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シャドウを潰せ

日々SNSを見ていると「この写真盛ってるな」という画をよく見掛けます。2000年前後、フィルムからデジタルに乗り換えた人達が初めてフォトショップを使ってコテコテに盛っていたあの時代、すでに絶滅したかと思っていましたが、しぶとく生き残っていたんですね。最近ではエフェクト系のフィルターが内蔵されているカメラも多く、ビビットカラーをデフォルトで使っている猛者もいるようです。この手の写真はパッと見派手で一般受けしやすいので、いいね欲しさに盛りすぎる人が一定数いることに不安を感じます。これが作者の力量によるものだと思われたら、日本の写真文化は終わりです。

RAW現像時に多少の補正を加えることは普通にありますが、それでもやりすぎると階調は破綻して色ムラだらけ、モアレが目立つひどい画になってしまいます。プロやハイアマと言われる人達は、ギリギリの線を見切っているので、一線を越えないように調整しているのです。もうひとつ危惧しているのがHDR、ハイダイナミックレンジの略称で、シャドウ部を持ち上げて明るさを均一化する表現方法です。夜景など一部の被写体には有効な手段ですが、これもやりすぎるとメリハリが損なわれ、平面的で薄っぺらい写真になってしまいます。

私が写真を始めた頃はフィルムの全盛時代、カラーネガの場合はダイナミックレンジが広く、メリハリの効いた写真を撮ることが難しかった記憶があります。ところがポジフィルムを使うようになると露出の補正幅が極端に狭くなる一方で、メリハリの効いたインパクトのある写真が撮れたことに感動しました。それでもフィルム代や現像代が高かったので、日常的に使うことは出来ませんでした。デジタルカメラに乗り換えた頃、黎明期のデジカメはダイナミックレンジがポジ以上に狭く、すぐに白飛び黒潰れが出てしまうような感じでした。そこで覚えたことが、白も黒も必要な色なので、飛ばすところは飛ばして潰すところは潰すでした。白飛びも黒潰れも表現の方法として理解していたのです。

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ところが最近のデジカメはダイナミックレンジが広く、白飛びや黒潰れをマイナスに捉える人が増えてきたことも原因のひとつかもしれません。普通に考えれば、空を深い色にしようと思ったら空の一番明るい部分で測光して、マイナス側に補正をかけます。当然地上は暗くシルエットになりますが、地上も明るくしようと思うから安易にHDRに頼ってしまう、結果違和感が出てしまうわけですね。もちろん、そのあたりは好みの問題なので、ジジイは黙ってろ!と怒られるかもしれません。

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写真は引き算と言われます。強調したい部分を前面に出して、それ以外は足すのではなく引くのです。私の場合は空景がメインですので、空を強調したいなら地上はシルエット化して脇役にしてしまいたい。主役を引き立てるには脇役も必要ですが、主役を食ってしまったら成り立たちませんので、主役より目立ってはいけません。HDRの場合、主役も脇役も同じ位置に来てしまうので、何が主題なのかわからなくなってしまう傾向があります。HDRという技法を否定するつもりはありません、使うなら主役を食わない程度にと言いたいのです。何ごとも度が過ぎると良くありません。

新しい感性を認めながらも自分の作風を見失わない、安易に流行りに乗って賞味期限の短い作品は撮りたくないと思う、昭和生まれのオジサンでした。

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