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【夢日記】猫

フローリングの床。白で統一された、さっぱりした雰囲気の部屋。小洒落たアパート。

レースのカーテンからは、爽やかな日差しが漏れてきている。小鳥のさえずりさえ聞こえてくるようだ。

ぼくはクローゼットから、やおらひとつの段ボール箱を取り出す。箱には大きなビニール袋に収納された荷物が這入っている。

コストコか何処かで買ってくる大きな塊肉のようにあまりにも事務的に、無味乾燥に其れは包装せられている。

どさっと云う音を立てて床に落ちたのは、果たして白猫の胴体である。
白猫の頭は段ボール箱の底の方に小さめの袋に入れてある。

首のない白猫の軀は、両の前足を奇妙に湾曲させた状態で硬直している。

袋から無造作に取り出すと、ぼくは其れを床にどっと置く。首を落とされ、すっかり羽をむしって人間が喰うばかりになった鶏肉を、其れはぼくに想起させる。其軀は冷たく、硬直して、しかもべたべたと厭な感触である。

「あッ…」

とぼくの喉からわずかな声が漏れる。猫の首の切断面から液体がとろりと漏れ出してきていて、じわっとフローリングの床に円形をつくっていく。但し、其れは如何見ても血液ではない。

其れは、明るい空色をした粘液だ。
まるで食器洗い用の中性洗剤か、さもなくば洗濯機に放り込む柔軟剤かなにかを思わせる。

ぼくは広がっていく粘液を見て呆然としているのだが、其処でミャーっと云う鋭い猫の声が耳に飛び込む。段ボールのなかで猫の首が発した声であろう。

其れに合わせて、猫の首の切断面からはごぼごぼと厭な音がして、空色の粘液がさらに溢れ出てきている。ぼくは、必死になって猫の胴体を手で抑えようとする。然し、其れはいまや、首が無いくせに渾身の勢いで以て抵抗する。湾曲した前足が痙攣を繰り返している…

……。

…と思ったところで、目が覚めた。じっとりと厭な汗をかいている。車の運転席にいる自分に気がつく。ぼくはエンジンをかけると、のろのろと車を発進させて夜明けの国道を家路に就くのだった。

夜な夜な文字の海に漕ぎ出すための船賃に活用させていただきます。そしてきっと船旅で得たものを、またここにご披露いたしましょう。