【グッドプラン・フロム・イメージスペース】 「永遠のお客様 :中編」(No.0101)

前編のつづき

「マモル、あなた達の作るこの素晴らしいホットケーキをいただくに相応しく無い者達とは一体誰の事でしょうか?」

厳しい顔つきでそう言うと、ヨシオはチョコレートホイップクリームをぽってりと盛った1切れを、今度こそ口の周りにクリームが付かないよう注意しながら慎重に口へと運びました。

「ヨシオ、一度に沢山のチョコホイップを盛るから口に付くのです。」

友人の適切な忠告ですが、満足げに頬張る姿を見るに彼がこの忠告に従えるまでにはまだまだ時間が掛かりそうでした。

「マモルも分かっているでしょう、ホットケーキとチョコレートホイップクリームは1対1を目指すと良いのですから、この様な労苦は避けがたいしホットケーキをいただく人間の云わば定めなのですから!」

ヨシオは熱情を持って友人にポリシーを語りつつ、結局付いてしまったクリームをハンカチで拭いました。

「あぁ、みんながヨシオのように力強くホットケーキを語る程に、熱のある人達であれば良いのに!」
「マモル、さぁ言うのです。あなたを悩ます者は誰ですか?」
「『お客さん』です。」
「ええ、まぁそうでしょう…」

マモルの言葉が腑に落ちず少し固まってしまったヨシオをよそに、マモルは冷蔵庫へと向かいました。
中からスライスしたイチゴを入れた器と、トッピングのチョコスプレーを取り出しました。
テーブルへ戻ってくるとマモルは自分とヨシオの皿にたっぷりとスライスしたイチゴを追加し、残っているホットケーキとホイップの上にこれでもかとカラフルなチョコスプレーをふりかけました。

「ヨシオ、私はさきほど人々が皆同じ人間で有ることが、案外簡単に崩されると言いましたが、その瞬間の1つがこれなのです。」
「ん、確かにこれだけのトッピングは平等を重んじる平穏な心持ちを崩すキッカケになっても仕方ありません。」

さっきまでなめらかな表情を彩っていたチョコホイップに、その顔を隠さんばかりのカラフルなトッピングを施された上に、遠慮がちに食べていた大粒のイチゴスライスが大盛りに添えられたのです。ヨシオの勢いで寂しくなっていた皿の上は新しく作りなおされ、第二ステージを迎えたのですから、彼の心が乱されるのも無理はありませんでした。

「ヨシオよく聞いてください。私は考えたのです。人々がカンタンに平等を失う瞬間を考えたのです。それが店員とお客さんの関係なのです。」

ヨシオはどうやら耳は向けているらしいのですが、瞳はまだまだお皿の上でした。

「同じ人間で、誰だって働いていて、業務上の苦労や苦悩は特に大人なら誰でも嫌というほど経験しているのに、それをお客さんになった瞬間に忘れるのです。まるでそれが義務であるかのように、極めて丁寧に確実にです。」
「マモル。そのとおりですね。私も忘れていましたよ。」

ヨシオは輝く瞳をやっとお皿から友人に向け直しました。

「このゴージャスなホットケーキは全ての人を喜ばせます。しかしそのためにはこれを作った人の努力が裏打ちされていてこそということです。」

ヨシオはTシャツの襟を正すと、やや慇懃にひと切れを切り出しホイップを盛りました。
今度は常識の範囲内でした。
そしてイチゴスライスを1切れ乗せてデコレートを完成させると、マモルに改めて目を向けて言いました。

「マモル。このホットケーキ、疎かにはいただきませんよ。」

美しい笑みを浮かべたヨシオの心に応じるように、マモルはミルクのグラスを軽く掲げ、

「チェリオ」

と、全てに感謝を捧げました。


つづく


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