見出し画像

【夢日記】雲をつかむような

深い霧のなか、ぼくは車を走らせている。

時間は深夜の二時半過ぎくらいだろうか。きょうも遅くまで働いて、力尽きて、遠い自宅までまっすぐに帰り着くことはなく、途中の停車場で仮眠をとったりなぞしながら、車を走らせている。

濃い霧に、前方は見えていないも同然だが、毎日運転している幹線道路であるだけに進むべき方向の見当はついている。ぼんやりとした白いもやもやに、ぽつぽつと車のヘッドライトだの街灯だのが見えている。

腹の虫が鳴る。
当然だ、きょうだって休憩も食事もなく働きづめなのだから。

きょうは帰ったところで、まだ眠るわけにも行かぬ。
仕事はきっと明け方までつづくだろう。

仕方なく、二十四時間やっている牛丼屋に立ち寄ることにする。

霧で真っ白な停車場でエンジンを止めて、抜いたキイをポケットに放り込むと、ぼくはやおら牛丼屋に入店する。

帰り道に最近できた新店舗。

果たして、店内も霧が垂れ込めているありさま。いちいちタッチパネルで注文するようになっているのだが、いかんせん、霧が濃くてタッチパネルがよく見えないのだから困る。

ひどい近眼の者の如く、画面を極端に引き寄せながらヤットのことで並盛の牛丼を注文した。ほどなく、ぼくの牛丼をこしらえたことを示す店内放送が聞こえたからカウンターまで取りに行ったものの、給仕してくれる店員の顔が霧で見えない。

「お待たせいたしました」とか云ったような気もするが、チョットよくわかりかねる。

白いベール越しの食事はドウにも味気がないような心持がする。飯を喰っているあいだにも空気はしっとりとしていて、頬の湿ってくるような感じもする。

実際、ぼおっとしていたのだろうか。雲をつかむが如き箸の感触に戸惑っていたそのとき。

目の前に青い光がヌッとあらわれる。

…それは、青信号だった。

ブゥーーーーーーーーーーーーーン!

と轟音を立ててスポーツカーがとんでもない速さでとなりの車線を駆け抜けていく!ぼくはどうにも国道の交差点で信号を待ちながら眠りこけていたようだった。


夜な夜な文字の海に漕ぎ出すための船賃に活用させていただきます。そしてきっと船旅で得たものを、またここにご披露いたしましょう。