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トルコで落とした最新iPhoneが手元に戻ってきた話


日本は、いい国だ。

おサイフを落としても、
携帯電話を落としても、
おばあちゃんの形見の指輪を落としても、
かなりの高確率で持ち主のもとへ戻る。

日本人のパーソナリティには本当に頭が下がる。
すばらしい文化圏の中に生まれたな、と思う。


"そんなの、海外じゃありえないよ"

みんな口を揃えて言う。
私も、そうだと思っていた。

―今回は、トルコで落としたiPhoneが私の元に戻ってきたエピソードをお話させていただこうと思う。



これは2015年の春に、トルコ西部の町"イズミル"を訪れた時の出来事だ。

昨晩イスタンブールから夜行バスに乗ってこの町にやってきた。


バスでは、一睡もできていないが、まあ大丈夫。
20歳やそこらだ。若さで乗り切れる。


夜行バスは、夜が明ける少し前にイズミルのバスターミナルに到着。

降車後、市街地へ向かうためにローカル路線バスに乗り換える。

事件はここで起きてしまう。

路線バスの座席につき、緊張が緩んだのかついうとうとしてしまい、手に持っていたiPhoneを床にボトッと落としてしまったのである。

だが私はそれに気がつかない。
"うとうと"は思いのほか深かった。



目的地のバス停でハッと意識を取り戻し、
ドタドタとバスを降りた。

そう、私は日本人だ。

日本人は電車で寝ていても、
目的地の駅で目を覚まして降りる。

そういう血の流れる民族なのだ。

目的地で目を覚ますことにおいて、
我々の右に出る者はいない。



バスを降り、ふう、とため息をつく。
それから深呼吸してみる。やっと着いた。

温暖なエーゲ海の空気が感じられる。


町の写真を撮っておこうと思い、
iPhoneを鞄から取り出そうとするが、
すぐに出てこない。

おかしいな、と
よく探してみるが、ない。

どこを探しても、ない。


―やらかしている。

完全に、やらかしている。


あのバスだ…
あのバスで落としたに違いない。


よく思い出してみると、
うとうとしていた時に足元で
"ゴトッ"と音がした気がする。


あの音…(遠い目)


しばらく呆然と立ち尽くした。
時間が止まったような感覚だ。



あたりを見回すとバス停の近くに、
大きめのローカルなホテルがあった。

レセプションのお姉さんに事情を話し、
バス会社に電話をさせてもらえないかとお願いしてみる。

お姉さんは、

「地元の小さなバス会社だから、トルコ語じゃなきゃ無理よ。アタシが話したげる!」と電話をかけてくれた。

が、早朝だったためか、誰も出ない。


お礼を言ってホテルを出て、
先ほどのバス停に向かった。

同じ路線バスの運転手さんに事情を話してみよう、そう思ったのだ。


10分ほど待つとバスがやって来た。

運転手さんに事情を説明しようとしたが、
なかなか英語が伝わらない。

が、乗客の中に「私、英語の通訳できるわよ」という女性が現れ、見事に助けてくれた。


ねえ、先ほどに引き続き、なんで見ず知らずの旅人にそんな優しくしてくれるのか…

女性から私の事情を聞いた運転手さんは、

「この便は、バス会社の車庫行きだよ。車庫の隣には事務所があるから、乗って乗って!」と、私をバスに乗せてくれた。


バスは、会社の車庫に到着し、
私と運転手さんは一緒に事務所へと向かう。

運転手さんが事務所のスタッフに事情を話をしてくれるが、雰囲気から、私の落し物はなさそうだ。運転手さんは私の方を向いて横に首を振る。

そりゃ、そうだよな。
ここは日本じゃない。

iPhoneを落としたショック、不甲斐なさ、情けなさ、いろいろな感情がごちゃ混ぜになり、涙が出てくる。

運転手さんが、ベンチにでも座ろう、
と席をすすめてくれる。

私が座ると彼はどこかに行き、
いなくなってしまった。

しばらく一人で泣いていると、運転手さんがチャイとクロワッサンを手に戻って来た。

「これを食べて。泣かないで、大丈夫だから」

言葉はまったく通じないのに、
何を言っているかのかわかってしまう。

こんなに温かい人たちに出会えたんだ。
それだけで十分だ。

もう、iPhoneなんか見つからなくていいや。


その時、運転手さんの携帯電話が鳴る。

電話に出た運転手さんは何かを話したあと、
こちらを向いてにっこり笑う。

「見つかったよ」


泣き止んでいたのに、また泣いてしまった。

一緒に事務所に行くと、
若い男性スタッフがiPhoneを渡してくれた。

待ち受けがトーマス・クレッチマンの、
私のiPhoneだ。


若い男性スタッフは英語で私にこう言った。

「なーんにも心配することなんかなかったんだよ。ここはトルコなんだから」


たしかにそうだ、その通りだ。


運転手さんにトルコ語でお礼を言って、
ハグをさせてもらい、
市街地に戻るバスに乗った。

テシェキュルエデリム。

ありがとう。

この出来事は、ずっと忘れずにいる。

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