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全部が尊い。湧き上がるものを大切に。齊藤コンインタビュー

ストレンジシード静岡のサポートスタッフ、その名も「わたげ隊」。ストレンジシードってどんなフェス? どんなアーティストが出るの? ということを伝えるべく、地元・静岡を中心に活動するわたげ隊が出演アーティストにインタビューする企画。第5回は齊藤コンさんが登場です。
わたげ隊がゆく!
ストレンジシード静岡2022 アーティストインタビュー

ゲスト:齊藤コン
聞き手:わたげ隊(ハボ、天野、リョウゴ)

動物が好き。植物が好き。

ハボ:まずは簡単に、自己紹介をしていただけますか?

齊藤:ダンサー・振付家として活動しています。ダンスって一応言っていますが、ダンス!ダンス!っていう感じじゃなくて。元々は私、生物学をやりたかったんですが、ちょっと勉強があまりうまくできなかったんです。でも、人体のことを学んでいたら、それはそれで楽しいだろうなって思って。身体の研究の方にいこうかなと思ってるうちに、踊る方にいってしまっていた…ていう感じですね。

齊藤コン

ハボ:生物学にとても興味を持っていると聞きましたが、何かきっかけがあったんですか?

齊藤:ナチュラルに…動物が好きなんです。

ハボ:好きな方向性とかありますか?こういう動物が好き、とか。

齊藤:一番身近だったのは犬とか猫とかなんですけど。あんな風になりたいなーって思っているうちに、どんどん興味の方向が身近な生き物から、爬虫類や両生類とかに広がっていきました。実家が千葉なんですけど、水が豊かで田んぼとかあるようなところなんですね。その中で、トカゲとかカエルとかを見ているうちに、「あー、なんか生き物ってみんな美しいなあ」と思いまして。
本当は環境保護とかの仕事がしたかったんです。生物の多様性というか、いろんな生き物がいるっていうのがすごくいいなぁって思いつつ、人間の活動によって悪影響が出ているっていうことに、すごく心を痛めていて。そういうのを良くしていこうと思っているうちに、なぜか動く方になってしまいました。
いろいろな生き物の生態とかを、人体にトレースしてみる。生き物たちが、どういう世界の感じ方をしているのかっていうのに、ちょっと近づけていけたらなあっていうような形で。

ハボ:今回の作品は、四つ足歩行がメインと聞いていますが、人間的にラクな二足歩行ではなく、四足で動かれるっていうのは、四足の生き物の感じ方を感じたいなぁっていう気持ちからくるんですか?もしくは、四足自体に興味があったとか…

齊藤:犬と一緒に走りたいんですけど。自分が近くなるっていうのもそうだし、ちょっと近いレベルで交流したい、っていうのがありますね。

ハボ:同じ目線で、みたいな。

齊藤:そうですね。あと、四足やってると元気が出ます。

ハボ:どの辺から元気が湧いてくる感じですか?

齊藤:地面の匂いとかですかね。
(考えて)あと、手って、大体地面には着いていないと思うんです。でも、手はすごく繊細じゃないですか。その繊細な手が這っていくっていうか、地面を味わう楽しさみたいなものもありつつ。顔もすごく地面に近いし、普段はこういう(地面に対して垂直の姿勢の)世界だけど、こういう(地面に対して並行な姿勢かつ地面に近い)世界が見えます。すると、なんだかよくわかんないけど、テンションが上がるっていう現象が起きます。
体操の先生もしているんですけど、四つん這いでちょっとそこを歩いてみようかってなると、なんかよく分かんないけど面白くなっちゃう、っていう人も結構います。

ハボ:“手で触る”っていうのがすごく、大地に近づく感覚ですよね。……大地からのパワーみたいなものを感じられる、っていうことなのかな。
動物だけじゃなくて、昆虫・植物にも動きを広げているように理解しているんですが、昆虫・植物っていうのは、生き物繋がりで好きだったのか、それとも動きとして面白いなっていう視点だったんですか?

齊藤:実は、植物の方が先に好きだったんです。本当は、植物の学者になりたいなっていうのがありました。幼稚園ぐらいのときから、植物の生態をやりたいなあって思っていて。もちろん、動物も同時に好きではあったんですけど。「環境」というのを含めると、動植物をあんまり区別をつけないで考えていました。

ハボ:植物を踊りというか、身体で表現しようとするとどんな感じになるんですか?

齊藤:だいたいの植物って、根から栄養と水を得る。まあもちろん太陽光浴びたりして成長しているんですが、人間で言ったら体が逆転しているみたいな状態ですよね。逆さまみたいな。

ハボ:上から栄養を摂るんじゃなくて、下から摂るわけですよね。

齊藤:そう、そういう感じで。三点倒立とかを作品の中で入れていたりする状態で、足が伸びていくみたいなことをやっています。ちっちゃいところから、だんだん足を伸ばして、空気をキャッチするぞ!みたいなつもりで。実際の形とは違うけど、ちょっと状態を近づけていくっていう感じですかね。

※実際に披露してくださる齊藤コンさん
※事務局・インタビュアー大喜び

人間は多様な動きができるから、いろんな生き物の体に近づくことができる。

ハボ:今回のパフォーマンス場所である、鏡池の印象はどうでしたか?

齊藤:池とは言いつつ、正方形みたいな感じ。なんか正方形って凄い特殊な形だなって思っていて、それを上手く活かしつつ、何かできたらなあと思っています。まだまだ悩み中というのが正直なところです。

ハボ:中途半端な深さじゃないですか、あの池って。水をどう使うのかなっていうのも興味があります。

齊藤:四足をやっていると、人間独特の四足ってなんなのかなっていうのを考えるんですけど、ブリッジって他の生き物には無いんですよね。人間だけブリッジで色々何かできたりするっていうのに、私はすごく注目しています。
(鏡池の)あの深さだと、ブリッジした時に顔面すれすれに水面がくるんですよ。その境目というか、本当に鏡池っていうぐらいだから、鏡に顔が入っちゃう。顔ってすごく、印象が強いじゃないですか。顔が水面から現れたり、入っちゃったりしていくと、結構観ている側のイメージが色々変わっていったりするだろうな……というようなことを考えつつ、今は海で、浅瀬で、稽古しています。

ハボ:サイトの紹介文を読んだときに「人間の可塑性」とあって、人間の体って柔らかいと思っていたけど可塑性ってどういうニュアンスですか?

齊藤:結構、人間って何にでもなれるって思っています。ほかの生き物って、生き方が種によって固定されているじゃないですか。同じ環境に居るとか、ずっと中に居るとか。だけど人間は、潜ることもできるし、歩くことも走ることもできるし、自転車を漕いだりとか、車を運転したりだとか、本当に何でもできるなって。これだけいろいろな動きをある程度できるっていうのはすごいことです。
その多様な動き・働きができるということで、いろいろな動物や生き物の体にちょっと近づくことができる。その人間の可能性を、探っていきたいなぁって思っている……という次第です。

ハボ:そういう視点で考えたことが無かったので、お話を聞いていてすごく新鮮でした。確かに人間はいろんなことの真似ができちゃうんですよね。
ちなみにそういういろいろな動きを、自分の体を使って表そうとすると、体が思い通りに動かないと困るじゃないですか。この動きをやりたいなあって思って、そのまま普段の体の使い方だとできないような動きをやりたいと思った時、どんな風にそれを表現に取り入れていくんですか?

齊藤:正直、ほど遠いんですよ(笑)。だから、普段どれだけいろんなことをするのかっていうのが、大事になるなぁと思っています。遊んで暮らす、みたいな感じですかね。木に登ってみたりとか、泳ぎに行ったりとか。あと普通だったら手で持つようなところを足で持ってみたりとか。遊んでみる。
私だけじゃなくて、みんな身に覚えがあったりするんじゃないかなって思っているんですけど、子どもの頃とか、階段を普通に降りないで、お尻をつけて、よいしょよいしょって降りたり、ダダダダダ!って降りたりしませんでしたか?それが大人になっても続いちゃってるみたいな、そんな感じですかね。

色んなことができる、何にでもなれると思ってほしい。

ハボ:静岡は今までご縁がありましたか?

齊藤:1回しか行った事が無いです。この前の、ストレンジシードの下見を除いて、1回。ワークショップのアシスタントとして行ったことがあります。その時に行ったグランシップがダイナミックなところだな、と。あと、グランシップのちょっと向こう側に、なんかすごいパチンコ屋さんがありますよね。何だろう!?って。

事務局:コンコルド(静岡で有名なパチンコ店)ですよね(笑)

齊藤:すごいところだなって……遠めに見てなんかよく分かんないけど、テンション高いなあって。なんかもう、せわしないなぁ!みたいな感じで思ったんですね、その時に(笑)。

ハボ:それと比べて、今回の市役所の鏡池のあたりの印象の類似点や違うところとかはどうでしょう。

齊藤:旧市役所、すっごく素敵な建物ですよね。中を下見の時についでに見せていただいたんですけど……モダン建築というか。結構ああいうの、好きなんですよ。そうしたら、急に鏡池があって。あの建物と鏡池の関係が、ちょっとよく分からなかったんです。

ハボ:なんであんなところにいきなり池があるんだ?って感じの、唐突感はありますよね、あそこ。

齊藤:静岡市民の友達に聞いてもよく分かんないって言われちゃって、途方にくれてしまいました(笑)それから、駿府城があって……。あと、水。水の彫刻というか、そういうものが多いですよね。静岡は、建築と水の印象が強いです。

ハボ:今回のストレンジシード出演をきっかけに、新たに広げていきたいこととか、静岡との繋がりができたことによるこの先の展開はどんな風にお考えですか?

齊藤:実はストレンジシードが終わった直後にワークショップを企画しています。
体操の先生の知人経由なんですけれども、「動物体操」というワークショップを子供から大人までやろうと思っています。

ダンスって、作品をやると「あの人がすごいから、こういうのができたんだね」っていうように、「なんかすごかったね」で終わっちゃうことが多いと思うんです。でも、いや、みんなも同じ体だから。それぞれちょっと違うけれども、いろんなことができるよ!みたいな感じでワークショップができればな、と。
ストレンジシードの作品紹介の中でも「みんなの中にもいるかもね」みたいな文言を入れています。「みんなも一応人間だけど、いろんな生き物になれるよ」「人間まだまだわかんないよ!」みたいなことをやっていきたいというのがずっとあります。作品の上演も、もちろん大事だけども、一番やりたいのは、もしかしたらそこなんじゃないかなという気がしています。
前の作品の時に、作品上演中に子供たちが逆立ちしだしたりしていたんで、そういう事が起こる方が、私にとって本当に大事だなって思います。
なんかすごい作品ドン!ってやりました!というよりも、みんな動きたくなってきたー!!みたいな、何か湧きあがってくるものとかがあったらいいなぁと思っています。

事務局:これまで色んな場所で活動されてきて、初めてコンさんのパフォーマンスを見た人が、どのような感想を持ったとか。それこそ、その場で真似する子供が出てきたとか、そういう経験ってありますか?

齊藤:三点倒立をやると、子供たちも三点倒立しだしたり、柱を登りだしたりとか、結構今までもありましたね。でも子供だけじゃなくて、大人ももうちょっと遊んでもいいんじゃないかなって思ったりもします。人間はもうちょっと遊べるはずだなあって思っているので……。
あと、例えば犬や猫を飼っている人が親近感をもっと得られることがあったら、生活もすごく豊かなものになるんじゃないかな。人間中心とか、人間が偉いぞっていうよりも、全部同じ、全部尊い、みたいに思えたらいいなぁって思います。

事務局:コンさんのパフォーマンスを見て、言葉じゃなくて、身体で感じる、感じて持っていく。そういうのを持って帰ってもらえると、いいですよね。

ハボ:今まで訪れた土地の中で。ここが面白かった、というところって、どこかありますか?

齊藤:自分の作品だと、埼玉ですかね。埼玉のキラリ☆ふじみ(富士見市民文化会館)っていうところ。そこでソロ作品をやった時に、子供たちが作品見ながら逆立ちしちゃうってことが起きました。四足で出てきて、パフォーマンスして帰っていくみたいな感じだったんですけど、帰っていく時に、子供たちも四足でついて来ちゃって(笑)。もうどうしましょう?みたいになったんですけど、それはそれですごくいいなって思いました。

富士見市民文化会館 キラリ☆ふじみでのパフォーマンス
Photo: 北川姉妹

ハボ:ストレンジシードで四足の子供たちがいっぱい現れる予感しかしないんですけど。

齊藤:そうですね。駿府城でみんな四足しちゃってる。私もまた混ざっちゃう、枝でなんかやっちゃう、みたいな。

ハボ:そうそういうの良いですよね。
人とその他の生き物じゃなくて、何にでもなれる何でも一緒っていう世界を作ろうとなさっているのかなぁって、話を聞きながら思いました。とても素敵です。

やっぱり生き物は美しい。

天野:いろいろな生物を見て、この動きやってみよう!という時って、ひたすらその生物の動きを見て動くのか、それともとりあえずやってみようで動くのか。どういう取り掛かり方をされるんですか?

齊藤:とりあえずやってみよう、みたいな感じですね。やりつつちょっとこの感覚はあの動物に近いんじゃないかな。じゃあちょっと参考にしてみよう……みたいな。
実際にはそれにはなれないけれど、ちょっとそれっぽくなっていくし。いろいろな生き物の状態が混ざっていっちゃうみたいな。純粋にあの生き物!っていう風にはならないなぁとは思います。なので、キメラみたいな感じではあるかもしれないですね。

事務局:水中の生き物、例えば魚とかの場合、四足動物と違って背骨の付き方で横移動の動きになりますよね。その動きを取り入れる時はやっぱり背骨に沿ってやるものなのか、それとも形というか、外側の動きを優先するのかどちらですか?

齊藤:動きです!トカゲとかは魚の動きの名残があるなと思いつつ……。私、水中の作品がないというか、今回が初めてっていうのもあるんです。なので、それが出せたらいいなと思っています。背骨の縦の動きと側屈の動きで、今のところ陸上でやっていて面白いなって思っているのが一個ありまして、それをやろうと思っているんですけど。

※また実演してくださる齊藤コンさん
※事務局大喜び

齊藤:背骨だけの動き、手足使わない動きっていうのもすごく素敵だなと思っているので。そういうのがちょこちょこ出てくるといいますか、背骨だけでどれだけ動けるかっていうのも、すごく注目してるんですよ。もちろん手足もすごく大事なんですけど。でも、背骨いいよね~って思っていて。

事務局:わかります。背骨は美しいですよね。動物は機能美だと思います。

齊藤:そうなんですよ。私、去年の9月に千葉から和歌山に引っ越してきて、鹿とかハクビシンとか、ハンターさんが捕まえてきたのを一緒に解体のお手伝いとかしているんですけど。ああ、自分もこれある・自分もこうだなって思いながら解体していって、それを食べているっていうような生活をしているんです。本当に、生き物美しいなーっていつも思いながらやってますね。

ハボ:それをさらに、解体して取り込んで。自分と別のものというよりは、同じ一つのものとして取り入れていくっていう生き方をなさっているんですね。素敵ですね。

事務局:話をお伺いして、コンさんはやっぱり環境とか、自然、風景っていうものから、いろいろなインスピレーションを受けて作品とか動きとかを創作されているので、屋外・野外で上演することと、劇場でも普段パフォーマンスすることの違いをどう捉えているんですか。やっぱり野外の方がしっくりくるのか、劇場ではまた違う面白さがあるとか、そういったことをお伺いできたら嬉しいです。

齊藤:どっちかっていうと、野外の方が好きなんですよ。
身体って、これだけでは存在できないというか。背景がある環境があって、身体があるっていうように思っているんですけど。劇場ってそれが一旦無いことになっているというか……背景無しでこれだけでやれ、みたいなのって結構しんどいなーっていうのがありますね。
静岡市っていう都市に、異物みたいな人間……動物だか何だかよくわかんない、みたいなのが居るって、面白いだろうなぁって思っています。都市は都市でも、市役所の建物もあり、鏡池っていう人工の池もあり。コンクリートの中にもいろいろな植物がある。そういう中で、普通の「人間」っていうのがちょっと崩れていく様が、あの鏡池ステージで見せられたらいいなぁっていう感じですね。

事務局:鏡池も人工的な場所ですし、劇場と自然環境とのちょうど中間ぐらいの場所なのかな、という感じがするんですよね。あそこで大自然っていうものはそんなに感じはしないですけど、でも、もしかしたらコンさんがあの鏡池でバシャバシャと水で動くだけで、そこが湖に見えるかもしれないし。人工的なものの中に、コンさんの体を通すと、大自然というか、本来の生き物の動きとか、イメージっていうものが見えてきたりするのかなって。今、お話を聞きながら思いました。

齊藤:そうなったらいいなって思いますね。

事務局:ありがとうございます。面白いお話をたくさん伺えて良かったです!

齊藤コン
大きくなったら動物になりたいという幼少期を経て肉体探究の道へ。
全編ブリッジ姿勢で踊る「Mutant Dynamics」寄生虫や昆虫の防衛行動を人間の群舞にした「Integration」昆虫や植物、獣の世界を行ったり来たりまぜてしまう「はる、むしむし」など生物学と人間の可塑性を利用し、人間がこれまでの人間でなくなり、新しい生物や現象になる過程を見せる肉体作品を発表。また、アニマルコンちゃんとしてさまざまな生物の動きをモチーフにしたどうぶつ体操を主宰。幼児から大人まで様々な年齢層に普及中。
2021年、拠点を和歌山に移し野山を四足で駆け巡る。海からは貝、山からは鹿を食す。
https://www.consaitoh.com/
ストレンジシード静岡2022
『みゅ〜たんとだいなみくす』
齊藤コン

みんなの体にもそいつはいるかもね。
不思議ないきものが池をのぞいています。猫ちゃんかな?トカゲかな?ロボットかな?ニンゲンかな?
水の中には何があるのかな?たくさんの小石、小石、小石、小石、小石・・・こっちでチャポン、あっちでもチャポン!
あれ?不思議な生き物はわっかになったり、逆さまになったり、植物になったり!どんどん変身していきます。
こいつはなんだろう?

日程:2022年
5月3日(火・祝)13:20 / 17:10
5月4日(水・祝)14:10 / 17:00
5月5日(木・祝)12:20 / 15:40

会場:市役所エリア[鏡池]

作・演出・構成・振付:齊藤コン
出演:齊藤コン

詳細はこちら
https://www.strangeseed.info/
インタビュー:ハボ、天野、リョウゴ(わたげ隊)
記録:momo(わたげ隊)
編集・テキスト:草野冴月(ストレンジシード静岡 事務局)
編集協力:柴山紗智子

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