【2つめのPOV】シリーズ 第4回 「波」Part.7(No.0181)


パターンA〈ユスタシュの鏡〉


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 悲しいことに、人の世にはどんなときでも悪巧みをする輩は居るものであります。


自分の利益のために人を騙す詐欺師っていう奴は、途絶えたことがありません。


ちょっとおつむを冷やしてみれば、子供だって解るような幼稚な詐欺に、普段は肩肘張った大人でも簡単に騙される事があるものです。


いやあ何であんなものにコロッと騙されたものかなぁ、なんて他人事みたいに振りかえられるなら幸せなものですが、そんな呑気な気分にはとてもなれないほどに痛めつけられた人達だって沢山おります。


しかしそういう世知辛いことは、何も人間の世界だけでは無いようであります。


こないだも馴染みの海鮮居酒屋で飲んでいましたら、常連の漁師さんからそんな話を教わりました。




最近は環境破壊やら開発やらで減ってしまいましたが、昔は沢山の磯や干潟がありました。


干潟なんかは潮干狩りでアサリやらハマグリなんかがよく取れたものです。


干潟や磯には貝以外にも、ムツゴロウなんてどっかで聞いた名前の変な魚もいますし、カニやらウミウシやらヤドカリやらが賑やかに暮らしているのです。


ある時、季節外れの不自然な台風がこの海のあたりにやってきました。


それはそれは強い台風で、海も大荒れで漁師さん達は漁にはとても出れず、それどころか漁船がひっくり返らんばかりの勢いでした。


磯にいる彼らカニやヤドカリ達もこれほどの台風や波は初めてでした。
みんなして穴蔵にひっそりと隠れ、嵐が収まるのをジッと辛抱強く待ってました。


やがて嵐も止み晴れ間が海辺を照らすようになって、そろそろ表に出られるかなぁとタイミングを計っておりました。


そんなときに、表から まだだー まだ危ないぞー なんて、大きな声がしきりに聞こえてきました。


声の主は解りませんが、しかしそんなことを言われたら誰だって怖くなってしまいますから、もう少しだけ我慢しようかな、なんて思って巣穴から出る日取りをうしろに倒して様子を伺うことにしました。


そして何日か過ぎますと、もうそんな声も聞こえなくなっていましたから、カニ達も さぁやっとこさお日様の下でハサミが伸ばせるぞぉ と、気持ちを緩めて一斉にワラワラと磯に干潟にと姿を見せ出しました。


久しぶりの強い太陽に甲羅を干しながら、めいめい知り合いに顔を見せては、穴蔵での生活の不自由さなんかの愚痴話に花を咲かせておりますと、どうも何やら様子がおかしい。


何やら見慣れぬ連中が、干潟に磯に沢山いるのです。


ヤドカリみたいに貝を被っているのですが、どうにも大きさもシルエットも似ていない。


一体誰かなぁ、と気になった一匹のカニがそのヘンテコなヤドカリに声をかけますと、なんとそれは貝を被ったカニ達でした。



Part.8につづく

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