新しい動きを生み出す“遊びのルール”を考える人 ホナガヨウコ インタビュー
興味があるのは、新しい動きを作ること
天野:まずは自己紹介をお願いします。
ホナガヨウコ:ダンスパフォーマーと振付家をやっています。普段の仕事は、広告やミュージックビデオ等の振り付けと自身での出演、Eテレ等の子供番組への振り付け、それからワークショップもやっています。私にも子どもがいるので、最近は親子向けが多いですね。1歳から6歳までの未就学児を中心に、体遊びの親子教室の講師をよくやっています。
天野:いろいろなジャンルのダンスをされている印象がありますが、コンテンポラリーともちょっと違う。……ごめんなさい、実はそう言いつつ、コンテンポラリーについてもよく分かっていなくて。
ホナガ:よく分からないものをコンテンポラリーって纏められがちですからね(笑)。
そもそも私は別にコンテンポラリーをやっているつもりはなくて、自分で動きを作ることに興味があったんです。既存のダンスジャンルから何かを派生させるより、普段の動きや「あの人の動き面白いな、綺麗だな」とか、そういうものをつまんで、編集して、新しいものを作る。そういうことに興味があってやっているので、ジャンルはあまり気にしていないです。ただ、“コンテンポラリーの人”って言われたら、「そうです」って言っています。それは人が決めることだから、まぁいいかな、って。
振り付けの発想の源
天野:ホナガさんは普段どのように振り付けを考えているんですか?
ホナガ:私が初めてストレンジシードに参加したときの作品で言うと、「架空の儀式で、鳥の神様を祀るっていう設定にしたい!」というアイディアがありました。そこから、和の雰囲気を出すために漢字をベースに振り付けを作りました。漢字の“とめ・はらい”とか、神っぽいものを感じる漢字をダンサー同士で出し合って、“しんにょう”を振り付けに使ったり。
ホナガ:面白いのは、「せーの!」で始めたときに、同じ漢字をテーマにしていても、二人とも使い方や捉え方が違う。「あ、そこ長いんだ」とか、自分は早く終わっちゃって向こうは長くかかっている……とか。逆に画数だけを合わせると、同時に終わったりするんです。そういうときに何が楽しいかというと、発想がぐるぐる変わったり、偶然何かが起こったりすること。自分で思いもしなかった方向に転がっていったりするので、新しい発想の源として、遠いところから拾ってきたりします。
天野:漢字をモチーフにするって、すごく面白いと思いました。
ホナガ:不思議なもので、何故か和風になるんですよね。書道をしているような気持ちで動いているのかもしれないです。
天野:言われてみると、漢字って動きがありますよね。書道のパフォーマンスもありますし。
ホナガ:ダンサーに「お客さんはこれが漢字だって分からなくて良い」って繰り返し言っていたんですよ。むしろ分からせたくない、ぐらいの感じ。ただ「なんだろう、これ?」とか「この動き見たことないなぁ」って、感じてもらえたら良いなと。振り付けって、そうやって動きを新しく生み出すことをどうやったら目指せるか、のルール決めみたいなものだと思います。「遊ぶ?」「遊ぶ!」「なに遊びする?」……って言ったときの、一番最初のルール決めみたいな……。私は“ルールを新しく考える人”って感じです。
天野:私は自分が所属する劇団で与えられた振り付けを踊ることはあるんですが、振り付ける方ってどういう風にされるのか、ちょっと違う世界のように感じていました。でも確かに、“絵や字をなぞる”と言われると、振り付けをするハードルが低くなるというか。思っていたよりすごく自由だなと思いますね。
ホナガ:でも、手でなぞるだけだと、まだダンスにはならないじゃないですか。だから、あと1、2個動きを足すとダンスに見えるかも、っていうアドバイスをしていくんですよね。いま作っている今年のストレンジシードに向けての振り付けも、モチーフや動き自体はみんな知っている。でも、それをリズムに乗せるにはどう変換させていくか……みたいな事をいっぱい考えて工夫しています。だから、出来上がったものだけを見ると、めっちゃキャッチーだったり、分かりやすかったりすると思うんですけど、最初の段階は結構いろいろ考えています。
天野:すごい。それを聞くと確かに、子どもたちも参加しやすそうですね。ホナガさんは子どもたちとの共演が多い印象ですし、ダンスのワークショップのようで楽しそうです。
「ダンスを作る」が面白い
ホナガ:今、子どもたちの中でもダンスがすごく流行っていて、私の娘も今年小学校に入ったんですけど、30人近いクラスの中で、もうすでに4、5人、ダンスを習っている子がいるんですよ。小1ですよ? テレビでもYouTubeでも、コンテンツとしてダンスがすごく増えているなと思うんですが、「もっともっといろんな動きの可能性あるよ!」ということを教えたい。ほかのダンスジャンルをディスっているわけではないんですけど、「タップダンスやります!」とか「ヒップホップダンスやります!」と言うと、親も分かりやすいじゃないですか。でも、「ダンスを作ろう!」と言っても、あまり来ないんですよね。多分、作ることにはみんなそんなに興味がないんだと思う。でもぶっちゃけ私、自分が一番できることは作ることだと思っているんですよ。だからダンスを教えるとなったとき、実は作ることしか教えられないんですよね。作った振り付けでみんなで踊ろう! っていうのも良いんですけど、私的に1番楽しいポイントは作ることなんです。だからせめて、今回も振り付けを教える前に「こういうものをモチーフにして作ったよ」という話をステージ上でしたいなと思っています。そういうことを言ったら覚えやすくなるかなと思っていて。
前にカフェオレをモチーフに振り付けをした時に、「コーヒーと、ミルクが、ここで混ざるよ!」「ここでブレンドしてカフェオレになるよ!」みたいな説明をしたら、「あ、そういう意味を持ってこの動きをつけていたんですね!覚えられます!」とか「その発想をちゃんと知っていた方が面白いですね!」と言われて。多分、一般の方が出来上がったダンスだけを見て覚えるとなると、捉えどころがなかったり、どこから覚えれば良いか分からない。どうやって作っているのか想像がつかないと、ちょっと入りにくいと思うんです。
ホナガ:だから今回、パフォーマンスではあるけど、ちょっとワークショップ的な展開にしたい。多分、必要以上に喋ると思います。でも、すごく気をつけなきゃ。MC長すぎて持ち時間をオーバーしたらどうしよう(笑)。
天野:ダンスだけど、図画工作的な感じですね。すごく楽しそう。
ホナガ:そうかもしれないです。チョキチョキ切り貼りして。
天野:自分の好きなように作っていいよ、っていう感じですね。
振り付けは編集とセンス
ホナガ:いや、でも本当に、ダンスに必要なのは編集とセンスだと思うんですよね。ダンサーでも振り付けができる子とできない子がいます。私、これずっと思っているんですけど、ダンサーは基本、動きの整理整頓が上手なんです。“ここで切ってここまで”っていう整理整頓ができると、順番を覚えられる。手順を教えた時に、「手順」ってまさに手の順番ですけど、それを覚えるのが上手な子はダンサーに向いているし、そういう作業も向いている。だから、ダンサーって映像編集が上手なんです。切り貼りができるから。
天野:2020年の「ストレンジシード静岡 the Park」のときにも、映像編集をされていますよね。
ホナガ:私、映像編集が好きなんですよ。多分、やっている作業が振り付けとあまり変わらないからじゃないかなと思っていて。極端な言い方をすると、映像を振り付けられるんですよ。「ここからここまでをこう見せたい!」という考え方が、一緒だと思うんです。映像の場合は画角とか……例えば、映る部分が足だけとか、手だけ、目だけ、風景だけ、とか。入れるタイミングやバランス、どこをスローにするか、とかも含めて、切り貼りする作業が、“編集=振り付け”に繋がっている、っていう感覚です。
天野:なるほど。じゃあ、もしかしたらダンサーに映像を依頼すると、結構……
ホナガ:結構、良いのがあがってくると思います!
天野:勉強になります。今、映像やオンラインが主流になってきていますけど、ダンス業界もやっぱりそうですか?
ホナガ:打ち合わせは極端に減りました。映像である程度作って送るのが当たり前になっているからこそ、こちらの編集技術も自ずと上がりますよね。
ダンサーも雇えないし自宅でしか撮れない時、自宅でグリーンバックを作って、合成で私を3人にして組み合わせたり。仕事相手に引かれるぐらいに編集して送ります。
天野:すごい!
ホナガ:この間、「こんな振り付け映像を初めて見ました!」って言われました。仕上げすぎて「もう出来てるじゃないですか!」って(笑)。
衣装作り:視覚からもハッピーな気持ちに
天野:ダンスもそうですけど、物作り自体がお好きですか?衣装もご自身で作られていると聞きました。
ホナガ:今回も作っています。
天野:前回、静岡の子どもたちとやられた時もそうでしたよね。
ホナガ:そうです。こういうものが欲しいけど、探しても見つからないっていう時は、もう作るしかないなって。
あと、私、学生の頃は舞踏を習っていたんですけど、そこではもう最初からみんな普通に衣装を自分で作っていました。だから「衣装って自分で作るんだ」って思っていました。ある程度既製品を使ったりするようにもなりましたけど、イメージにぴったり! っていうものがない時はやはり作っています。そんなに精巧にはできないですけど、それも作品の一部っていう感じですね。
天野:ホナガさんが作られる衣装って色鮮やかじゃないですか?淡い色のイメージ。
ホナガ:そうですね。可愛いものが好きなので。……改めてはっきり言うとちょっと恥ずかしいですけど、可愛いものが好きなんですよ。だから自ずと、パステルだったり、カラフルになったりします。優しい気持ちになるし。あと、やっぱり私は、舞台を観てウキウキしたい、気持ちを上げたい、胸にドーン! ってきたい……って思う。だから視覚からも、カラフルでハッピーな気持ちになってほしいなと思います。
天野:ストレンジシードって野外なので、ホナガさんの衣装は自然と共存できるような色合いで、透明感があって、すごく素敵だなと思いました。あと、「何色の子が素敵だった」とか「何色の子、かわいいね」とか、メンバーカラーのような印象がついていて、それもすごく良いなと。
ホナガ:それはめっちゃ意識しています。最初にホナガヨウコ企画という自分のカンパニーを作った時も、最初の作品をめちゃくちゃカラフルにして。みんなに言っていたのは、「絶対みんなお客さんに覚えてもらうよ!」って。ひとりひとりが印象的になってほしい。みんなの個性がちゃんと光って欲しいし、みんなそれぞれ良かったねっていうことにしたい。だから私、ユニゾンとかに全然厳しくないんです。あまり揃ってなくてもいいや、って。その許容範囲が広すぎて、みんなに「もっと揃えなくていいですか?」って言われるぐらい。もっと練習しなきゃって、多分、みんな思っているんだけど、“一糸乱れぬ”みたいなものよりは、ちょっとアハハって笑える部分があったりしても良い。「着崩し」みたいなことです。服を渡すけど、みんなちょっと着崩していいよって思ってる。ちょっと何か巻いても良いし、首元を開けてもいいし、みたいな感じ。
天野:それが個性に繋がりますもんね。
ホナガ:それをどこまで個性と判断するかは、各々だと思うんですけど、私はちょっと甘いです。まあ良いじゃない、って思っちゃう。そうでないと多分、子ども向けのワークショップとか無理ですよ。子どもたちは脱走したり、色々好き勝手するし……と思ったら急に来るし、気に入ったら延々とそれしかやらないし。でも、そういうところに寛容でいたいなと思っています。子どもとやると、そういうところが自然と柔らかくなる。もちろん、ビシバシとキレがあって揃っている格好良いのも大好きなんですけどね。
舞台のミラクルが起きる甘さを残したい
ホナガ:大人同士でやるときも、本番でちょっと変わっちゃってもいいや、と思っています。当日にミラクルが起きる可能性があるからです。
天野:ミラクルって言い方すごくいいですね。トラブルではなく。
ホナガ:トラブルではないです、絶対。舞台のミラクルは絶対にあって、それが楽しみでもあります。お客さんもそうだけど、私自身も当日初めて見る出来事が起きたとき、「今日のあれ、超面白かったね!」「良かったから次の回もこれしよう!」ということが起こる。そういう甘さは残していたりするんですよね。
今回の作品『ホナダンス部とウーララーズの!お外でディスコ!』も、基本的にはきちんと作っていってるんですけど、お客さんがどんな感じに参加するか、どんな人が来るか全然見えていない。だから、お客さんの様子を見ながらやるんじゃないかなと思っています。
天野:いろいろなダンサーさんといろいろな作品を作っていらっしゃいますけど、カンパニーっていうよりも、一種の家族的な雰囲気がしますね。
ホナガ:そうですね。今、固定のメンバーというよりは、私が声を掛けて集めたり、わりと自由にやっているので。
今回、一緒に出るキッズダンサー達との出会いも偶然だったんです。最初に“かぞくでディスコ!”という親子で踊れるパフォーマンスをやろうってなった時に、「良かったらこの子たちを出してくれません?」みたいな感じで紹介されたんですよね。最初に出会った時は、幼稚園や小学校低学年ぐらいで、本当にみんな超ちっちゃくて。そんなに踊れていなくても、私は何も気にしていなくて、どんどんやっていました。
天野:写真に写っていた子ども達ですね。
ホナガ:そうです、そうです。もっともっともっと、超ちっちゃかったんです! そういう子たちと一緒に踊ることによって、お客さんの前列はその背丈の子ばかりだったんですよ。「あの子たちが踊れるなら、わたしたちも!」みたいな感じで。前列はそれぐらいの子でいっぱいになって、みんなで踊っていました。そういうの、すごくいいなと思って。
子ども達の方が、本当に迷いがない。何も考えないでしっかり楽しむ柔軟性というのは、子どもの方があると思います。
キッズダンサー達は、大きい子はもう中学生になった子もいるので、今回はフォーメーションに凝ってます。ちょっと難しいことを言っても伝わるかも…と思って。前は本当に並んで踊るだけだったんです。今回はストレンジシードだし、みんなプロばかりだから頑張ろう、って。
天野:すごい、ありがとうございます! 野外っていうのもありますもんね。野外って参加しやすくて、すごく良いなと思っていて。
ホナガ:そうですね。「ちっちゃい子もやれているならやれるかも」みたいな感覚で、気軽に参加してもらえたら良いなと思っています。
ストレンジシードは新たな居場所
天野:事前にホナガさんについてスタッフに聞いたら、“静岡の場所や人を取り入れたりして、ストレンジシードのコンセプトを誰よりも大事にしてくれている方”っていう印象だと……
ホナガ:そうです!!!(笑)
天野:嬉しい。ホナガさんから見て、ストレンジシードの魅力ってどんなところにあると思いますか?
ホナガ:街と人の受け入れ態勢が本当に暖かい。こんなに豊かに捉えてくれるんだ、っていうのが、ありがたい。普通はこちらから「街で何かやりたい」って言っても、許可が細かく必要だったり、これはして良い・これは良くないみたいなことが、多分もっと厳しいと思うんですよ。そうすると、表現しようっていう前に許可取りがメインになるというか、考え方のベースが変わってしまうじゃないですか。だから、「この場所を自由に使って良いんだよ」って差し出されて、「どうやって遊ぼう?」「どれにしよう?」って選べるのは、アーティストから見たらすごく恵まれた場所だと感じます。
それをさらに盛り上げていこうとする運営スタッフも、わたげ隊も、地元から募っていて、ちゃんと人が集まるじゃないですか。それもやっぱりレアだと思います。街ぐるみ・人ぐるみでこれだけ協力的っていうのが。みんなで成功させよう、っていう方向が一緒じゃないですか。見ているビジョンが一緒なのはすごく心強いです。お客さんもすごく身内感があるというか、暖かい。特に去年は静岡の子ども達とやったから感じたんですが、静岡という全く縁のない地域にいるのに、お母さんたちと「どうもありがとうございます」「すごく楽しかったです」って普通に身内みたいに喋れるようになったり。
天野:ママ友みたいな感じですか?
ホナガ:そう、ママ友みたい。あと、学校の先生がいっぱいいらしてくれて、喋ったり。そういうの、すごく面白いと思って。私はそこには住んでいなかったし、働いてもいなかったけれど、もうひとつ行ける場所ができた、みたいな感覚になりました。これは、他のアーティストの方にも感じてほしい大事なことだと思います。だから、ただの地域公演みたいに思ってほしくないなって……私がストレンジシードのスタッフみたいだけど(笑)。
ホナガ:これ、すごく大事なことだと思うんですよね。どこかでやった作品をストレンジシードに持って来るっていうのが、逆に難しいと思う。だったらこの好意に甘えて、新しいことにチャレンジしても良いんじゃないかなと思います。私、ほかの地域だったらこんなにうまくいかなかったかも、って思うんですよ。地元の子を募集したり、区役所の前を使って儀式的なパフォーマンスをしたり……ちょっとヤバい奴みたいな(笑)。でも、みんなが「いいね!いいね!」ってなるのが、すごくレアだと思っています。
天野:それはスタッフだと気づかないところなので、アーティストの方にそう言って頂けると、すごく嬉しいです。
ホナガ:初めて参加した年にフェスティバルディレクターのウォーリーさんから、「ホナガさん、ちょっと時間があったら街を見て行ってくださいよ。もっと使いたいところがあったら、使わせてもらえる可能性あるから」と言われたときも、「まだ選べるの!?」みたいな。この道を使って何人でこういうことをやりたい、とかもできるかもしれない。“もう許可が取れている・許可が取れるかもしれない・色々やっていいからまずはアイディア出してください!”……っていうストレンジシードの姿勢が、すごくすごくありがたいです。
天野:色んな楽しいお話を聞けて嬉しかったです、ありがとうございました。当日、楽しみにしています。
ホナガ:はい、是非参加してみてください!
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