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【千葉県 千葉市緑区】ホキ美術館  世界でもまれな写実絵画専門美術館

見る人を圧倒する現実以上のリアリティ

写実絵画と聞いて、「写真のような絵」と思われる方も多いのではないでしょうか。ところが、実際にホキ美術館で写実絵画を見ると、写真よりもリアルな表現に驚かされ、現実以上に現実的で、多くのことを訴えかけてくることを実感します。
「写真ならば主役のモチーフにピントを合わせると背景がぼやけますよね。でも写実絵画は画面の全てにピントが合っているので立体感や迫力が圧倒的なんです」と説明してくれたのは、ホキ美術館の広報を担当する安田茂美さん。開館当初、美術館を訪れる方は口々に「写真みたいにすごい絵」と感心していたそうですが、最近は「写真と全然違う。写実絵画ってすごい」と感想を漏らす人が多くなっているそうです。「インスタグラムなどで、日常的に写真を撮ったり見たりしているから、その違いがすぐに分かるのでしょうね」と安田さん。美術館のクオリティの高さはSNSなどでも広がり、取材に訪れた日も、年配のご夫妻や若いカップル、さらには学芸員資格の取得を目指している大学生グループなど幅広い年代の人で賑わっていました。

ホキ外観inn用トリミング

<<↑↑ホキ美術館外観↑↑ 地上1階、地下2階の三層の長い回廊を重ねたギャラリーで、一部宙に浮いている部分もある。「日本建築大賞」のほか「千葉市都市文化賞2011」、「千葉県都市文化賞優秀賞」を受賞している。>>

気の遠くなるような作業が生み出す迫力

 ホキ美術館は日本初の写実絵画専門美術館として2010年11月に開館しました。日本の写実絵画界の重鎮である野田弘志氏や中山忠彦氏をはじめ、絶大な人気を誇る森本草介氏、注目の作家 島村信之氏や生島浩氏など約60作家480点を所蔵しており、そのなかから常時約150点を展示しています。開館に先駆け、安田さんは約2年かけて作家のアトリエを訪ねインタビューを行っています。モチーフや技法はさまざまですが共通しているのは、薄く溶いた絵具を何層も塗り重ね、仕上げの段階では極細の筆を使って細密に描き込んでいくことだといいます。気の遠くなるような作業を要するので、ほとんどの作家が1年に数点しか描けないそうです。作品からは、作家と対象物の息をのむような濃密な時間の重さが伝わってくるようです。

ホキ絵画inn用トリミング

<<↑↑森本草介《横になるポーズ》1989年↑↑ セピアトーンの画面のなかで静に佇む女性像を多数描いた画家。2015年に逝去するまで、千葉県鎌ヶ谷市に自宅とアトリエを構えていた。ホキ美術館は森本氏の作品を36点収蔵していて、氏の作品の最大の収蔵者でもある。>>

写実の殿堂を作りたいという真摯な思い

 美術館を創立し初代館長を務めたのは、医療製品のトップメーカーである株式会社ホギメディカルの創業者であり現在は名誉会長の保木将夫氏です。もともと絵画が好きで、海外で絵を買っていた保木氏が写実絵画のみを集めるようになったのは、1995年頃に展示会で森本草介氏の『横になるポーズ』を見たことがきっかけでした。やがて自宅の隣家を展示場兼収蔵庫にし、コレクションを年に2回近所の人にお披露目していたところ、それが話題を呼び、1日に1000人もの人が訪れるようになり、美術館設立を決意したのだといいます。
 美術館の建物は、このコレクションのために設計されたもので、設計したのはホギメディカル本社ビルの設計を手掛けた日建建設です。社団法人日本建築家協会による2011年度「日本建築大賞」に選ばれているほか、千葉県や市の賞も受賞するなど評価が高く、建物も一見の価値ありです。

ホキ虫inn用トリミング

<<↑↑島村信之《夢の箱》2017年↑↑ 繊細な表現の女性像で人気を集める島村信之氏の新境地ともいえる本作は、ホキ美術館に展示するために描きおろした作品であり、現代写実絵画の未来を示唆する作品。「これまでの画業の中心は女性像の表現の探究でした。ホキ美術館の開館以来、それ以外の作品の制作に取り組む必要性を強く感じるようになりました」と作家自身も語っているそうです。>>

千葉県からアートの新潮流が生まれる予感

 フェルメールやレンブラントにもつながる写実絵画の魅力を人々が再発見するきっかけを作ったともいえるホキ美術館。2011年にはスペインのバルセロナにも現代の具象絵画の展示を行うヨーロッパ近代美術館(MEAM)が誕生。エアブラシによるスーパーリアリズムはあったものの本格的な写実絵画の土壌がなかったアメリカにも写実絵画のムーブメントがおこりつつあります。
 ホキ美術館では、写実作家の支援に尽力していることも注目すべき点です。積極的に絵画を買い上げることで創作活動を後押しているほか、「ホキ美術館大賞」を制定し新進作家の発掘にも力を入れています。作家にとっても写実絵画が一堂に並ぶ機会は大きな刺激になるようで、島村信之氏の『夢の箱』のような斬新な作品も誕生し、現代写実絵画の流れを作っています。
 精緻な描写で対象が内包する本質をも描き出す写実絵画。その魅力と力強さをその目で確かめてみてはいかがでしょうか。


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