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ゼロから始める広報PR、最初に必要な2つの「理解」とは?

連載「広報の現場から」
PR会社にいると「広報部を立ち上げたい」「広報人材を育ててほしい」という相談をいただくことがあります。外部のPR企業と契約するまでではないものの、広報部門の必要性を感じて社内で人材を育てたいと考える企業も少なくありません。それでは、どういう人が広報に向いているのでしょうか。本連載では、広報を必要とする企業や、これから広報の仕事をしてみたい人に向けて、広報現場で求められるスキルをStory Design houseの森が探っていきます。これまでの連載記事はこちらからお読みいただけます。

森 祥子(もり・さちこ)
Story Design house株式会社 Senior PR Consultant。ベンチャー企業から大企業まで、新たな事業開発に取り組む会社の成長戦略をコミュニケーションから描く。1000人クラスの大規模イベントや、演出にこだわったプレスイベントも得意。

新井 達斗志(あらい・たつとし)
Story Design house株式会社 Senior PR Planner。早稲田大学商学部卒業後、大手人材サービス会社へ入社。営業、営業企画を経験。Story Design house へ転職後は、事業会社での経験を生かして、スタートアップや、大企業の新規事業を中心に、PRを核としたコミュニケーション戦略の策定〜実行およびメディアコミュニケーションを数多く担当。テレビやビジネス誌、その他有力メディアとのリレーション多数。またスタートアップ、新規事業におけるPRについてのイベントや勉強会などの企画も行う。

Webや書店を探すと、広報の成功事例はいくつも見つかります。しかし、「いつ、何をすれば取材・掲載につながるのか」という基本かつ本質的なポイントを指南してくれる記事や書籍は意外と少ないものです。そのため、広報の取り組みを始めたいとは思うものの、いったい何から手をつければよいのか、考えあぐねてしまう。そんな方も多いのではないでしょうか。

そこで、PR会社である私たちSDhがクライアントとともに広報プロジェクトに取り組むとき、実際にやっていることをご紹介していきたいと思います。今回は私・森が聞き手に回り、PR戦略の策定から実行まで幅広い業務を担当する同僚の新井達斗志さんに、ゼロから広報を始めるステップを聞きました。

広報の仕事は多様:経営レベルから現場レベルまで

森:今回、ゼロから始める広報ということで話を聞きたいと思っています。そもそもですが、PRパーソンは日々どんな仕事をしているのでしょうか。

新井:さまざまな動き方がありますが、一言で言ってしまえば「さまざまな会社の情報をメディアに掲載していただくことを目指すPRパーソン」が多いと思います。メディア掲載を獲得するために、プレスリリースを書いたり、企画を立てたりといったイメージですね。

しかし、業務実態としては、非常に複雑です。たとえば、採用広報ひとつとっても、経営陣や人事とともに戦略の検討をおこなったり、イベントを取り仕切ったり、メディアからの取材対応をしたり、採用企画を立案したり、そのプレスリリースを執筆したり、宣材写真の撮影をディレクションしたり……。本当にさまざまな種類の仕事をしているところが広報の特徴です。

もし、初めて他部署から異動して広報担当者になったら、こうした業務を遂行していくために、まずひたすらミーティングに参加することになるはずです。広報担当者が参加する会議は、経営者や各部署のリーダーと話すものばかりなので、急に目線の高い話ばかりになって驚くかもしれません。

言ってみれば、広報担当者になるというのは、大きな仕事をする立場に置かれるということなのです。プレスリリースの執筆といった基本業務であっても、掲載事項の確認はもちろん、そこにどのような付加価値のある情報があるかを経営者と対等に話し合います。ときには反対意見を言うことだってあるかもしれません。まず、そうした立場・仕事であることを受け入れ、慣れていく必要があるでしょう。

自社の事業を見直す:事業理解

森:なるほど。では新井さんご自身が、クライアントからPRを頼まれたら、まずはどういう仕事から始めますか?

新井:まず必要になってくるのは、「事業理解」「メディア理解」です。

事業理解とは、わかりやすく言えば「自分たちは何をやっているのか」を把握することです。そこには「自分たちは何者か」も含まれると考えてください。事業理解をする上で大切なのは、「社外の視点」を持つことです。PR会社として外部から関わると自然に社外の視点から理解できるのですが、社内の方にとって、これは意外と難しいことかもしれません。

たとえば、社内にいると「自社で力を入れていること」を「自社の強み」だと思いがちです。両者はたしかに重なることが多いですが、完全にイコールにはなるとは限りません。個別の事業部で強みとされていたことであっても、客観的に他社と数字で比較すると、実は強みとは言えないことがわかった……そんなケースも少なくありません。

もちろん、その逆もあります。他社と比べながら自社を分析していくことで、これまで見えていなかった自分たちの強みや魅力に気づくわけです。

森:「自社で何をやっているのか」も同様に理解すればよいのでしょうか。

新井:事業や取り組みについても同じく「社外の視点」での分析が効果的ですが、それに加えて「全社的な視点」でのゴール設定を意識するとよいでしょう。「その事業・取り組みをPRすることで、会社全体にどういった効果があるか」を考えることが、効果的な広報につながるためです。

ゴールを設定するためには、まず、その事業や取り組みが会社全体にとってどのような意味を持っているか理解する必要があります。一見当たり前のことのようですが、じつは新規事業の意図が経営層以外に伝わっていないというケースはよくありますからね。

さて、事業・取り組みの全社的な意味がわかったら、次に、それをPRすることの意味を明らかにします。たとえば、DXへの取り組みとして、デジタル人材の育成をPRするとしましょう。そのPRの目的は何でしょうか? 投資家へのアピールなのか、株価を上げたいのか、採用を強化したいのか……ゴールをどこに設定するかによって、広報プロジェクトの向かうべき方向も変わってきます。

このように「全社的な視点」で広報プロジェクトのゴールを明らかにしたら、再び「社外の視点」で客観的に自社の活動をとらえてみます。すると、ゴールに向けてどのようなコミュニケーション戦略を取るべきか、選択肢がしぼられてくるはずです。

読者を知る:メディア理解

森:「メディア理解」についてはどうですか?

新井:「メディア理解」というと、全国紙なのか産業誌なのか、どういう企画が多いかなど、メディアそのものに目が行きがちです。それももちろん必要なのですが、もっと大切なのは、「メディアの読者を知ること」だと私は思っています。

基本的にメディアというものは、読者に読まれる記事の制作を望んでいます。読者に読まれる記事とは、読者にとってメリットのある記事です。記者や編集者は読者に役立つ情報を探し続けている、とも言えるでしょう。

そのため、「読者にとって役立つことは何か」「どんな情報なら読者にメリットを与えられるか」を徹底的に考えることが、メディア取材や掲載につながります。

たとえば、情報キュレーションアプリ「Gunosy」がテレビ局と連携してライブ動画配信をスタートしたとき、このような記事が出ました。

この記事では、読売テレビがGunosyに広告を出稿した際の効果が公開されています。「どのメディアに広告を出稿したら、どの層にどういった効果をもたらせるのか」という情報を探している企業は多いでしょう。

そこで当該記事は、「広告主である読売テレビが、効果的な出稿先メディアとしてGunosyを紹介する」という事例紹介のような形を取っています。他社=読者に役立つ内容を提供することで記事化が叶い、サービスの魅力が多くの人に伝わっていくわかりやすい例です。

森:読者を理解するための近道はありますか?

新井:各メディアのトンマナを自分なりに整理して理解するのがおすすめです。例を挙げるなら、「『ITmediaビジネスオンライン』には『SPA!』に似た雰囲気がある、やわらめの記事の引きが強い」といった整理のしかたです。

ほかに「読者はどんなことが好きなのか」という切り口で考えるのも有効です。少し視点をずらして、「記者や編集者は、どんな情報が足りなくて困っているのだろうか」と考えることもあります。

また、「全国紙系の媒体ではネームバリューを求められる」という原則も知っておくとよいでしょう。全国紙の読者のなかには、マイナーな企業を知っている人が多くないからです。ここで、自社のネームバリューがないからといって諦める必要はありません。取引先にネームバリューがあれば「こんな有名企業にも使われています」というかたちで記事化につながるかもしれません。

このように「事業理解」と「メディア理解」の両輪を理解し、点と点を線でつなぐことで、取材・掲載への道がひらけてきます。SDhが新しい広報プロジェクトに取り組むときも、最初の2〜3か月はこういったインプットにあてることが多いですね。

リサーチの落とし込みは年間カレンダーに

森:同僚として新井さんと仕事をしていて、そうしたリサーチに基づく理解を「年間のスケジュール」に落とし込んでいくところが上手だなと思っていました。

新井:ありがとうございます。たしかに、私はリサーチした情報のなかから重要なものをピックアップして、年間のカレンダーのなかにタスクとして落とし込むことがよくあります。これはインプットをアウトプットへとつなげるためですね。

たとえば、「社内で何月にはこういうイベントがあると知りました、そのイベントがおこなわれるタイミングで、以前リサーチしてフィットしていると感じたこのメディアにあたってみようと思います」といった具合です。その意味です。年間スケジュールと仕様書は同時に進められるといいかなと.

こうしたカレンダーがあると、社内で説明する際にも具体性があって、PRの仕事がわかりやすくなり、いつ、どのような業務をやっていくかも理解しやすくなります。広報は、社内に仲間を増やしていく仕事でもあります。情報発信を進めていくうえで、もっとも詳しいのは事業部だからです。カレンダーを見せることで、そこに書かれていない情報をもらったり、どのタイミングで協力してほしいか伝えられたりするメリットもありますね。

記者やライターの方々とお話するうえでも、カレンダーは有効です。たとえ今回は掲載が難しいとしても「来月にあるこのイベントには興味があります」といったように、次につながるコミュニケーションができるかもしれません。

広報の仕事は複雑で、わかりづらい。だからこそ、年間のスケジュールをつくってみると、だいぶイメージが湧くはずです。新しく広報の仕事をする人は、一度こうしたカレンダーをつくってみることをおすすめします。膨大な仕事のなかで頭が混乱してしまっても、きっと整理されるはずです。

外部の視点を武器に

森:最後に、初めて広報に取り組む人に向けて、メッセージをお願いします。

新井:広報には、実際に手を動かしてプロジェクトを進める中で、ようやく取り組み方の塩梅がわかってくるという側面があります。ひとつのプロジェクトをやり遂げたとき、やっと事業の核心が腑に落ちることもよくあります。あるいは、記者の方とお話するなかで気づかされる場合も数多くあります。

自社事業のことは、最初はよくわからないのが普通です。ゼロからのスタートなら、メディア人脈の開拓もこれからでしょう。だからこそ、初めて広報に取り組む場合には、今回お伝えしたプロセスにしっかり時間をかける必要があります。

しかしだからといって、経験の深い人だけにずっと任せていればよいというわけでもないのが、広報の面白いところです。「外から見ること」が広報の価値なのですから、広報をやってこなかった人が新しい視点を持ち込むこと自体に意義があるのです

ゼロから広報に取り組む今だからこそ持てる視点があるかもしれません。フレッシュな感覚を大切にしながら、地道なリサーチを続けてみてください。そうやって経験を積む中で、広報PRの嗅覚が研ぎ澄まされていくでしょう。