【特別公開】≪いよいよ旅立ちだ! 1≫ 『「私」物語化計画』
次代のプロ作家を育てるオンラインサロン"「私」物語化計画"の本編。2月頭のタイトルは『いよいよ旅立ちだ! 1』。夏目漱石「草枕」、太宰治「鉄面皮」などの具体例を挙げ、小説の冒頭についての話を展開している。
さて、今まで旅立ちの準備に時間を使ったが──つまり言語と物語の構造について学んできたわけだが――いよいよ本日、船を出す。大海原へ向かって、無限の可能性を秘めつつ!
(中略)
船を出す──すなわち1行目を書くということだ。
特別公開:いよいよ旅立ちだ! 1 山川健一 より
Webサイト上にテキストの冒頭部分が特別公開されている。以下、主催の山川健一さんによる講義の概要動画とWebサイトのリンクを貼った。まずは、この2つをチェックした上で、わたしの感想を読んでいただければと思う。
以下、この講義を読んでの、わたし個人の感想だ。
わたしの感想
『いよいよ旅立ちだ!』。
ここで語られている「旅立ち」とは小説の冒頭のこと。
小説の書き始めはとても重要だ。読み手をその世界に引きずり込むための仕掛けとも言える。素敵な冒頭に出会うと、それだけで心地よい気持ちになれるし、つまらない冒頭なら、その時点で次のページをめくろうとする気力さえなくなってしまう。
それは小説に限らないことだ。音楽だって、イントロに心がわくわくしなければ、それから先のメロディなんて右から左へ流れていく。映画だって、鳥肌が立つような映像があってこそ、自分にとって良き作品となりえる。
で、印象に残る小説、音楽、映画の冒頭をそれぞれ挙げてみた。今日、ぱっと思いついた作品なので、明日には別のものが好きと言ってるかもしれない。あくまでも、今日の時点で浮かんできた作品だ。
「スティル・ライフ」池澤夏樹
この世界がきみのために存在すると思ってはいけない。世界はきみを入れる容器ではない。
世界ときみは、二本の木が並んで立つように、どちらも寄りかかることなく、それぞれまっすぐに立っている。
きみは自分のそばに世界という立派な木があることを知っている。それを喜んでいる。世界の方はあまりきみのことを考えていないかもしれない。
「スティル・ライフ」池澤夏樹 より
「スティル・ライフ」は第98回の芥川賞を受賞した小説だ。透明度の高い文章で物語がつむがれている。単行本を初版で買って、しばらく手元に置いていたけれど断捨離で処分して、文庫本が出たときにまた買って、再び断捨離で手放したのに数年後にまたまた買った。
かといって、池澤夏樹の熱心な読者では決してない。「バビロンに行きて歌え」あたりで「なんか合わないな、この感覚」と、それ以降の作品はほとんど読まなかった。どちらというと、父(福永武彦)のほうが自分好みの作家だ。でも、「夏の朝の成層圏」「真昼のプリニウス」、そして「スティル・ライフ」は好きだな。印象派の静物画(still life)みたいな文体に憧れる。
STAR FRUITS SURF RIDER(Cornelius)
「STAR FRUITS SURF RIDER」は1997年にリリースされたアルバム『FANTASMA』に収録されている、としておく。シングルとしても発表されたが、その話をすると長くなるので。手持ちの『FANTASMA』はイヤホン付きの初回限定版。ただし、ケースは割れてるし、イヤホンもぼろぼろだけどね。
「STAR FRUITS SURF RIDER」のイントロは決して派手ではない。しかも、1分ちょっとの長さがある。退屈になりそうでならない緊張がたまらなく好き。もちろん、ドラムンベースをこんなふうに取り入れるんだ!と驚いたサビも最高。ちなみに、マイiPhoneに電話がかかってくると、この曲のイントロが流れる。
「Love Letter」
1995年に公開された岩井俊二監督の「Love Letter」。つい、このあいだ、BSで放送していたので観てしまった。何回目だろう? 中山美穂が「お元気ですか?」と叫ぶシーンや、豊川悦司(大阪・八尾出身)のナチュラルな関西弁とか、そういうところがクローズアップされるけれど、この映画でいちばん好きなのは最初の場面。
雪で真っ白なオープニングシーンは、ひかえめなBGMの隙間から雪の音が聞こえてきそうな映像だ。きれいだ。このきれいって感覚は映画館でしか味わえない。場内が真っ暗になって、ほら始まるよ……ドキドキ。映画館で観る映画っていいよね。そんなことを思い出した。あと、酒井美紀が天使。まじ、天使。
Text:Atsushi Yoshikawa
(注)感想はあくまでも、わたし個人の感想です。決して、"「私」物語化計画"の講義に対する正答や正解ではありません。
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