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【UXデザインの成果物つき】 オンラインのコーチング・カウンセリングのサービスを使うユーザー心理マップ

オンラインのコーチング・カウンセリングのサービスを使うユーザー心理を調査する必要があり、ラピッドなUXリサーチをしました。せっかくなので調査結果を公開したら誰かの役に立つかな、と思いました。

オンラインのコーチング・カウンセリングのサービスとは?

cotreemento が有名です。

ラピッドなUXリサーチとは?

UXリサーチ(ユーザー調査)は、とても強力なプロセスです。しかし、すべてのプロジェクトで、つねに満足なUXリサーチができる環境にあるとは限りません。たとえば、時間的に、予算的に、あるいは社内の組織的な制約で、ユーザーに直接にインタビューできない、というケースも、しばしばあります。

そのようなとき、手元でかき集められる材料で、期限内に、なんとか確度が高いユーザー心理のモデルがつくれないか苦心することになります。このような荒く、早く、軽量な、ときにはゲリラ的な手法を「ラピッド(rapid: 迅速の意)」と呼びます。

今回の手法は、SNSや口コミへのユーザー投稿を、ユーザーインタビューの代わりに用いる方法(羽山, 2012)で、ラピッドにリサーチをしています。この手法は、羽山の研究によると、通常のインタビュー調査に比べ、工数は 30% まで抑える(70%削減)ことができます。ユーザーニーズの網羅性は 60% まで低下する(40%欠損)ことがわかっています。この荒さと軽量さのトレードオフをよしとするかは状況しだいですが、初期仮説を立てるときなど、よいのではないかと思っています。

ユーザー心理を集めたあとは、ふつうの親和図法や、KA法(本質的価値抽出法)を用いて、ユーザーの本質的なニーズへの掘り下げていきます。今回は KA法を用いています。

インターネットのSNSや口コミにあるユーザー投稿を、ユーザーインタビューの代わりに用いる

まず cotree や mento を体験したユーザーのSNS投稿から、「ユーザー心理が現れている」部分を引用します。すでに公開されている情報から集めていきます。

このラピッド手法では「インターネットのどこを見れば、ユーザー心理が多く見つかるのか?」がポイントになります。多くのものごとでは、「Yahoo! 知恵袋」や「OK Wave」のユーザー投稿、Amazonや楽天のレビュー、Google キーワードプランナーのサジェストから集めることができます。

cotree や mento においては、運営者が Twitter で、ユーザー投稿のリツイートをしているので、Twitter で集めるのが有用でした。

以下のファイルは、Twitterから集めたユーザー投稿です。このようなリストを「切片」リストと呼びます。

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まず「元URL」に、ユーザー心理が現れているSNS投稿のURLを記載します。そして「出来事」に、その要約を書き起こします。

そこからは、ふつうに KA法をしていきます。KA法の実施手順は、ここでは解説を省略します。「UXデザインの教科書(安藤昌也, 2016)」を参考にしてください。

僕は、抽象化の第1階層までは、Excel上でやってしまいます。グループごとに行の色分けをしてあります。

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また、ユーザー心理のモデル(KA法における価値マップ)をつくるために、僕自身で制作した Excel マクロで、Excel を KAカードに一括変換します。その KAカードを PowerPoint にコピペし、第2階層、第3階層の抽象化をします。

どのようなユーザー心理が見つかったか

仕上がったユーザー心理マップ(価値マップ)が以下のファイルです。

20200817-リモートコーチングのユーザー心理マップ

オンラインでのコーチング・カウンセリングのサービスにおけるユーザー体験には、大きく、7つの価値が見つかりました。

1. 手軽にコーチングが受けられる

手軽にコーチングやカウンセリングを受けられます。思い立ったらすぐセッションを受けることができます。移動時間が節約できるので、短い時間でも受けることができます。サービスのUIが使いやすいことも大切です。対面のカウンセリングの「代替品」というイメージがあります。

2. リモートコーチングは初体験

ほとんどのユーザーにとって、オンラインのコーチング・カウンセリングは初体験です。どんなものかイメージができるとうれしいです。はじめての予約は緊張します。セッションのはじめに、セッションの流れや、守秘義務についての説明があると安心できます。オンラインのセッションならではの、通信環境が気にかかります。

3. コーチングで気持ちが整う

セッションを受けて、気持ちが整います。コーチングやカウンセリングの中核となる価値です。気持ちを吐き出して楽になります。辛いときに頼りたいです。誰にも話せないことを話せます。セッションでは、自分の闇と向き合うことになるので、苦しみをともないます。セッションを通じて、たくさんの気づきを得ます。自分の思考の癖を客観的に眺める方法を知ったり、漠然とした悩みが明瞭に整理されます。セッションを受けることで、人生に息切れしないようになったり、自己肯定感を高めたいです。親身になってもらえることに感激します。
自分のためにセッションを受けたり、他人にセッションを勧めたりします。

4. 書くことでコーチングが深まる

会話によるコーチングやカウンセリングだけでなく、文字にすることで、冷静に自分の気持ちを眺めることができたり、本当の気持ちがわかったりします。「書く」タイプのコーチングやカウンセリングは、対面で人と話すことが苦手でも受けられます。
また、会話によるセッションも、事前に、話したいことをコーチやカウンセラーにメモとして送ることができ、セッションをスムーズにすることができます。

5. いいコーチに出会える

サービスをつうじて、いいコーチやカウンセラーに出会うことを望んでいます。臨床心理士や、プロのコーチといった専門家を期待しています。オンラインのサービスでは、たくさんのコーチやカウンセラーのプロフィールを見比べて、自分に合いそうな、自分の境遇をわかってくれそうな人を選びます。また、もしそのコーチやカウンセラーが合わなくても、ほかの人に変更しやすいです。

6. くりかえしコーチングを受ける

定期的に、くりかえしコーチングやカウンセリングを受けることで、自分が成長できるのではないか、という感触を得ます。すぐに効果が出ることを期待していますが、必ずしも短期で効果が出るとはかぎりません。
コーチングやカウンセリングを継続している人を周囲に見ることで、その効果を知ることがあります。
継続的にサービスを使うことで、サービスに対して思い入れを持ちます。また、サービスの運営者がSNSで積極的に発信していることに親しみを持ちます。

7. 受けられる価格である

対面のコーチング・カウンセリングや、他社サービスに比べて、安価に受けられるとうれしいです。内容とコストのバランスは気になります。相応の金額を支払うのに、定型的な対応をされるとがっかりします。

ラピッドなUXリサーチでわかるユーザーニーズの網羅性はどれくらいか

冒頭に述べたとおり、この調査はラピッドなUXリサーチ手法を用いており、通常のインタビュー調査に比べ、工数を抑えるかわりにユーザーニーズの網羅性が 60% くらいになっているはずです。これは、まだ見ぬユーザーニーズが 40% くらいある、という意味です。

今回の調査範囲では出てこなかったニーズとして、たとえば、リモートカウンセリングでは、「家族にも話せないことを話す」ために「自宅や周囲に人がいる状況ではカウンセリングを受けづらい」というニーズを耳にしたことがあります。このようなニーズが、まだあるはずです。

より広いユーザー心理のモデルが必要なときは、デプスインタビューやエスノグラフィなど、より本格的な手法を用いるとよいでしょう。

おわりに

せっかくなので、調査結果を公開したら誰かの役に立つかな、と思いました。あなたのご参考になればさいわいです。

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