【グッドプラン・フロム・イメージスペース】 「視野の味:前編」 (No.0093)


 雑なウイルス騒動のせいで学校はやっていませんでしたが、飼育しているウサギやニワトリ、花壇の草花が気になっていたヒナタは、同級生のナツオと一緒に毎日世話をしに来ていました。

花壇の水やりなどが終わり、2人は飼育小屋に向かいました。
元々飼育係でない2人であったが、毎日やって来ては掃除から餌から遊び相手から何でもやってくれるので、小屋の動物たちもすっかり彼らの顔を覚え懐いてしまいました。

「おはようございます。元気ですか?」

小屋の前で動物たちに声を掛けるなりウサギやニワトリたちが嬉しそうに寄ってきたり鳴いたりと各々が返事を返しました。

小屋の裏に周り柵を取り出すと2人は校庭の端にある、ところどころ雑草の繁る手入れのしていない場所に簡単な囲いを作りました。
ナツオとヒナタがニワトリとウサギを1羽ずつ抱きかかえてはその囲いに移しました。
動物たちもこの流れにすっかり慣れており特に抵抗する事なく受け入れました。

「初めの頃とは違って静かなものですね。」

ヒナタは抱えたウサギを撫ぜながら語りかけました。

「前は嫌がったり逃げ出そうとしたりで大変でしたが、もう私達の事も覚えたみたいですし、囲いすら不要かもしれませんね。」

ナツオはそう言いながら最近産まれたヒヨコを両手で掬い取りました。母鶏もナツオを信頼しており、両手のヒヨコを見つめながら囲いに向かうナツオの後ろを、安心しきった振る舞いでしっかりと付いて来てました。

動物たちを囲いに移し、水入れを囲いに入れてやりました。
ウサギたちは入るなり雑草を食み出し、ニワトリたちは何やら地面を夢中でつつき出しました。ヒヨコたちも雑草をつついたり地面をつついたりとはしゃいでいます。

「少しここで待っててください。掃除しますから。」

ヒナタは丁寧に話しかけましたが、聞いている動物たちはいないようでした。
二人は小屋を掃いたりこすったりして綺麗に掃除をしました。
今朝も卵が2つ産まれていました。
ナツオはいつも通りひとつずつ丁寧にタオルでくるんでタッパに詰めました。
掃除が終わった後、しばらくウサギを撫ぜたりニワトリやヒヨコと遊んだりして過ごしました。

まだ春なのに夏のように強い日差しが照り、小屋に撒いた水も乾きだした頃、2人は動物を小屋に戻しました。
小屋に用意した新しいエサを見つけるなり、みんな寄せ集まって食べ出しました。

「あなたたちは今さっきまで、草を食べたり土をつっついたりしてたでしょう?」

ヒナタは彼らの食べっぷりに可笑しくなって思わず問いかけてしまいましたが、ヒナタの言葉にもナツオの笑い声にも振り返る動物はいませんでした。

柵や掃除道具なども片付け、ゴム長を履き替え手を洗い身を綺麗にすると、2人もようやく朝ごはんを取る事が出来ました。

鍵を閉じている校舎の入口前に置いたリュックから水筒を取り出し、今朝入れた熱いお茶を地べたに座り込みながら2人はすすっていました。
目の前にはいつもの校庭が広がっています。
普段ならばもうこの時間には多くの学生が、2人が座り込む入り口から靴を履き替え次々に教室へ飲み込まれていくのに、今は彼ら2人以外先生すら居ませんでした。

静まり返った校庭は、だいぶ離れているのにウサギたちのエサを頬張る音さえ聞こえそうなほど動くものはおらず、あれだけ毎日踏み散らかされていた校庭の土も虚しささえ感じさせました。

2人は花壇や動物の世話に満足していました。心地よい疲労や動物との戯れも草花の水やりも好きでしたが、こうして静けさの中でお茶をすするとちょっとだけ侘びしい気持ちが湧いてきました。

「ナツオはどうですか?この生活が続くことを望みますか?」

ナツオはヒナタの唐突な語りかけに少し戸惑いましたが、彼の言いたいことは理解しました。

「私はとても満足してます。朝から晩まで。頭から尻尾まで楽しいです。しかし、ヒナタはどうも違うようですね?」

ナツオはヒナタを見ました。
ヒナタはしばらく黙っていましたが、うんと頷きました。

「ナツオ、私は少し物足りなさを感じているのです。毎日似たような事が繰り返されています。」
「物足りないというのは、何が欲しいとか、何がしたいとか、具体的に求めていることがわかってはいないということですね?」

今度はもう少し早く頷きました。

「でも、決して不満というわけではないんですナツオ。こうして動物と戯れるのも好きだし、お茶も美味しいです。君と遊ぶのも楽しいし勉強だってサボること無くやっています。でも、何でしょう・・・・」

モヤモヤとした言葉尻と同じく、ヒナタの顔はハッキリしない表情で校庭を見つめていました。
ナツオはクイッとお茶を飲み干しました。

「ヒナタ、少し景色を変えましょうか?」


後編につづく


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