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クリエイターに依頼する前に知るべき「法律」と「契約」の3つの視点

「AIが生成したイラストの著作権は誰に帰属する?」、「機械学習に使われたイラストの権利はどうなるの?」……PR担当者の皆さん、こうした質問に対する答えをご存知でしょうか。

AI開発のための学習データとして著作物を利用する場合には、原則として著作権者の許諾が不要だとされています。しかし、たとえAIが生成した画像や文章でも、既存作品との類似性や依拠性が認められる場合、著作権を侵害していると判断される場合があります。

このように、AI技術の進化にともなって著作権の問題はますます複雑化しています。広報・PR領域ではクリエイティブを外部パートナーに発注することも多く、著作権をはじめとする法的知識が不可欠です。情報発信やコミュニケーションのなかで、知らず知らずのうちに権利を侵害し、思わぬトラブルを招いてしまう事態は避けたいもの。

この記事では、そうした落とし穴を避けるために、クリエイティブに関連する法律と、その考え方をわかりやすくご紹介します。(監修:潮見坂綜合法律事務所、有富丈之 弁護士)


① 社外に発注したクリエイティブ作品の扱い方

「プレスリリース用に制作してもらったこのイラスト、色味を変えて別のLPにも使っちゃおうかな」「書いてもらったキャッチコピー、ちょっとアレンジして使いまわしちゃおうかな」……こういった行為は、クリエイターの権利を侵害してしまうおそれがあります。

外注したデザインやWebサイトの著作権は、原則としてこれらを制作したクリエイターに帰属します。また、著作権者であるクリエイターは、著作物を意に反して改変されない権利などを含む著作者人格権を有しています。したがって、依頼時の約束と違う目的での利用、加工・改変を無断で行うことは原則的にできません。ただ、もちろん事前に作品の使用目的や改変等について契約でしっかり定めていれば、その範囲内で利用することが可能になります。

一般的にクリエイティブに関する契約では、「作品の使用目的・範囲・期間」を明確に規定しておくことが重要です。たとえば、あるデザインをウェブサイトでのみ使用するのか、それとも印刷物にも使用するのか、国内限定か国際的に使用するのか、といった具体的な使用条件を詳細に決めましょう。

また、将来的な二次利用や改変についても事前に合意しておくことがポイントです。あるキャンペーンが成功して、そのデザインを別のプロジェクトや異なるメディアで再利用したい場合、元の契約にそのような利用が含まれていなければ、追加の契約交渉が必要になります。デザインの一部を切り取る、色味を変えるといった改変をする場合には、著作者人格権の侵害となりうるため、この点に対する手当ても必要です。

自社の商用目的で柔軟に作品を利用したい場合、著作権の移転に関する交渉をする場合もあるかと思いますが、基本的には著作権はお金を出した側ではなく、その作品をつくった著作者に帰属します。

大前提として、クリエイターやその著作物、技術に対してリスペクトを持ちつつ、著作者が譲れない範囲を考慮しながら進めることが、ひいては良いクリエイティブを作ることにつながるはずです。

② クリエイティブ作品に使われる「素材」の権利

(1)著作権と「フリー素材」のこと

クリエイティブ作品そのものだけでなく、そこで使われている「素材」にも権利が発生します。わかりやすいのは写真やイラストです。

とりわけ誤解が多いのは、いわゆる「フリー素材」の扱い方。「無料だから自由に使えると思ったら、商用利用不可だった」なんてトラブルもありえます。たとえ無料の素材でも、その使用には制限が伴うことがあるのです。

素材を利用する前に、提供者が設定しているルールを必ず確認してください。特にチェックしたいのは「商用利用の可否」「加工・再配布の可否」です。「素材のクレジット表記」が必要な場合もあります。利用媒体や視聴数、印刷数によって金額が変わる場合も多いので、利用規約をしっかりと読み、適切に対応することが重要です。

また、「外注したデザインに含まれるイラストが、実は他人の著作物だった……」という可能性もゼロではありませんし、「写真の著作権はOKだけど、写っている人物の肖像権はクリアしていない」という場合もあります(肖像権については次の見出しで解説します)。このような場合、発注者側にも責任が及ぶ可能性がありますので、素材の出典やクレジット表記の必要性も忘れずにチェックしましょう。

(2)肖像権、パブリシティ権

PRのために、タレントさんの写真を取り扱うとしましょう。その写真の「著作権」はフォトグラファーさんのもの。では、被写体となったタレントさん本人についてはどんな権利が問題になるでしょうか?

答えは、「肖像権」と「パブリシティ権」です。肖像権は、自分の容貌等をみだりに他人に撮影・スケッチ等されたり、公開されたりしない権利のこと。いっぽうパブリシティ権は、著名人の肖像や名前の商用利用に関する権利です。

プライバシー権の一種とも解される肖像権が「人格的利益」を守る権利である一方、パブリシティ権は「財産的利益」を保護するという性質があると一般的に解釈されています。これらの権利は、日本では法律で規定されておらず、判例によって確立されてきました。

肖像権やパブリシティ権を侵害しないためには、事前に本人やその代理人から肖像や名前の使用許可を得ることが必要です。特に商用目的で使用する場合は、契約書によって明確に合意をしておくべきです。タレントやモデルについては、多くの場合、芸能プロダクションやエージェンシーが「パブリシティ権」を管理していますので、これらの事務所に許可を求めることになるでしょう。

もちろんいわゆる「一般人」にも肖像権はあります。たとえば「インターネットで見つけた家族写真が自社サービスにぴったりだったので、無断でプレスリリースに使う」なんてことはNG。また「会社を辞めた社員の写真を、無断で求人広告に使い続ける」のもトラブルを招くケースです。人の肖像については、許可が得られたもののみを使うようにしてください。

なお最近では、生成AIの台頭で「声の肖像権」を求める動きもあります。今後に注目ですね。

③ 映像・動画作品では利用期間にも注意

「TVCM用に作ってもらった動画、好評だったからYouTubeにも載せちゃおう」……この行為、契約内容によっては完全にアウトです。

動画そのものはもちろん、その出演者やナレーターの実演(演技、演奏、朗読など)、BGMにも「利用期間」と「利用ルール」があります。無断で契約外の長期利用や二次利用をすると、最悪の場合、訴訟問題に発展する可能性も。契約内容をしっかりチェックしてください。

映像や動画の制作依頼にあたっては、契約段階で「使用する媒体・地域・期間」を明確に定めることが重要です。また、「将来的な二次利用の可能性」についても、契約時に合意しておくことがトラブルを避ける鍵となります。

まとめ:クリエイティブ制作依頼時に押さえたい3つのポイント

クリエイティブ作品の制作を依頼する際には、以下のポイントをしっかり押さえておくことが大切です。

(1)最初に利用規約や契約内容をしっかり確認

利用規約・契約内容の確認は、基本中の基本です。無用なトラブルを防ぎ、クリエイターとの良好なパートナー関係のもとで発信を続けるために必須のプロセスだと心得ましょう。

クリエイターとは、それぞれの分野の技術をひたすら磨き続ける、まさにクリエイティブの専門家です。そんなクリエイターの作品をリスペクトするのはもちろん、契約内容を含む「仕事のしかた」にも敬意を払いたいものです。クリエイターの「譲れないもの」を理解しておくことは、発注にあたってとても重要なポイントです。その信頼関係があるからこそ、クリエイターのポテンシャルが最大限に引き出され、質の良いアウトプットが実現するのです。

発注側のリスクも、契約内容をきちんと整えることでカバーできることが多いです。もし一般的な「契約書テンプレート」のようなものをアレンジせず運用し続けている場合は、一度法律の専門家のアドバイスをもらうなど、見直してみてもよいかもしれません。

最初の一歩として、まずは次のような項目から見直してみてはいかがでしょうか。

<クリエイティブ発注のチェック項目(一例)>

✔ 制作の目的・目標
採用動画が古くなったなどの課題感や、認知拡大などの目的はどのようなものか。また、再生数やHPランディング数などの目標はどのようなものか。

✔ 想定媒体・利用範囲・利用期間
自社HP、SNS、サイネージ、交通広告、OOH、テレビなど想定しているチャネルはどのようなものか。尺やクリエイティブの制作種類、利用期間、利用範囲(国内か全世界か)、タレント・音楽の金額にもかかわります。

✔ 出演者・タレントなど
映像に登場する人物はいるか。名のあるタレントやモデルでなくても出演者が必要な場合は外部手配をするか、内部手配をするかを決め、いずれの場合も出演者の権利関係に関して合意する必要があります。

✔ 活用できる素材
これまで自社で撮影・制作した動画やスチール、グラフィックなどの素材で活用できるものがあるか。制作に入る前に整理しておくとスムーズです。

(2)納品時には改めて権利確認と検証を。ファクトチェックも兼ねると◎

納品時には、納品物の権利を改めてチェックする習慣を付けましょう。「プロのクリエイターに外注したから大丈夫」という考えは危険です。

過去には、外注したデザインが他者の著作物と類似しており、そのデザインをパッケージに使用することが他者の著作権を侵害するとされたケースについて、発注側がその制作過程などを確認しなかったとして「注意義務違反」とされてしまった裁判例もあります。社外に制作を依頼する場合でも、発注した側が発信者としての責任を持ち、しっかり確認することが大切です。

テキストやグラフなどを伴う制作物の場合、同時にファクトチェックも実施すると効率が良いでしょう。引用・出典も含めて、内容の誤りや誇張表現、出典表記漏れがないかを確かめましょう。これについては以下の記事で詳しく説明しています。

(3)社内での知識浸透も重要

最後に、この記事で紹介したような情報を、社内で共有することも重要です。社員それぞれがこのような基礎知識を理解することで、特にありがちなトラブルである「納品物の不適切な使い回し」も避けられます。

広報・PRに直接関わるチームはもちろん、関連部署も含めて全社に知識を浸透させることで、クリエイターと理想的なかたちで共創できる組織を目指したいですね。