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10 逮捕に伴う無令状捜索・差押え(2)

第1 設問(1)
1 本件捜索は刑事訴訟法(以下、略)220条1項2号より適法か。本件ではGを通常逮捕(199条1項)で「逮捕する場合」(220条1項柱書)の「逮捕の現場」(220条1項2号)である411号室で,そこにたまたま居合わせた第三者であるXに対して身体捜索している。
 かかる捜索場所にたまたま居合わせた第三者に身体捜索することを220条1項2号は許容されるか。
(1)そもそも、220条3項が、無令状の捜索・差押えを認めた趣旨は、逮捕の現場には逮捕に係る被疑事実に関連する証拠存在の蓋然性が一般的に認められるところ、裁判官による事前の司法審査を経る必要性は低いことにある。そして被逮捕者以外の第三者の身体については、それに対する捜索は、220条1項2号がそもそも許容していない。したがって、第三者の身体・所持品は「逮捕の現場」に当たらず、捜索・差押えは許されない。
ア では、逮捕に伴う必要な処分として許されないか。
 そもそも、222条1項、111条1項の必要な処分は、法律上許された処分を本来目的の達成・実効性確保のために必要な限度での付随的処分を行うことを許容したものである。そして、これは逮捕に伴う場合にも異ならない。したがって、対象者が捜索場所に存在した証拠を隠匿したことを疑うに足りる相当な理由があれば、必要かつ相当な原状回復行為を必要な処分としてなしうると考える。
イ 本件で、被疑事実となっていたのはGに対する覚醒剤取締法違反であるところ、かかる被疑事実は秘密裏に取引されて隠れて複数人で使用することが多いのであって、たまたま友人が居合わせたとしても、かかる被疑事実に関する証拠品を所持している蓋然性はある。また、Xは室内が捜索されている間不自然にポケットに手を入れており、Kに対して抵抗するそぶりも見せている。そのため、Xには捜索場所に存在した証拠を隠匿したことを疑うに足りる相当な理由があると言える。さらに、覚醒剤をはじめ違法薬物については水溶性が高く、証拠物の隠滅が容易であり、証拠物の差押えには緊急性を有している。
(2) よって、必要な処分であると言える。
2 以上より、本件捜索は適法である。
第2 設問(2)
1 本件捜索は220条1項2号より適法か。
 まず、Yは通常逮捕されており、「逮捕する場合」といえる。また、差押え物品も盗品であって、被疑事実である窃盗事案との関連性が認められる。
(1)もっとも、本件で捜索・差押えをした警察署は,逮捕現場たる公道上からの連行先であり、「逮捕の現場」ではない。そこで、連行先での捜索は「逮捕の現場」との関係で許されるのか。条文上明らかでなく問題となる。
ア 220条3項、1項2号との関係で、被疑者の所持品の場合、逮捕現場から移動しても証拠物の存する蓋然性に変化はない。また、強制処分については、その目的の達成のために付随的措置を実行することは可能であり、身体の捜索に当たっては、その実施に必要な限度で目的達成に向けて不可欠の付随的措置として移動することも可能である。
 そうだとすれば、逮捕した被疑者の所持品に対する差押えについては、直ちにその場での捜索・差押えをすることができない場合、速やかに捜索・差押えに適した場所に連行して捜索・差押えをしたと言えれば、「逮捕の現場」との関係で許容されるべきである。
イ 本件では、事案からは明らかではないが、公道上であれば現場付近の状況に照らして被疑者の名誉等を害すること、被疑者の抵抗による混乱、現場付近の交通を妨げるおそれがある。また、本件では速やかに、かかる弊害がなく捜索差押に適した、逮捕現場からすぐ近くの1キロメートル先という最寄りの警察署で捜索差押えが行われている。
(2)そうだとすれば、かかる捜索差押えは「逮捕の現場」との関係で許容されるべきと言える。
2 よって、以上より本件捜索は適法である。
以上

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