ウィーンへ行きました。⑨最終回

君は誰?

 いよいよ明日帰国だ。最終日は少しだけ買い物をして、夕方にはそれぞれ部屋に入った。

 時計を見ると、十一時を指している。
 ベッドに入り、目を瞑るが眠気は訪れない。
 代わりにこの四日間のことが次々と思い起こされた。綾乃の涙声、美樹のガハハ笑い、インペリアル・ホテルのピアノの音色、サウンド・オブ・ザ・ミュージック・ツアー、そして鐘の音。

 だが振り返るはこのくらいにして、もう寝よう、寝ないと明日きついぞ、と自分に命じる。それなのにーー。

 Oh darlin’ 君は誰?

 寝ようとしているのに、何故か頭の中をミスチルが流れる。
「まったくもう」と、苦笑いを浮かべながら、身体を起こし、枕元のランプを点けた。

 君は誰?

 わたしはわたしよ。心の中で答える。借金魔の父に悩まされ、孤独に苛まされ、ちょっとしたことに動揺する弱い人間。これがわたし。こうやって悩みながら、もがきながら生きてきた、それがわたしなの。

 帰着したら、市川にいる母に電話しよう。久しぶりに食事に連れ出すとするか。原田のことを相談してもいいかもしれない。
 だが、まずは休もう。今夜はきっと眠れる。
 もう一度ランプのスイッチを消した。
 

終わり (最後までお読み頂き、ありがとうございます!)

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