6/6 俺はチョロイン

一月程前に、通っている歯医者の担当医が変わった。

これまでは俺と年齢の近い男性だったが、ここ最近歯医者でその顔を見ない。他の歯医者に転勤したのかもしれない。

次に俺の担当となったのは今までその歯医者にいなかったはずのおばちゃんだった。途中でちょくちょく院長に手順の確認を取っていたので、経歴自体は不明でも、少なくともここに来たのはごく最近なのは間違いない。

正直凄く嫌だった。
全くの未知、という以上にその人を信用しない要素はないが、歯医者というのは何年も通って治療の過程が積み重なっていくものだ(俺の場合は。歯の悪い場所がクソ多いので)
勿論カルテに何をどうした位は記されている筈だが、担当医とコミュニケーションをして治療を行った過去までは引き継がれない。ここはどうしてこの治療をしたのか、その意思決定は俺とこれまでの担当の間で積み重ねたものだ。

他の医者ではそこまで敏感にはならないが、歯医者となると話は別だ。
歯は一生物なのと、治療に痛みが伴いがちだから。
全身麻酔でもしない限り、仮に麻酔をしていようとも神経に近い部分の治療はどうしても痛みが伴う。実際に痛いかどうかは俺にも医者にもわからないからそれは受け入れるしかない。
(痛かったら手上げて下さいねって言われるじゃないですか。アレって歯医者側も「あ、ここ痛いんだ」って知る為らしいですよ)
ボクサーが殺人許可証を持っているなら歯医者は合法的に拷問する権利を持っている。
だからこそ、どこの誰かもわからない人に歯の治療をされるのは凄く怖いし嫌だ。

担当医が変わってから2週間後位に、そこそこデカ目の虫歯を治療する事になった。神経に肉薄する可能性があるので麻酔を打つと事前に聞かされた。

凄く嫌だ。歯医者で一番嫌な事は削られてる時の痛み、二番目に嫌なのは麻酔の注射。

針を刺される痛み自体は(最終手段の神経直ぶっこみ以外は)そこまで苦手じゃない。それは覚悟の決まってる痛みだから。
歯の麻酔で嫌なのは、麻酔を打ち込む時に医者の手がめちゃくちゃ力んでいるからだ。グッと押し込む時にプルプルと手が震えてるのが伝わる。それが怖い。
力んで作業してる時、ちょっと手元が狂う感覚がわかるだろう。強く押さえつけてるものがズルっと滑るようなアレ。
自分の歯茎に深々と針が刺さってる状態で、「あっ」っと手元が狂ったらどうなるんだ。そんな光景がありありと浮かぶようなあの瞬間がとても苦手だ。誰も悪くないのに1ミスで大惨事が起きるかもしれないのが本当に嫌だ。

正直ブッチしてやろうかと脳裏によぎる程嫌だったが、虫歯というのは自然治癒しないので、ここで逃げるともっと悲惨な事になる。なってきた。
だから腹を括って、まだ信頼を委ねていないおばちゃんに俺の歯を委ねる他ない。

椅子に座り、口内チェック、塗る麻酔をして、ついに麻酔を打ち込む。
スッと針が通る。
……まず刺す痛みがなかった。確かに塗る麻酔の使い方がこの歯医者で経験したどれよりも丁寧だったが。
そして麻酔がグッと打ち込まれ……
終わる。
なんの力みも感じさせずに。初めて拳銃を撃ったミスタ位冷静に麻酔を注入し終わっていた。

あ、この人多分ベテランだわ。
コハダが美味い寿司屋位信用していい人だわ。

なので今はその先生をめちゃくちゃ信用しています。
俺が知りたがりなので「今ってどういう治療ですか?」「どういう理由でこうなるんですか?」みたいな事を聞きまくってしまうのだけど、それを逐一教えてくれるところでも「相性いい人だわ」センサーがビカビカになっている。

この間は歯削った所を埋める前に「こんくらい削られたんですよー」って見せてくれたりもした。わー。俺の虫歯こんなにデカかったんすねー。

来週も通います。


【今日の裏メニュー】
虫歯の気づき(その2)

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