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赤い季節

それは、突然だった。

18年前、福岡で観送った、福岡のバンド、NUMBER GIRL。もう2度と観ることは叶わないのだろうと。

向井秀徳、田渕ひさ子、中尾憲太郎、アヒトイナザワはそれぞれ、ZAZEN BOYS、TODDLE、CRYPT CITY、VOLA AND THE ORIENTAL MACHINEとなって散って行った。もちろん、全て観た。

もう一度観たいと、再結成してくれと切望したことは無かった様に思う。最後を観届けられて、忘れられない思い出として残っていたので。

僕は福岡を離れ、年月も経った。福岡に住んだ記憶も、どんどん遠ざかっていった。

それなのに。

2019年、突然の再結成。まあ、俄かには信じられなかった。

そして、信じられないまま、約束の地、札幌へ。

そして、まさかのキャンセル。あんなに途方に暮れたことは無かった。

もう観られないのかもな。後にも先にも、あの1回きりだったんだ。そう思って、納得しようと思った矢先、NUMBER GIRLは2020年もツアーをすることを発表した。

僕は全公演、抽選を申し込んだ。するとどうだ、福岡公演だけ当選した。

やはり、NUMBER GIRLは福岡で観ろということだったのか。

そして、やはり、まだ信じられないまま迎えた、2020年1月5日。昔からの仲間、新しい仲間、NUMBER GIRLを観たことある人、NUMBER GIRLを初めて観る人、みんなでZepp Fukuokaに集まった。

これから、目の前に向井秀徳、田渕ひさ子、中尾憲太郎、アヒトイナザワが現れる。いやいや、信じられない。

暗転。

向井秀徳、田渕ひさ子、中尾憲太郎、アヒトイナザワ。それでも、まだ、信じられない。実に変な感覚。

あのベースイントロが始まった。いきなり、前が見えなくなった。どうした。涙だ。涙が止まらない。

NUMBER GIRLは確かにそこにいた。

それからだった。

女衒が暗躍したり、赤い季節が到来を告げたり、グラスの中の水色を飲み干したり、眠らずに朝が来たりするうちに、福岡に住んでいた記憶が今までに無い程、鮮明に蘇ってきた。

2002年、警固公園、解散前の地元福岡での最後のライブ。高校3年生だった僕はこの夜、何となく、このバンドもいなくなって、自分もこの街から離れることを予見していたんだと思う。そして、このサウンドトラックをこの街に住んだ記憶と共に封印したんだと思う。

何も変わっていない4人の姿を観て、僕も感覚がおかしくなったのだろう。

僕は確かにこの街に住んでいたのだった。

この夜、透明少女は2回も姿を現した様だった。或いは、そう、そうだね。僕は、無意識のうちに18年間、透明少女を捜していたのだった。

NUMBER GIRLは確かにそこにいた。

ポケットに手を突っ込んでセンチメンタル通を練り歩く17歳の僕もまた、確かにそこにいた。

ライブの帰り、みんなで西新で飲んだ。随分変わったけれども、朝美食堂はまだあった。

みんなを見送ってもまだ、余韻が。しばらく止みそうにない。

珍しく、夢と現実の区別が付かない。

まだ、NUMBER GIRLが再結成したことを信じられないと言ったら、どうする。

僕は薄く目を開けて、閉じて、また開く。

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