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毛虫

彩度を下げて生きている。
けれども、春の交差点、駅のホーム、飛行機の窓の外、ビビットな色彩が目に飛び込んでくる。
それは、君が嫌いだよという告解のようで、
私はきつく目を瞑る。
モノクロ映画の世界が羨ましい。
全ての色が奪われてなお、命には色があるのが、
世界からは色が匂い立つのが、気持ち悪くて、美しくて、私は赤信号で足踏みをした。

世界がビビットになるのと反比例するように、
私の命は色褪せて行く。
褪色した心臓を石鹸で洗いながら、
心臓が白くなるのを願って眠る。
泡が頬についたままなのを拭ってくれる人は、
とっくの昔に私のことを嫌いになってしまった。
だから、泡だらけなのに汚れたまま生きている。

夜が怖いと誰かが鳴いた。
色が黒く塗りつぶされてくからだと言った。
私は夜が濃くなるのを祈った。
黒く塗り潰された世界でなら、自分の孤独も擬態できるのではないかと期待した。

陽が傾いていく。
夜が迫ってくる。
怖いくらいの夕陽から、血の匂いがする。
怖いと叫び出しそうな声は、三日月の先端になり、私の心臓を刺した。
夜に擬態できずにどす黒い色で蠢く私の孤独を、誰も理解しないで、触らないで、撫でないで。

子猫の尻尾を掴めない夜。

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