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【夢日記】収監

ぼくはこれから収監される。

なにをしでかしたのかは、思い出せない。しかし、ぼくは確かに何らかの罪を犯して、これから収監せられるのだ。ぼくについた弁護士先生はよくやってくれた。ぼくの刑期は本来の求刑よりもうんと短くて済むらしい。むろん、感謝はしている。でも…とぼくはため息をついた。

実刑を受けるような犯罪者は、矢張り職を追われないわけにも行かないのかしらん。

もし然うだとしたら、後に残されるぼくの家族はこのあとどうやって食っていかれるのだろうか。それを思えば、もうひとつおまけにため息が出る。

自分のしでかしたことはどうしても思い出すことができないのだが、もしもそんなにもちっぽけなことならば、そんなくだらぬことで他人に迷惑はかかるまいとも思った。ぼくの罪はドーナツのかたちをしており、黒くて長くさらさらとしており、お菓子のように甘くべたべたとしていて、横文字の活字のようでもあった。犯行には数年を要したような気がする。それはどうしても仕方のないことだったし、避けられようもない、罪というよりは不運な事故のようでもあった。そういう、一連のよくわからない印象がぼくの意識にどっと去来したが、とどのつまり自分が何の咎で牢獄に放り込まれるものやら、どうしても思い出せない。

「あっ」…と思ったときには、書斎の仕事机で前後不覚に陥っていた自分に気がつく。勉強をするでもなく、読書が進むでもなく、仕事が捗るのでもない。

ただただ、泥のような闇。

それが不機嫌なる朝の光から逃げるように霧消して行き、後には頭痛と疲労と出勤しなければならない現実とだけが残されるのである。

夜な夜な文字の海に漕ぎ出すための船賃に活用させていただきます。そしてきっと船旅で得たものを、またここにご披露いたしましょう。