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街と映画と映画祭。

大手町・丸の内・有楽町エリアの街づくりを担う三菱地所と、有楽町エリアに仕事場を構える映画・映像企画会社のSTORY inc.が、2022年夏にスタートさせた共同プロジェクト「STORY STUDY」。
有楽町──映画館、演劇の劇場、コンサートホールやギャラリーをはじめ無数の娯“楽”が“有”る“町”──の魅力を再認識する、クリエイター発信型のイベントを定期的に実施し、「物語のある街」「街に集う歓び」を提案していくという。

2023年10月25日(水)に開かれた第5回STORY STUDYは、東京国際映画祭との共催によるスペシャル・プログラム。
ヴィム・ヴェンダース監督作『PERFECT DAYS』の共同脚本を手がけた高崎卓馬とSTORY inc.の川村元気が、有楽町 micro FOOD & IDEA MARKETでトークセッションをおこなった。

Intro

トークセッションのテーマは、「街と映画と映画祭 『PERFECT DAYS』と『怪物』ができるまで」。二人は今年、映画界で最も話題となった作品に関わったクリエイターだ。

高崎卓馬は、ヴィム・ヴェンダース監督の映画『PERFECT DAYS』(12月22日より全国公開)で共同脚本とプロデュースを務めた。川村元気は、坂元裕二脚本、是枝裕和監督の『怪物』で企画・プロデュースを手掛けた。

2作はともに、今年5月に開催されたカンヌ国際映画祭に出品。『PERFECT DAYS』は男優賞を、『怪物』は脚本賞とクィア・パルム賞を受賞するなど、世界的な評価を得ている。

会場は、高倍率のチケットを手に入れた観客の熱気がムンムンと漂っていた。万雷の拍手によって迎えられた二人のトークは、カンヌ映画祭での「再会」のエピソードから幕を開けた。

1.

川村 高崎さんと僕は、カンヌで泊まっていたホテルが一緒だったんです。ホテルのカフェで「どうやってヴィム・ヴェンダースと映画を作ることになったんですか?」と聞いたら、その話があまりにも面白かった。ただ、この話はメインディッシュなんで、後半にしましょうか。公の場で二人きりで話すのは今日が初めてですし、せっかくなら僕と高崎さんの出会いの話から始めたいなと思うんですが……。
 
高崎 二人とも、覚えてないっていう(笑)。
 
川村 裏でお互いの記憶を突き合わせていたんですが、正解は出なかった(笑)。高崎作品との出会いははっきりしているんですよ。僕が21歳の時です。その頃に、AC ジャパンの「IMAGINATION/クジラ」(ADFESTグランプリ、カンヌ国際広告賞銀賞)という90秒のCMを観てこれすげえなと思い、作り手の名前を調べたら「高崎卓馬」という人だった。他にも自分がグッとくるCMを調べてみると、ことごとく「高崎卓馬」が作っていたんです。
 
高崎 「クジラ」を作ったのは、30歳の時ですね。もう23年前です。日本のコマーシャルって15秒という短尺の制限があるせいで、有名なタレントが出てきて商品名を“わー”っと言って認知を獲得する、という文化が強いんです。自分もコマーシャルを作っているからあんまり悪く言えないんだけど、そういうものを作りたいわけじゃないなって鬱屈とした気持ちが溜まっていた。そんな時に日本のコマーシャル文化とは全く異なる、海外のコマーシャルと出会ってめちゃくちゃ影響を受けたんですよね。海外のコマーシャルは、全部ロジックでできているんですよ。観終えた時に相手の気持ちをどう動かすか、というロジックを徹底的に組み立てて作っていったコマーシャルが「クジラ」だったんです。

川村 タレントが商品名を連呼、というやり方ではなく、ですね。 

高崎 時間軸をイジる、というのが映像表現の最も面白い部分ですよね。そこは「クジラ」でこだわったところなんですが、『怪物』を観ていて時間軸の表現に驚かされました。時間軸であんなにも観客の心を好き放題に動かしてしまえるものなのか、と。 

川村 映画のストーリーテリングのいいところって、映画館に入れば基本的にみんなスマホの電源を切るじゃないですか。まあ、たまに切らないヤバい人もいますけど(苦笑)。そこからの2時間、お客さんはスマホなしで作品と向き合ってくれるってことを前提にしたものが作れるんです。『怪物』のような複雑というか受け手の集中力を必要とするストーリーテリングに、映画は向いているメディアなんですよね。

2.


川村 高崎さんは個性的なコマーシャルを作りながら、コマーシャルの枠を超えた新しいチャレンジも続けてきました。ヴィム・ヴェンダース監督、役所広司主演の映画『PERFECT DAYS』では共同脚本とプロデュースを務めています。きっかけは、ユニクロの柳井康治さんだったそうですね。


高崎 柳井さんが急にうちのオフィスへやって来て、最初はユニクロの仕事を頼まれるのかなと思って、ちょっとウキウキしていたんですよ。今の自分にそこまでがっつり割ける時間があるかなぁみたいに妄想を膨らませていたら、全くそういう話ではなくて。柳井さんが個人的に出資して、世界的な建築家、安藤忠雄さんとか、坂茂さんとか、隈研吾さんとかに設計依頼をして渋谷に公共トイレをたくさん作る、「THE TOKYO TOILET」というプロジェクトの説明をブワーッとされたんです。自分に何を頼みにきているのか、最初は全くわからなかったんですよね。CMなのか、もしかして、新しいトイレを作れってことなのか。ただ、話してるうちに清掃の話になって、「建てて終わりじゃなくて、いかにトイレを美しく保つかが重要で、専属の清掃スタッフをつけているんです」と。「維持管理する人々の価値をどうやって上げていくかを考えたいんだけど……」というところから、何らかのPR方法を考えて、みんなの意識を変えていきたいですねとようやく一歩前進したんです。
 
川村 普通に考えると、じゃあPRのCMを作りましょうか、という発想に進みますよね。でも、映画を作ることになった。
 
高崎 広告の限界について考えたんです。PRCMを打ったとしても、CMを観てしばらくは「トイレを綺麗に使おう」と思うけれども、すぐ忘れて元に戻ってしまう。人の態度変容ってどうやったらできるんだろう、みたいな話を柳井さんと一緒に掘り下げていったんです。そうするうちに、アートからのアプローチが重要なんじゃないか、と。最初は、音楽だったんです。17人のアーティストに、17個のトイレそれぞれについて曲を作ってもらおうと思ったんですね。そこから「架空の映画のサントラを作る」という形まで企画を発展させたところで、柳井さんにプレゼンしました。そうしたら柳井さんが、「君は映像の人じゃないか。架空の映画ではなく、本物の映画を作ろうよ」と言い出したんです。映画って、作るのに何年もかかるじゃないですか。作ったはいいけれども届かない、観てもらえない、何にも手に入らないことがあるからリスクが高すぎるっていう話をしたんですが、「いや、作ろうよ」と。


川村 柳井さんのハートの強さ、すごいですね。
 
高崎 なおかつ、「グローバルにやろうよ!」みたいなことを言うんです。海外の有名監督に撮ってもらおうよ、と。
 
川村 いいですねぇ。映画業界のことを知らないからこその、大胆な発想。
 
高崎 それで、ヴェンダースだったんですよ。たまたまヴェンダースのポラロイド写真の企画展について、エージェントから相談を受けたことがあって、どこでどういうふうに頼めば本人から返事がくるかというルートがわかっていたんです。最初は長編ではなく、短編を作りませんかというお伺いの手紙だったんですが、「11年ぶりに東京へ行けるなんて、こんな最高なクリスマスプレゼントはない」って素敵なお返事をくださった。でも、本音を言えば、僕はヴェンダースに長編を撮ってもらいたかったんです。そこでどんな作戦を取ったかというと、シナリオの打ち合わせの時にこちらからアイデアをとにかくたくさん出したんです。「今の60個あるアイデアのうち、20個ぐらいは実現したいんです」と押し出した。そうしたらヴェンダースさんが「長編映画にしようよ」と言い出して、「やった!」と。
 
川村 わらしべ長者感がすごい!(笑)
 

3.

高崎 映画であれば劇場公開がひとつのゴールだと思うんですが、先のことは何も考えず、とにかく走りながら作っていった感じです。チームにもよく言っていたのは、「僕らは雪だるまを作っているようなものだよね」と。雪がきれいな場所を見つけたら、そっちに『PERFECT DAYS』という雪だるまをみんなで押していく。ゴールを決めないで走らせてくれたのは、柳井康治っていう人のすごさですね。何かを約束しろとは一切言わないし、「いけるとこまでいけ」って言えるハートと勇気がある。そこが一番大きいかな。
 
川村 映画の成り立ちとしてはとても不思議ですよね。でも、よく考えたらヴェンダースって、『東京画』という東京をひたすら撮り続けるドキュメンタリーを40年前に撮っている。『ベルリン・天使の詩』も街の映画だった。現代の東京を舞台にした『PERFECT DAYS』をヴェンダースが撮ることに、必然性があるんです。最初の雪玉を転がす場所がうまくなければ、雪だるまを作ろうにも作れないわけじゃないですか。やっぱりいいとこにちゃんと投げてるなって思うんですよね。



 
高崎 「あなたにしかできないものは、私はこれだと思う」というオファーが、正しいオファーだと思うんです。有名な外国の監督だったら誰でもいいわけじゃなくて、僕はヴェンダースにこの映画を撮ってもらいたかったんです。
 
川村 とても正しいです。
 
高崎 川村くんたちが作った『怪物』は、僕らの映画とは全く違う作り方ですよね。脚本が坂元裕二さん、監督が是枝裕和さん、音楽が坂本龍一さん……って、予約が取れない三つ星レストランって感じがする(笑)。
 
川村 最終的にはそうなりましたけど、最初は衝動で始まっているんですよ。



高崎 坂元裕二さんのオリジナル脚本で映画を撮る、というところから始まったんですよね。
 
川村 企画が何にも決まってない状態で、汗だくになりながら中目黒にある坂元さんの仕事場へ初めてお邪魔する、というのがスタートでした。『怪物』を一緒に作った山田兼司プロデューサーが、坂元さんのところに10年ぐらいずっと通っていて、「川村くん、ちょっと遊びに来る?」と言われたんですよね。そういう時、普通は企画を持っていくんですけど、坂元さん相手に中途半端な刀を持っていっても太刀打ちできないなと思ったんで、あえて丸腰で行こうと思って。中目黒の駅にシティベーカリーってパン屋があるんですよ。そこで血糖値を上げようと珍しくメロンパンを食べまして、「よっしゃ、ここから考えよう!」と。仕事場へ向かうまでの10分で、坂元さんに何を提案しようか決めました。
 
高崎 すごいな。
 
川村 夏でセミがミンミン鳴いていて、森の中みたいな道を通った時に、ふと『となりのトトロ』だなと思ったんです。以前、とある映画監督と話したときに「『となりのトトロ』はファミリー劇場30分の3本立てで出来ている」という話を聞いたんです。もともと宮崎さんは高畑勲さんと一緒に、『アルプスの少女ハイジ』や『赤毛のアン』といったテレビの30分アニメをずっと作ってきた方なんですよ。30分という尺が自分にとって一番慣れ親しんでいるし、得意だという自覚がある。だから『トトロ』は、最初に引っ越してきてトトロに会うまでの30分と、トトロと一緒に空を飛ぶまでの30分と、最後にメイちゃんがいなくなってサツキが見つけるまでの三つの短編の連続でできていて、1本の大きい話を作ろうとしてないんだみたいな話を聞いたんです。坂元さんにも、その方向で提案をしてみようと思ったんですよね。坂元さんが一番得意な尺は連ドラの尺だろうと。CMを抜くと1本40分くらい、それの3本立ての120分で映画を作ってください、と。そうしたら、次お会いしたときに『怪物』のプロットが上がってきたんです。
 
高崎 どれぐらいの期間で?
 
川村 それがすごくて。何かスイッチが入ったのか、2カ月後ぐらいには上がってました。その段階で、物語としてはほぼ完成形でしたね。
 
高崎 まさに、最初の雪玉を投げた位置が良かったんですね。

4.


川村 『PERFECT DAYS』を観ていて面白かったのは、ロケーションの選定の仕方です。東京のここを撮るんだ、と興味深かったんですよね。高崎さんはロケハンにも同行したそうですが、ヴェンダースは東京の街をどう観ていると感じましたか。
 
高崎 シナリオ打ち合わせで11年ぶりに東京に来てもらった時、最初は会議室でずっと話していたんです。渋谷のトイレの清掃員として働く、役所広司さん演じる「平山」という男の年収はいくらか、家はどういうところか、何時に起きるのか、目覚ましなのかどうなのか、テレビはあるのか、ケータイは持っているのか、家族はいるのか……。ヴェンダースからの質問を、僕がどんどん答えていったんです。それを2、3日かけてやって、ある程度彼の中でストックされたら、「よし、じゃあ、そいつの家を探そう」と。「歩いて探す」と言うんです。
 
川村 いいですねぇ。
 
高崎 僕はその時なんとなくの裏テーマで、二律背反について考えていました。例えば、青山墓地から見えるビル群って、対比の構造として面白いじゃないですか。絵って対比がないと面白くないなと思っていたので、そういう対比がある東京の風景について資料を作っていたんです。その中に、スカイツリーと、その足元の下町という強烈な対比のある風景がありました。それを観たヴェンダースが、「このエリアは彼の住んでる家としておかしいのか?」と言うので、「いえ、全然おかしくないです」と。そこからスカイツリーがある押上近辺を、ヴェンダースと一緒に歩き回りました。ただ、僕からの「この家はどうですか?」という提案はフルシカトされ(笑)、ずっと歩いていて急に「この家がいい」と言い出したんです。その家、借りれなかったらどうしよう……と思ったら実際、借りれなかったんですよ。ヴェンダースが帰国した後で、ヴェンダースが見つけた家よりもいい場所を探すというタスクが本当に大変でした。
 
川村 すごく趣がある、木造アパートでした。
 
高崎 そのアパートの生活圏内で、彼が使う銭湯とかコインランドリーとか居酒屋といった場所も決めていったんです。ここだけこの街で撮って、別の場所は別の街で撮って……という継ぎはぎを、ヴェンダースが許してくれなかったんです。
 
川村 街と生活の一体感を求めているんですね。
 
高崎 ええ。あとはプロデューサー的な視点もあって、ヴェンダースいわく、17日間で全部撮りきるっていうことを考えると、カメラの撮影隊が移動するロスが俺はとにかく嫌いなんだ、と。撮影をした17日間は僕にとって魔法のような時間でした。ヴェンダースと一緒に東京にいたら、街の見え方が途中で切り変わって、東京で海外ロケをしているみたいな気分になったんです。
 
川村 その気分は、『PERFECT DAYS』を観ながら僕も感じました。ソフィア・コッポラが撮った『ロスト・イン・トランスレーション』(2003年)は新宿が舞台でしたが、見飽きた街なのに切り取り方がちょっと違うだけで、こうも変わって見えるのか、と驚いたことを思い出しました。あと、今の話ですごく面白かったのが、この人間が何を好きで何が嫌いで、どういうルールで生きているか……と、高崎さんがヴェンダースから質問攻めにあったというところ。



 
高崎 そういうことってシナリオを作る時に、やると言えばやるじゃないですか。でも、質問の角度がだいぶ違う。僕、シナリオの書き方本なんかによくある、「登場人物たちの履歴書を作りましょう」というやり方が苦手なんですよ。
 
川村 めっちゃ分かります(笑)。何年何月生まれで、こういうお母さんとお父さんのもとで生まれ、こういう中学校を出て、こういう仕事をして……という履歴書を作っても、あまり意味がないと思う。大事なのはディテールだと思うんですよ。坂元さんも履歴書的なものを最初に作るんですけど、そこで何を書いているかというとディテールなんです。例えば『怪物』の瑛太くん演じる保利でいえば、「子どもの頃、彼は埋めてあったはずの井戸に落ちて出れなくなったことがある。井戸の底で半日待っても誰も助けが来なかった」みたいな(笑)。彼の人生を決定づけたようなディテールだけが書いてあるんです。それによって、「ああ、この人は昔井戸に落ちて、誰も助けに来てくれないっていう気持ちを半日間にわたって味わった人なんだな」というのが、瑛太くんの中に入っていくんですよね。
 
高崎 役者も、生年月日を教えられるより、そっちのほうが全然やりやすいですよね。「疑り深い」ってだけだと、「疑り深い」にもいろんな種類や度合いがあるけど、なぜそうなったかっていうディテールがあると、共感まではいかないけど理解できるようになると思う。
 
川村 諦観とセットの絶望を持っている人だっていうふうに受け取りますよね、演者が。そういうディテールについて、ヴェンダースは質問を繰り返したのかなって感じました。
 
高崎 僕らも撮影の途中まで、主人公の人生を俯瞰した履歴書みたいなものを作ってはいたんです。でも、ある日急にヴェンダースに呼ばれて、あのテレビドラマみたいな設定は全部捨てよう、と。5枚ぐらい、ばーっと紙に書いてきたメモを渡されたんですよ。そこには平山って男が人生における一筋の光とどうやって出会うか、それに対して何を感じたのかが、ポエムのような文章で書かれていた。そのポエムが、この映画にとって大きなポイントになったんです。
 
川村 映画の中で、役所広司さんが演じる平山は「木漏れ日の夢」を観るんですよね。
 
高崎 そう。「木漏れ日」っていうのがずっと大事なテーマだったんだけど、なぜそれを大事だと彼が思ったか。安い設定じゃなくて、もっと深いところでわかるようなポエムだったんです。すぐ翻訳して役所さんに見せたら、「難しいねー」って(笑)。
 
川村 僕は有楽町にSTORY inc.の仕事場を作った時、二俣公一さんという福岡の建築家に設計をお願いしたんですが、やれ壁の色をこうしてくれとか、こういう家具を置いてくれとか、いろいろ思ったんだけど、それはプロがやることだからとグッとこらえてシナリオを書いたんです。8人の社員、つまり8人の登場人物たちが、仕事場でどう生きて、働いているか。例えば、この人は朝来たらたいていスターバックスのコーヒーを飲んでるんだけど、ちょっとこぼして机が汚れてるとか(笑)。1日の朝から晩までの社員の動きをシナリオにして、建築家に渡したんです。そうしたら、「こんなにわかりやすい発注書はない」と言ってくれたんですよ。建築も映画も、街作りもきっと同じで、人間がどういうディテールを生きてきているかって情報が大事だなって、最近よく思うんです。


5.

川村 高崎さんとはなんだかんだで15年ぐらいの付き合いになるんですが、それぞれ全く違う仕事を続けてきたところで、2023年の春にカンヌのホテルのカフェでアッセンブルした。その偶然を導いたのは何だったかと言えば、2人とも「映画が好きだった」って単純なことだったりするんですよね。
 
高崎 『PERFECT DAYS』のおかげで海外のいろんな映画祭に行くんだけど、この間はニューヨークで映画批評を書いている人たちと会ったんですね。初めて会う人たちなんだけど、映画を知っていると会話ができるんですよ。「あのスウェーデンの映画のあのシーンよかったよね」「たばこの煙のところだろ?」って、超盛り上がったんです。映画って、世界中で通じる共通言語なんですよね。映画好きって、本当にイイですよ。ただし問題は、できるだけ邦題じゃなくて英語のタイトル、原題を覚えておかないと話が通じない。『わたしは最悪。』の原題が思い出せなくて、だいぶ会話が迷子になっちゃったんです(笑)。
 
川村 高崎さんとは15年来、映画の話をしてきました。これからも、こうやって映画の話をし続けるんだと思います。

高崎卓馬 1969年福岡生まれ。クリエイティブ・ディレクター。 ACジャパン「クジラ」でADFESTグランプリ、カンヌ国際広告賞銀賞など受賞。数多くのメジャーキャンペーンを手がけ、2010年度「クリエイター・オブ・ザ・イヤー」に選出される。2011年、JR東日本「MY FIRST AOMORI」でTCCグランプリ受賞。JR東日本「行くぜ、東北。」、サントリー「ムッシュはつらいよ」など数々の広告キャンペーンを手がける。著書に、「表現の技術」(中央公論新社)、小説「オートリバース」(中公文庫)、絵本「まっくろ」(講談社)など。また、映画『ホノカアボーイ』(2009年)では、脚本・プロデュースを担当。今年の東京国際映画祭のオープニング上映となった『PERFECT DAYS』では共同脚本とプロデュースを手がける。カンヌ映画祭コンペティションに出品され、世界から注目を集める話題作となった。日本では12月22日より全国公開。



 
トークセッション終了後は、観客を交えた立食パーティーが開かれた。この日会場に集まった年齢や性別も違えば仕事や家庭環境も異なる、けれど「映画好き」という一点で共通する人々は、夜が更けても熱く会話を交わし合っていた。
 

第5回「STORY STUDY」
2023年10月25日 有楽町micro FOOD&IDEA marketにて開催
構成・文:吉田大助  写真:澁谷征司  編集:篠原一朗(水鈴社)