夏の孤独

真夏なのにマフラーを編んでいる君の横顔からは、暖炉がパチパチと燃える音とホットミルクの匂いがした。
これが初恋だと思って、カルピスを沢山飲んだ夏だった。君が消えた夏だった。

蝉が鳴いているのは、本当は泣いているのかもしれない。生きることにゆるやかに絶望するのに、人間も蝉も関係はない。暑さで少しずつ君との思い出が溶けてゆくのを感じる。あったはずの記憶と、あるはずだったら記憶が溶け合って、手がベタベタになってしまった。アイスクリームが溶ける早さを追い越すように君の声が消えてゆく。

夢の中で、君は「好きだよを真っ直ぐに伝えられなくなって、婉曲表現をどんなに使おうとも、結局人は愛されてしまうから、思う存分絶望していいよ」と言ってくれた。それに縋って目覚めた世界に、君はいなくて、氷のような冷たさだけが冷房の効いた部屋に転がっている。君は結局、愛されてしまったのだろうか、私の愛では君を絶望させられなかったことだけが寂しい。ただ、私が君を絶望させられるくらい、君の孤独に触れられなかったことが悔しい。

孤独を美しいと簡単に言ってしまうような大人にだけはならないように生きてきたのに、孤独を美しいと歌う人たちが余りに多くて、雑踏の中で消費される孤独に抗う気力がなくなってしまった。君がいなくなってしまったから、孤独でも孤独じゃなくてもいいんだよ。これは途方もない愛だと思っています。

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