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【夢日記】首が落ちた話

通勤電車に乗っている。

いつも同じ時間の同じ電車に乗るので、口を利いたことはなくとも何となく見知った顔ばかりが、出荷される家畜のように毎朝電車に揺られている。

自分は座っている。電車内は満員と云うほどでもないが、座れずに立っているひともかなりいる。立っている乗客の向こう側には女性が座っている。これも名前さえ知らないが、いつも見かける顔である。きりっとしたスーツ姿の綺麗なひとで、自分は彼女の顔をついぼおっと見ている。

こちらの視線に気づいたのか、彼女がふと顔を上げる。けげんな表情。もしかして、こちらの視線を不快に思ったか。しかし、目が合わない。自分の顔と云うよりも、少し左の方を見ているようにも感じられる。

自分はつい左を見るが、いかにも堅物という感じの背広の男が新聞を読んでいるだけ。やはり自分の顔になにかついているのか、と思い、自分は携帯電話を出して自分の顔を自撮りの画面で確認する。特に異状はない。

携帯電話の画面を切ったときに、ふと、妙なものが真っ暗な画面に映る。

首のない背広姿の自分。そこには顔が、否、頭がない。思わず携帯電話を取り落とす。「まもなくぅ、……。……です。お忘れ物ないよぉにぃ、お手回り品、いまいちどぉ、ご注意くださぁい」独特な抑揚の車掌の声が聞こえてくるが、駅名はよく聞き取れない。拾った携帯電話の真っ暗な画面にもう一度自分の姿を映してみるが、果たして、そこにはちゃんと首がついている。あれは、気のせいか。

正面を見ると、立っている乗客の隙間にあの女性が見える。

自分はそれを見てはっと息をのむ。女性の首がない…。首のない、スーツ姿の女性がきちんとした姿勢でそこに座っている。キキィーっという嫌な音を立てて、電車が停車しようとする。乗客たちがバランスを崩して体を揺らすので、女性の姿がそれに隠れて一瞬見えなくなる。そうして、また、乗客の隙間から再び女性の姿が覗く。

ある…。女性の首はちゃんとそこにある。
まるでハンドバックのように、女性の膝の上に行儀よく収まっている。

……。

おれは転勤してからというもの、毎日一時間以上かけてクルマ通勤じゃないか。いったい、これはどこの路線なんだ。

…と思うと、自宅の仕事机で前のめりになって眠り込んでいる自分に気がついた。どうも最近疲れているらしい。

夜な夜な文字の海に漕ぎ出すための船賃に活用させていただきます。そしてきっと船旅で得たものを、またここにご披露いたしましょう。