場する最初の蚩尤、三角頭は茅野の仮面の女神をモチーフにしていますね。有名な蚩尤の歩行シーン、一歩一歩踏みしめながら移動するその姿はまるで電動の鉄人28号などの歩行ロボットのおもちゃがよちよち歩く姿にも似ています。

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ハニワットの作者武富健治先生が明言しているわけではありませんが、この「ブリキの電動おもちゃがよちよち歩く」あるいは一歩一歩歩くイメージは、蚩尤が非常に一歩一歩大切に歩く姿に酷似しているとぼくは思います。どこかで着想イメージに混入があるのかもしれません(単なる偶然かもしれませんが)

さて、70年代になってくると「宇宙戦艦ヤマト」の大ブームを経て、今度は「マジンガーZ」や「ゲッターロボ」といったロボットアニメのブームがやってきます。特に大きかったのがマジンガーZの登場でした。

マジンガーZは、作者永井豪の着想にはじめから強いおもちゃ等への商業展開があったわけではないと思われますが、アニメのマジンガーZの大ヒットを受けて、「「ジャンボマシンダー(ソフビ人形)」や「超合金シリーズ」の玩具が爆発的に売れ、さらにアニメの人気が加速する、という双方向なビジネスモデルが完全に確立されたようです。

これはジャンボマシンダーシリーズ。バカ売れしたそうです。一年間で70万個も売れています、凄すぎ。第四回国際見本市おもちゃコンクールでグランプリを受賞しています。発売元のポピーはライダーの変身ベルトシリーズなどで既にヒットを飛ばしていたおもちゃメーカーですが、このジャンボマシンダーの売り上げでその地位を不動のものにしています。

ジャンボマシンダーには取り外し可能なパイルダーやロケットパンチがギミック搭載されていて、バラ売りで買うこともできたらしく、それも大人気の理由。さらにジャンボマシンダーについて忘れてはならないのは当時のプロレスブームとミックスされてブームになったという事です。つまり子供たちはマシンダーのポリプロピレン製で頑丈でデカい人形で遠慮なく物にぶつかりぶつけ合って遊べたわけですね。プロレス遊び、男の子の由緒正しいお人形ごっこ(笑)ですね。

これとその後に売り出された「超合金」シリーズのヒットによって当時すでに斜陽の気配もあったアニメ業界全体も息を吹き返し、アニメの玩具や関連グッズ、主題歌の売り上げなどというビジネスモデルが巨大な経済規模で展開していくことになったと言います。実際当時の配給会社の実写映画とアニメ映画の売り上げは逆転現象が起こったそうです。マジンガーZは既にモデルとしては存在していたアニメ作品とそれに関連する商業展開の、いわゆるメディアミックスを決定づけた作品ともいえるかもしれません。

ハニワットの話に戻りますが、三角頭とハニワット=カヤの闘いはお互いに少し寂しいくらいシンプルなデザインのままの体ではないですか?

彼らががっぷり四つに組んで相撲技やプロレスっぽい技で戦い合う姿は、骨太で巨大な70年代の仮面ライダーやウルトラマンの頑丈なポリプロピレン人形をぶつけて遊ぶかのような素朴で豪快な趣があります。

武富先生が『ウルトラマン』における第一話、ベムラーとウルトラマンの戦いを綿密に描くのが第一部の目的だと書かれていた(話されていた?)と思います。たしかにすこし三角頭の戦闘形態の体のデザインが怪獣っぽいというか、あの表面の張りつめ感、激しい質感の隆起が強調された描き方とか、まさにウルトラマン怪獣やゴジラのおもちゃ人形か、特撮の着ぐるみ特有の質感のような気がします。なぜなら実際の仮面の女神は表面があんまりごつごつ隆起していなくてむしろなめらかな感じだからです。

漫画の第四巻の背表紙に相撲(すめらぎ)形態の三角頭のフィギュアの背中が映ってますが、あきらかに元の土偶の肌感を逸脱する、内部から張力を感じるほどの緊満で迫力のある造形になっています。漫画の先生ならではの「タッチ」を感じるフィギュアだという気がします。そしてそれはやはりウルトラマンやゴジラなどの着ぐるみ人形、玩具の人形の迫力ある表面造形の「それ」に似ていると思うのです。

じつは話が長くなるのでロボット以外のおもちゃの話は今回さけているのですが、日本のマーチャンダイジング・メディアミックス型のおもちゃの歴史は『ウルトラマン』『ウルトラQ』のソフトビニール人形という系譜がすごく強くありました。また『サンダーバード』からのプラモという系譜もありました。日本の巨大ロボットがその初期にほとんど何かのメカから合体する、変身する、組み込まれる等の発想が多いのはその根底にサンダーバードシリーズ(あるいはサンダーバードに影響を受けたガッチャマンシリーズ)があったからだと思っています。とにかく、ソフビ人形とプラモデルは日本のおもちゃの歴史の二大潮流なのです。次はいよいよプラモデル系のおもちゃとハニワットの歴史を弐重写しにしてみていきたいと思います。(それとタツノコプロ系アニメとハニワットの関連点についてはこれも今回全部割愛します。理由はやはり長くなりすぎるから(笑)同人誌にでもまとめようかな……)

粘土変形ゲッタードグーン

アニメ「マジンガーZ」が大ヒットしたフジテレビの次の企画だった「ゲッターロボ」は、明確なテレビアニメと漫画の二軸メディアミックスで展開することを目的に企画がスタートしたそうです。変形合体できるロボットの玩具というものがスポンサーから強く要望されたのがその理由。マジンガー1体であれだけバカ売れしたんだったら、3体、さらに変形形態とそれぞれ別だとすごく売れるんじゃないかという話だったようです。

ですが、実際にアニメのゲッターロボを見ていただくとわかるのですが、ゲッターロボは飴細工が伸び縮みするように飛行機からロボットに合体変形を行うので、非常に機械的リアリティがないというか(悪く言っているわけではないです)メカというか有機体生物かアメーバーのようです。ここら辺はのちに石川賢によるゲッターサーガが有機体なのか機械なのかわからない超ロボットの進化のSFストーリーになるという布石にもなっているのでしょうが……とにかく、ゲッターロボは作品の中では概念上の変形だったという事がプラモデル史の重要なポイントです。

当然このゲッターの合体変形機構をおもちゃとして再現することはできず(そもそも不可能なのですが)、ゲッターロボのおもちゃやプラモデルは変形合体機構はオミット(省略)されていました。ちなみに放送から20年近くたって洗練されたプラモデル製造技術により、合体変形機構をプラモデルに搭載できたことにより3機の飛行機の合体変形からそれぞれ3体のロボットになる、という非常に難易度の高いギミックが現実のおもちゃで再現できました。いやマジですごいな。


さて、また話をハニワットに戻しましょう。ちょうど第一のドグーンが光撃型や相撲型に変形するのは粘土がごりごりと変形するようにして変形(変身)します。粘性の高そうな泥が「ブリブリブリ」などという不気味な音を立てて変形している姿が描写されています。

これがちょうどゲッターロボの初期のプラモデルの粘土式変形状態のオマージュととることもできます。なぜなら第一のドグーン以降のドグーンではそれぞれ全く「別の方式」で変形するからです。

勇者ゴッドドグーン変形機構

対比的に妙義横川に出現した縄文のヴィーナス、鉢かぶりはしっかりとした合理的な変形機構を備えています。

腰に当たる部分と脚部が回転することによって上半身が動く仕組みになっていますし、頭の鉢が90度回転して、さらに腰が回って移動形態に変形することができます。おまけにホバージェットのような機械的内部機構を予想させる仕組みを備えている描写も出てきます。

これについてちょうどこの記事を書いているときに武富先生が鉢かぶりの変形を実際のオリジナルモデルでTwitterで見せてくださっていたのでこれ幸いとばかりに引用します。


この鉢かぶりの変形構造は、三角頭のゲッターロボ的粘土変形、不合理構造と明らかに違います。

ちなみに変形できるプラモデルのエポックメイキングといえばアニメ『勇者ライディーン』のプラモや超合金です。勇者ライディーンは前出のおもちゃメーカーのポピーが初めて「直接」アニメのロボットデザインに主導的立場で関わっています。関わったのは工業デザイナーでもある村上克司「超合金」を立案したその人で、のちに『コンバトラー』や『ゴッドマーズ』など多くの変形合体ロボット企画のデザインを手がけています。

その『ライディーン』なのですが、村上克司のデザインをもとにこれも現在の超有名なアニメイターの安彦良和が仕上げています。ライディーンは戦闘形態である人型からゴッドバードという飛行形態(攻撃もしますが)に変形するのですが、プラモデルでも同様の変形ギミックを備えており、変形させて遊ぶことができます。ちょうど鉢かぶりの変形のように、合理的な変形機構で変形を備えている玩具ということです。

初代のプラモデルはまだそれほど細密な変形機構を再現することはできませんでしたが、いろいろパーツを組み替えて、ゴッドバードと人間形態は変形することができます。のちに再版されたモデルはものすごく厳密な変形機構を搭載しているものが発売されていたようです。

変形機能がウケにウケ、ライディーン版の「超合金」はマジンガー以上のヒットとなり、これ以降厳密な変形や合体をするプラモデルも大人気となり『コンバトラーV』や『ボルテスV』『六神合体ゴッドマーズ』などが人気を博したといいます。どれもアニメのメカデザイン段階から厳密な変形合体をするロボットがデザインされており、変形合体ロボの初代であるゲッターロボの粘土変形合体とは全くレベルの違う洗練のされ方です。

実際のアニメ作中ではその合理的な変形合体シーンをちゃんと描写されており(これがそのまま商品のCMとしても機能したでしょう)おもちゃも同様に変形するので大人気だったといいます。

ところでさっきからずっと文章の語尾が『わたしは真悟』のナレーション(~だったといいます……)みたいになっているのは70年代~80年代初期のことは資料や伝聞や商品の売り上げ数字でしか私が知らないからです、すいません(-_-;)

あと鉢かぶりについてモチーフになっているのは少し時代が飛びますが80年代、ガンダム以後の『超時空要塞マクロス』のガウォークの変形機構でしょう。武富先生もどこかでおっしゃっていた気がします。
(追記)この記事を書いている最中にはっきりとガウォークについて言及されていました。

ロボットプラモデルのカンブリア紀、ガンプラがやってきた80年代は飛躍的にプラモデルの技術が上がって、80年代後半から90年代にもなるとホントに信じられないような変形機構を備えた工業製品のようなプラモデルがたくさん出ていました(ここ等辺からはわたしも記憶があります。)

プラモデルの技術も上がったので、当然アニメにもプラモデル前提の複雑な変形機構のメカがたくさん出てきていたのだとおもいます。90年代はアニメもプラモもどちらも大人気でしたから。

個人的には『機動戦士Zガンダム』に出てくるアッシマーがすきなのですが(笑)鉢被りにもにていますね。丸いし。好きすぎて二つも三つも壊すまで遊びました。

ギミック満載!集めて楽しいハニプラ

『ハニワット』でギミックが推されているのはなにもドグーンだけではありません、人間側の器体であるハニワットも後半になるにしたがって実に様々な種類とバリエーションを持っていることが描写されます。

特に第二部では旗竿を差し替えられる仕様になっているカンラ=タゴ、鹿頭が戦意表示ギミックとして乗り手のテンションに応じて立ち上がる機構のあるサカ、またパーツを換装したり、様々な武器がオプションとして選べることが示唆されているフルなど本当にバリエーション豊かなギミックやオプションパーツが作品に登場しています。

まさにこのバリエーションの豊かさ、ギミックの楽しさはガンプラを思い起こさせますね。サカとか特に顔や頭飾りの形状がガンダムに近いです。

因みに機動戦士ガンダムはバンダイがおもちゃの売り上げを非常に気にして作中に様々な武器や変形やパーツを登場させるように希望したので、非常に複雑多彩な変形や換装が出てくるアニメロボットになっていたそうです。

ハニワットの作中でもその流れを取り入れるかの如く、章が進むほどに複雑で豊かなオリジナルモデルと、凝ったメカニカルデザインの埴輪土が活躍しています。作中でたくさんの武器がオプションパーツで選べる的なことも書いてありました。

ガンプラの大きな特徴が「集める」楽しみです。多彩なバージョン、多彩な種類、本当に人類史上これだけ多彩なバリエーションのあるプラモデルシリーズというのはないと思うのですが、ガンプラには主軸になる商業展開戦略として「集めさせる」というのがあります。よって、ガンプラ型のハニワットは多彩な武器や換装パーツの話が出てくるわけです。漫画を読んでいると自然とハニワットフィギュアなりハニワットプラモデル(ハニプラ?)集めたくなってしまいますよね!

このように、ハニワットでは、蚩尤や埴輪土の器体デザインにロボット系プラモデルやおもちゃの進化の歴史がうまく落とし込まれているように思えます。本当に素晴らしい多重構造の作品です。

これからのドグーン、ハニワットのデザインについて少しだけ予想

さて、では今後ハニワットやドグーンのデザインはどうなるのかちょっと遊び心で予想してみたいと思います。

先ほどから話に出ていてまだ作中で明確には実現されていないおもちゃの機構があります。合体です。

ある意味ハニワットフルと、ヘキ車の合体がそれなのかもしれませんが。明らかな二体合体とかはまだないかな……複座型のハニワットは話にだけ出てきています。諏訪神社で示唆されている埴輪土、ハニワット・モリヤ(仮称)がそれなのですが、そもそも諏訪神社、現実世界の諏訪大社は上社と下社の二社で……まあいいや。そうとうに「特別」な機体であることがほのめかされているようなので作中の登場が待たれます。

ハニワットのデザインにはモデルになった神社や古代史、関連のある古代伝承がかかわりがあるという事も予想しているのですが、また改めてその記事はまとめたいと思います。

それと全く前項では触れていませんでしたが玩具史の中に「マグネット式玩具」というジャンルがあって、このマーチャンダイジング作品として『鋼鉄ジーグ』があります。なのでドグーンかハニワットかどちらかわかりませんが、磁石でくっついたりばらしたりするような構造の器体(きたい)が登場…する?といいな(笑)

とにかく合体要素をもつドグーン、変形や合体要素を持つ埴輪土は今後何体か現れてくるかもしれません。ハニワット作中の玩具史との重なりを見れば、そう思えてきます。

ハニワット達はともかくドグーンなんて見た目がまんま超有名国宝土偶なので、ふつうは動くにしろ攻撃するにしろ有機体っぽい動かしかたか、粘土変形一辺倒で済ませてしまいそうですが、あれほど魅力的な変形や変身ギミックが満載で、しかもそれぞれ方式を変えて描かれているところを見ると、あきらかにアクションフィギュアやプラモデル、そのほかさまざまなメカ玩具の要素をあえて作中に生かそうとしているようにも読めます。

ハニワットはこれまでもお伝えしていたように非常に多重的多元的な、あるいはメタ的な構造になって読者を楽しませてくれる作品です。今回模型、プラモデル史と作中の土偶や埴輪のデザインを比較しながら見てきて改めてそう思いました。

最後に、日本国内最古のフィギュアはなんでしょう?(笑)もうお分かりだと思いますがそれは土偶であり、埴輪です。

ハニワットとフィギュアはその成り立ちからして切っても切れない強い歴史上の関係があるわけですから、現代の土偶であり、現代の埴輪であるプラモデルや、フィギュアが厚く扱われていても全く不思議ではないどころか、それが正統なのです。だから毎回背表紙に武富先生の作った手製のフィギュアが乗るデザインでカバーが作られているのかもしれませんね。(フィギュアの)ご先祖様への敬意でしょうか。

今後も本当に様々な読み方、楽しみ方ができる作品『古代戦士ハニワット』のメカプラモハニワ魂A(エンシェント)に注目しながら読んでいきたいと思っています。

チェンジモリヤー!カミ!シモ!お疲れさまでした(笑)

読んでくださってありがとうございました。


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