【2つめのPOV】シリーズ 第4回 「波」Part.8(No.0182)

Part.7のつづき


しかし、いつもの仲間たちとは少し違う、あまり見たこと無いカニ達でした。


どうしてそんなものを被っているの?

と、声をかけたものの、芳しい返事は無くどうにもハッキリいたしません。


みんなのもとに戻ったカニは 

変な奴らだなぁ 

なんて首をひねりながらも、井戸端会議にもうひと花咲かせて呑気に過ごしておりました。



しかし、その晩にまたしても誰かの声で

 危ないぞー 気をつけろー 

と、叫ぶ声が聞こえたのです。



そして、それは毎晩毎晩、来る日も来る日も聞こえてきました。


そして日に日に貝殻を被ったカニ達が増えていったのです。


何だこれは いったいどうなってんだ? 


この浜に長いこと住んできたカニ達は大変驚きました。こんな事は一度だって無かったのです。


他所の浜で育ったカニ達に

 おたくの方ではあんなのが流行ったりしたかい? 

と尋ねてみても

 いやあんなのは初めてだ 

とハサミと口を揃えて言うばかり。


しかしどんなにハサミを捻ってみても、昼は貝殻を被ったカニ達で溢れ、夜は誰かの叫び声が響き続けたのです。



そして

 これは変だぞオカシイぞ 

と話し合っていた仲間たちまで、やがては日を追うごとに一匹、また一匹と貝殻を被るようになりました。



おいおい、お前たちまで何やってんだい? 

と声をかけますが、やはりこれといって答えはハッキリしませんでした。



その頃には、よくよく砂浜に目を凝らしますと、あれだけ浜辺にも磯にも溢れんばかりに転がっていた貝殻が1枚たりとも見当たらなくなっていました。


遠くの磯では貝殻を奪い合って喧嘩まで起きているようだ 

と、噂話も聞こえてくる位に皆して貝殻の奪い合いに躍起になっていたのです。


やがては、それまでソッポを向かれていた小さい貝殻まで奪い合いになり、サイズのまるで合わない貝殻を被ったカニ達も現れました。


そして遂には貝殻を売り出す輩まで出てきたのです。


ついこないだまでは、そのへんに幾らでも転がっていた貝殻を、それはそれは法外な値段で売り出したのです。


しかもそれを皆が我先にと奪い合うまでになっていたのです。


そしてそうやって買った貝殻を、子ガニにまで被せる親ガニも現れました。


子ガニは可哀想にも、その重そうな貝殻を必死に引きづりながら干潟や浜を歩いており、その姿は痛々しくて見てられないほどでした。



この異常事態に耐えられないカニ達は、長老の元に集まり相談をしておりました。


するとさすがは長老様、カニの甲より年の功と言いますとおり、ナイスアイデアを発しました。



被り物については我々カニよりヤドカリが詳しいだろう、ならば彼らに聞いてみるのだ 


となったのです。


そしてその集会の中で一番足の早いカニが選ばれ、普段は交流の無かった隣の磯に居るヤドカリ達のところまでひとっ走り横っ走りで使いに出かけました。


皆で待っていますと、さすがは韋駄天、早いもので皆がハサミのお手入れに夢中な間に帰ってきました。


そして長老の前で報告を始めました。


どうやらヤドカリ達の話では、向こうの磯でも同じことが起きていると言うのです。


そして、何とあまりに貝殻をカニ達が奪うので、ヤドカリ達が貝殻不足で困っていると言う話でした。
中にはおじいちゃんの代の古びた貝殻を孫に与える始末だそうで、こんな事は磯が始まって以来初めてのことだと嘆いているそうです。


長老もその話を聞いて 

これはこの浜辺だけでなく、あらゆるところで起きている事態だろう 

と言いました。


集まったカニ達は不安な気持ちを益々強め、震えたハサミをカチカチと鳴らしておりました。
カニ達の中には、この干潟を出て他所へ引っ越すことも検討していた連中もいたのです。
しかし、どの磯へ行ったところで変わらないのだと知ってしまったのですから、救いのない状況に震えるのも無理はありません。


すると、そこに遅れてやって来た若いカニが一匹入ってきました。


皆の暗い表情から

 はて何があったのか?

と、端っこにいる顔なじみのカニに話を聞き 

ははぁ、なるほど 

と一言漏らすと、この若いカニは雰囲気お構いなしに大きな声で 


ではこの中の誰でもいいですが、何故貝殻を被るのか知ってるカニはいますか? 


とみんなに尋ねました。



Part.9につづく

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