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【夢日記】邂逅
大学のキャンパスに居る。
いまのように色々の建物が増改築されない前の、自分が入学したばかりの頃の、ツマリは二十年も前の、在りし日のキャンパスである。ぼくはモウ、「嗚呼、夢だな」と思った。それでも夢は醒めないのだから仕方がない。少しく歩き廻って見る気になった。
よく生協で握飯やパンを買っては座って喰っていた、懐かしいベンチを見つけた。よく此処で雀に米粒やパン屑を投げてやったものだ。
腰を下ろすと、なにやら、ミャアミャアと聞こえてくる。辺りを見渡すと其処には、何でも、ケージに入った汚らしい猫が一疋居た。毛皮はぼさぼさとしており、目ヤニが非道くてまともに目も開けられないようだ。莫迦に痩せており、骨と皮ばかり。厭な夢だな、と自分は思った。
それでも、夢から醒めない。
仕方がないから、自分は此の猫になにか喰わせてやる気になってきた。生協の購買に這入って、食い物を探してやる。珍妙な購買で、食い物があるにはあるのだが、ソーセージやら、サラミやら、加工肉みたようなものばかりが陳列せられている。近所の肉屋と間違えたのかしらん、とも思ったが、壁に貼ってある購買部の職員が学生の声に応える掲示物を見て、確かに大学の購買であることを確認する。
店頭には無闇に肉ばかり置いてあったのだが、結局、ぼくはパック入りの廉価な生ハムを買うことにした。どうしてかは皆目わからない。わからないけれども、何故だか、この生ハムはあの猫の気に入るような気がした。現実には塩分がきつすぎて、猫には与えない方が良いにしても。
猫のもとに戻ったぼくは、生ハムを食べやすいように小さく千切って猫に与えた。余程なにも食べていなかったのか、猫はチョット驚くような獰猛さを見せて肉に喰らいついた。全部千切ってケージに塩漬け肉を放り込むと、途端にぼくは汚らしい猫への興味を失った。
横目に長い行列が見える。
嗚呼、みんなバスに乗るのだな、と思った。どういうわけか並んでいるのは若い女学生ばかりだったが、其れに混じって、四十手前くらいの男性も列の先頭にいる。のろのろとバスがやってきたが、先頭の男性がなにやら運転手と押し問答をしている。
よく聞こえないが、バスはどこかの女子大学行きであるらしく、運転手は「…女子大行きだ、本当に乗るのか」というようなことを男性に云っているが、男性は「自分は教員である」とかいうようなことを云っているようだ。
ハテナ、何処かで聞いたような話だ。
そう思っていると、女子学生らの或る者は男性に好奇の眼差しを向けてはくすくすと嗤い合って、また或る者は侮蔑の眼差しを向けている。傍目にも気不味い、不穏な空気が漂っていた。
そのときに、ぼくはすべてを了解した。「嗚呼、あの先生…」
…目を醒ましたときには、時計は既に正午をまわっていた。三週間ぶりの休日は、汚らしい猫の目ヤニとともに、既に半分が溶けかけていた。
夜な夜な文字の海に漕ぎ出すための船賃に活用させていただきます。そしてきっと船旅で得たものを、またここにご披露いたしましょう。